粋な計らい?
一年A組の教室の隅っこの方で話していた俺達は、すぐに移動することに。
一年の教室は4階なので、歩いていく分にはすぐに到着する。一分とかからなかった。
夢咲さんに言われた通りに、空き教室を探していたら一目でわかった。木製の札があって、そこには”オカルト研究同好会”と黒い字で書かれていた。
「ここだな」
「そのようですね」
「わかりやすいって言うか……私は既に異様なものを感じます……」
「やっぱしそういうのには敏感だったりするもんなのか?」
この二人なりに、人間の俺には感じ取れないものを感じ取っているのだろうか。
オカルト研究と銘打つくらいなんだから、そういうのがあるものなのか。
「なんとなくーって感じなんですけどね。京子ちゃんはどう?」
「私も微弱にですけど、不思議なものなら伝わってきますね」
「そうかい」
とまぁそんなことはさておいてと。ドアをノックした。
「夢咲さーん。架谷です」
ドアに向かって声を出してはみるんだけど、返事がこない。まさかとは思うんだが、居ない……なんてことは無いよな?
「居ないのでしょうか?」
「昼休みに言われたから間違いなくいると思うんだけどな……早く来すぎた……ってこともないと思うし」
ひとまず、もっかいノックしてみようか……って時に声をかけられた。
「君たち……うちの部屋の前でどうしたんだい?」
「あっ……」
そこにやって来たのは、眼鏡をかけた黒髪の男子生徒だった。ネクタイの色は赤色だから、夢咲さんと同じ二年生……先輩ってことか。
そしてもうひとつ思うのは背が高い。俺は167なんだけど、目の前にいるこの人はそれより十センチ以上は高い。
「君達一年か。もしかして入部希望かな?」
「そういう訳では無いんですけど……夢咲さんに見学に来ないかと誘われたので……」
「あぁそっか。君が部長の言ってた生徒か。そうかそうか。ご友人方もご一緒で」
「は、初めまして」
「よろしくお願いします」
「まぁ詰まる話は入ってからゆっくりしようか。もう他の皆もいるとは思うからさ」
「あぁ、それなんですけど……さっきノックはしたんですけど返事がなかったので。もしかしたらまだ誰も来てないのかなーって思いまして」
「あれ、そうなの?」
「はい……」
俺がさっきのことについて説明したら、先輩は不思議そうな顔をしていた。
「僕が最後だと思ったんだけどなー。まぁいいや。すぐに来ると思うから、先入って待っててよ。紅茶でも淹れるからさ」
「そう言うのでしたら……」
ということで、お言葉に甘えさせてもらうことにしました。その部屋のドアを開けて先輩が先に入っていった。俺が少し遅れて、その先輩について行ったんだが……
「!!」
とつぜん向かってきた何かによって俺の視界が塞がれた。そしてそれにぶつかった俺は、一歩二歩と後ろにバランスを崩し、尻もちついて倒れてしまった。
床に頭は打たなかった。痛みはほとんどないんだ。クッションがあったから?てか…その……前が見えねぇ……。密着している何かで俺の視界が……真っ暗…とは言わないけどクリーム色一色に。
しばらくして、ようやく俺の上に乗っかっているものがなんなのかがわかった。
「いえーい! サプライズせいこー!」
「ゆ、夢咲さん……」
案の定と言ったらいいのか。それともいつも通りなのか。今の俺の視界に見えているものは、俺の上で四つん這いになってる夢咲さんであった。
今上の方に夢咲さんの頭があって……ってことはさっきの感触ってまさかとは思いますけどそういうことなんですかぁぁ!!
倒れた時の痛みよりも強く感じた柔らかい感触って……夢咲さんの胸ってことですか!
これまでは腕に背中。そして今回は顔。感じる場所が違うと、こうもその後の心持ちは違うというのですか?!
前者二つだとこう……ちょっとでは済まない恥じらいがあった。当たってる感触とか温もりとか。
後者か?……。
いい匂いがしました。
心の中で親指を立てた。今まで味わったことのなかった至福を、心の中で大いに喜びました。
それでも顔と言動は冷静さを装う。俺こういうことは結構得意なんだよ。
「何してるんですか部長……」
「ちょっと驚かせようかなーって思ったんだけとなー」
そしたら今度は部屋の中にいるあの先輩の方を見て言った。
「でもまさか同じタイミングで音羽君が来るなんて思わなかったなー。もうちょっとでサプライズ失敗するとこだったよー。ぶーぶー」
「悪いのは僕なんですか?!」
「だってもうちょい遅くに来るもんだと思ったからさー。でも何とか合わせてサプライズは成功させたんだけどねー」
「なんというか……」
「架谷さんも、ある意味災難でしたね……」
「お気持ち配慮して頂き恐縮であります……」
凛と黒羽に言われて、ここがひっそりとした場所で、この場に俺ら以外の生徒や職員が居なかったことを幸運だったと思いたい。
拓弥らがこの光景に出くわしていたらなに言われるもんか分からなかったんでな。
「と、ともかく夢咲さん……そろそろ退いていたどけるとありがたいです」
「んー……そうだよねぇ。ここでこうしていても仕方ないからね。ほらほら。私の部室に入った入った」
ちょっと惜しいのか悩みながらも夢咲さんはすっと立ち上がった。それに続いて俺も立ち上がる。
「凛ちゃんに、京子ちゃんも来てくれたんだ。ありがとね」
「もう少しお話したいと思いましたので」
「そう言ってくれると先輩嬉しいなー。早く入って」
色々トラブル有りながらも、やっとこさオカルト研究同好会の活動場所に入れることとなった。その中には夢咲さんと音羽さんの他にも、男女一人ずつ生徒がいた。