茶会と思い出話
「あの……何をしてんですか一体?」
「見ての通りよ。やかましいから黙らせておいたの」
「だからってゴミ箱に突っ込むのはだめでしょうよ!」
豊田さんは下半身と手首から先しか見えない状況にある。直立しているゴミ箱に、頭から突っ込まれて突っ込まれているのだ。
「だいじょぶだいじょぶ。本来のやつは別にあるし、あれは豊田専用のゴミ箱だから」
「いや専用ってなんですか!」
さすがにこのままでは豊田さんがやばい。すぐに立ち上がってそこに近づく。
「凛! 黒羽! ゴミ箱の方持っててくれ! 俺がこの人引っ張り出すから!」
「あ、はい!」
「お騒がせな人ですね」
ともあれ二人の協力もあって、豊田さんを引っ張り出すことには成功した。
「すまんな。助けられた」
「ホントになにがあってのことなんですか」
「少々驚くかもしれんが、これがいつもの事なんだよ。時雨の奴は何かと乱暴なんでな」
いやいや。少々ってレベルじゃないですよ? かなり驚きましたよ! それはもうって感じに驚きましたからね。
そういうことになる人を初めて見ましたからね!
「なら私に喧嘩売るのをやめにしなさいよ。何度やったって私には勝てないんだから」
「お前の方が偉そうな言い方をするじゃねぇか」
「あら。それは褒め言葉と受け取っていいのかしら?」
「いつまでも時雨の方が偉いと思うなよ」
「二人ともー。祐真君たちがいる前で喧嘩はやめてよー」
目の前でまた、豊田さんと時雨さんの口喧嘩が繰り広げられようとしていたが、夢咲さんと音羽さん。それから俺たちの仲裁もあって何とか堪えた。
のは……はいいんだけど、嫌悪なのは変わっていない。俺らが出ていったあと、近くでやり合わないことを祈りたいものだ。
「お見苦しいところ見せてごめんなさいね」
「あぁいえ……夢咲さんも音羽さんも。だいぶ苦労なさっているってのがよくわかりました」
「僕らは慣れっこなんだけどね。その度に止めるのにも手を焼いているのだけどね」
「あの……今一度落ち着いたところでお聞きしても宜しいですか」
「いいわよー。何かしら凛ちゃん」
「この同好会を作ることになったきっかけについて知りたいと思いまして」
「そうねー。丁度いい機会だから、思い出話もいいかなーって」
「それじゃあ僕が紅茶淹れるから、ちょっと待っててね」
音羽さんに紅茶を淹れてもらい、部室に常備しているというお菓子をお茶請けにしてもらって、ゆっくりと話を聞くことにしました。
紅茶は出されでもしない限りは飲むことはないんだが、上品ないい香りが漂ってくるのが分かる。
「美味しいですねこの紅茶。香りもいいです」
「ありがとう。紅茶にはこだわりがあるからね。とはいうけどただの市販の奴で、お高いブランドものとかじゃないんだけどね」
「音羽君の淹れてくれる紅茶は格別だからねー。こうして集まる時は、これを飲むのがお決まりみたいなものなの」
「紅茶……初めて飲みましたけど……緑茶とは違った風味がありますね。独特のさっぱりとした感じがします」
「凛さんの言うように…このクッキーと良く合いますね」
「一年の時、私と由紀奈が同じクラスだったのよ。この同好会は私と由紀奈の二人から始まったのよ」
「そうなんですか。それじゃあ豊田さんと音羽さんはあとから入ったってことですか」
「そうなるね。最初に来たのは音羽さんだったかな。同好会を作ってから三日ほどだった時に私たちのところに来たんだ」
「その後に豊田のアホともう一人男子が入ってきたのよね。確か友中って言ったと思うんだけど、二学期始まる前に諸事情あって転校して行っちゃったのよ」
「おい時雨」
変わらず時雨さんに対してはしかめっ面の豊田さんであるが、これ以上騒ぎになるのも面倒なのか。それともそうしたくないのか。話を無理やりにでも続けていく。
「じゃあ昔は五人だったんですか」
「そういう事ね。元々部や同好会の創設には、最低でも五人の署名が必要だったからね」
「そうでしたね」
「とまぁ今はこうして四人でやっているのよ。さっきみたいに、いざこざはあるわけだけどね……」
「音羽さんと豊田さんはどうしてここに入ろうと思ったんですか?」
凛が同好会の男子メンバーに尋ねていた。
「僕は興味を持ったからかな。この部屋に来て、二人と話をしていたら気があったみたいでね。あとは夢咲さんの言うように、何処か似たものを感じたから……だね」
「俺も音羽と似たような理由だ。と言っても最初に言ったのは友中のほうだったんだがな。でもはいってしばらくしてからか、あいつにも何かと深い事情ってか、なんか言われたとかって話でな……」
「親御さんとの間になにかあったんですか?それとも……」
「あぁ、いやいや。そんな不安にさせるような事じゃないんだ。素行が悪くて停学くらったってわけでもないからよ。あいつにもあいつなりに理由あっての事だったんだ」
「あぁ。そうですか」
ちょいとばかしか、この人の言い方が気になった。何かを隠しているようなそんな感じがしたのだ。
でも本人のプライバシーとかもあるから、深く聞くのはやめておこうかな。
俺のその意思をくみ取ったかのように、凜が夢咲さんに質問した。
「それで、普段ってどういうことしているんですか」
「そうねー。こうして紅茶を飲みながら雑談することもあるんだけど、気になるスポットとかがあったら皆で実際に行ってみたりとかねー」
「楽しそうですね!」
「一回、時雨の馬鹿が日本の外に出てみたいとは言ってたな」
「馬鹿っていうんじゃないわよ豊田のくせに。知ってみたら行きたくなるのが筋ってものじゃないの」
「それが無理な話って言うんでしょうが」
「また私の気に障ろうっていうのなら……」
「まぁまぁ。二人とも落ち着いて……」
一部、論争勃発寸前なんだが、そこは音羽さんがなんとかなだめようとしていた。
そんな話と、音羽さんの淹れた紅茶を片手に、放課後の時間は過ぎていくのだった。




