お呼ばれですか?
その翌日。昼休みの教室にて。
「にしても昨日のあの人! 夢咲さん。可愛い人だったよなー」
「あんな先輩キャラに詰め寄られるって、お前は人徳すぎるんだよなー」
「色々苦労はあるんだけどな」
いつもの面々で俺の座席に集まって、これから昼食を取ろうとしているところ。
「羨ましいんだよこいつは」
「苦労ってなんだよ苦労って」
「性格が変わってるんだよ。積極的なのは変わってないんだけど、中学の時ってあそこまで大胆なもんじゃなかったんだよ」
「それでも俺らにとっては羨ましいということには変わらんがな」
「そーだそーだ」
「……」
弁当を開くよりも前に、夢咲さんのことについての話題で盛り上がる。
「今更だけどさ、拓弥は夢咲さんと話したことあるのか?前に俺のことが云々って言ってたからさ」
「いいや。俺は噂で聞いただけだ。なんか祐真の話題が聞こえてきたから耳に入れて置いただけで」
「そうかい」
という具合でその人の噂をしていたら、それを聞きつけたかのごとく現れるのだった。
「祐真くーん」
教室の後ろの方の出入口に、その人はいた。右横を向いてみれば、元気よく右手を振っている夢咲さんがいた。
「呼ばれてるぞ。モテ男」
「ひゅーひゅー」
「冷やかしは勘弁してくれ」
呼ばれたんで、手ぶらで夢咲さんのいる方に向かった。
「何ですか」
「もー。昼休みに私がこうしてお弁当持ってきたんだからー。何が言いたいのかくらいわかるでしょー」
左手には弁当の包みと赤色の水筒があった。二人どこかでお昼を食べようってのがひと目でわかる。
「あーはいはい。わかったんで待っててください」
「はーい♪」
ひとまず自分の座席に戻って、広げようとしていた弁当をまとめ直す。
「お呼ばれですか?」「ラブラブですか?」
「ベタなこと言うんじゃねぇ」
「いいんだいいんだ。せっかくのお誘いを断る訳には行かないよな」
「俺らは応援するよ」
「勝手にしてろ」
弁当の包みと水筒を持って再び夢咲さんのいる方に。そこまで戻って行く間に、クラスメイトの視線が刺さりまくるで。
俺の株はこの数分の間で大きく暴落したであろう。
夢咲さんが屋上に行きたいとのことであったので、それに賛同することに。
食堂とか他の場所だと人の目もありそうなんで、むしろありがたいと言うところか。
もうだいぶ暖かくなってきた頃ではあるが、屋上には他に誰かのいる気配は無し。ちょっとばかしほっとしている。
「にしても、急にどうしたんですか」
「どうしたって……祐真君と一緒にお昼が食べたいなーって思ったからだよー」
「……昨日のくらいじゃ足りないってことですか」
「おぉー。私の考えてることわかってきてくれたんだー。お姉さんは嬉しいなー」
「だからっていちいちくっつかなくても……」
ことある度にこの人は俺に身体を寄せてくる。その度に柔らかい感触を味わうことになるので、心の底から本音を言わせてもらうなら、御満悦ですね。
隅の日陰のほうに腰を落とし、横に並んで弁当を開ける。
「なんだか可愛らしいお弁当ですね」
「ホント! ありがとうー! お弁当はいつも自分で作ってきてるんだー」
「そうなんですか?大変じゃないんですか」
「実を言うと一人暮らししてるんだ。だから身の回りの事も全部で一人でやらなくちゃ行けないからねー」
中学の時は給食だから、こうしてお昼を食べるのは初めてになるのか。
夢咲さんのお弁当はその人の性格がそのまま表されたような、色鮮やかで可愛らしいものだった。
「はい。祐真君」
夢咲さんが俺の方に玉子焼きをひとつ、箸で掴んで差し出してきた。
「いやいや。いいですって」
「いいのいいの。ほら」
「……」
ここは黙って受け入れるが吉か。弁当の蓋の上に置いてもらうように言って。置かれたそれを一口で口に放り込む。
普段食べるのとは違う、塩味の効いた程よいしょっぱさだった。
「美味しい……」
「良かったよかった。今日はちょっとお塩入れすぎちゃったかなーって思ったんだけど、大丈夫そうでよかった」
「自分の家って、普段は甘めの味付けなんですけど、こういうのもいいですね。あ、良かったら俺のもひとつどうですか?貰ってばかりはなんだか申し訳ないですから」
「それじゃーあ。祐真君のお言葉に甘えましてー」
交換として、今度は俺の方の玉子焼きを夢咲さんに。それを口に入れた時、彼女の感動は表情にはっきりと現れていた。
「なに?! この上品な甘さは! すっごい美味しい! 君のお母さんって料理上手なの?!」
「実は、その玉子焼きを作ったの凜なんです」
「え?! あの子が!」
「はい。家事が得意なんですよ」
「家事のできる女の子……お嫁さんに相応しいとはこういう……」
「いや……俺もそこまでは考えてませんので……」
「じゃあどっちの方が美味しいって思ったの?私のと凛ちゃんの」
「あ。え、えぇと……」
とても決めがたいことだ。どちらを取るべきなのか答えに悩む。
どちらもとても美味しい。それは事実。優柔不断なのが痛いところ。
「なんか……決められないです」
「なんか釈然としないけど……まぁ素直でよろしい」
「すみません……」
「味の好みとかじゃあないのね?」
「そうですね……。特にこだわりがあるって訳でもないので。ゆで卵とか目玉焼きも、半熟かそうでないかって聞かれたら、どっちでもいいって答えるような人間なもんで……」
「なら祐真君が、私の作る方が美味しいって言って貰えるように、料理を頑張らないと!」
「あはは……楽しみにしてます…」
その後も二人過ごすお昼休みの時間は流れていく。しばらくしてから今度はこんなお誘いを受けた。
「ねぇ祐真君。今日の放課後って空いてるかな?」
「部活に入ってる訳では無いので、特にこれと言って用もないですけど……どうかしましたか?」
「よかったらさー。私の部活にちょっと顔出してみない?」




