恋路のライバル?
「それにしてもすごい人でしたね……あの人」
「まぁな。俺も驚いてるよ。中学の時って、あそこまで大胆な性格じゃなかったんだよ」
放課後になって、生徒玄関で凛と二人で話している。話題は夢咲さんについてだ。
「と言いますと、どんな性格だったんですか?」
「積極的ってのは変わらないんだけど、もうちょい大人しかった。あんなに身体を密着させるようなことも無かったからな」
「お淑やか……ですか」
「んー……まとめるのは難しいが……一言で言い表わすならそんな感じかな」
以前のあの人は凜の言うようにお淑やかな人だった。ちょっと身体を寄せてくるようなことこそあったけど、今みたいな程でもなく。
それにあんなにラブコール爆発させてるような発言もなかったと思う。
「月日が経つと、人って変わるものなんでしょうか?」
「さぁな? ただ一年も間が空いたからかの……かもしれない」
「なんだか定まってませんね」
「こうも雰囲気が変わっているとな」
「祐真くーん!」
「呼ばれてますね。祐真さん」
「ははは……」
そんな昔のことを思い出していたら、校舎の方から明るい声が聞こえてくる。足音も近づいてくると、その人は俺の左腕に抱きついてくる。
「とう!」
「どうも……」
「そんな固くならなくてもいいのにー」
「すいません。まだ慣れないものでして……」
何にしても、一年という期間は簡単には埋まらないもの。変化したものもあるので、すぐには適応できない。
「まぁいいや。一緒に帰ろうよー。もっと祐真君とお話ししたいんだー」
「別にいいですけど……家の方向こっちでしたっけ?」
「中学同じだったんだから問題ないでしょー」
「あぁーそっすね」
思えば中学は同じだったんだ。夢咲さんの家の場所は知らないが、大体の方向であれば俺と同じになるか。
「しかしびっくりしましたよ。夢咲さんと同じ高校だったなんて、思いもしませんでしたからか」
「それは私も同じ。でももしかしたら運命だと思うんだ」
「運命すか……俺は偶然だと思いますけどね」
「そんなことないよー」
「仲がよろしいんですね」
「そうでしょー」
凛が俺らに話しかけると、夢咲さんが凛に近寄る。
「そういえばあなただったよねー。祐真君と生活しているって言う転校生の子って」
「あ。はい。改めましてですが、狐村凜と言います」
そしたら夢咲さんは凛の方をビシッと指さして言うのだった。
「私はあなたに負けるつもりは無いわよ」
「あのー……私は別に祐真さんとそういう関係ってわけでは……」
「そ、そーそー。あくまでも遠い親戚ってことだから……」
まさかの宣戦布告ですか。と言ってもそういうもんでもないんだけどな………。
「親戚かー……そういう話してたっけ?」
「おそらくはしてないですね……。それにそういうことを話す機会もなかったですし……」
「まぁーそれもそうねー」
少々疑われているか……? 色んな意味でも凜の正体がバレる訳には行かない。そうなってしまえば騒ぎところではない。何としてもその事実は包み隠さねばならない。
でもそこまででもないご様子なので、一安心か。
学園の校門から十分ほど歩いたところで、方向が違うということなので、ここで別れることに。
「それじゃあ祐真君。また明日ねー」
あの人は俺らの姿が見えなくなるまでこっちの方向いて手を振っている。
「やっぱり大胆というか……威勢がいいというか」
「そんな感じだなー。んじゃあ帰るとしますか」
「ほうほう。お主にあれほどにまで仲睦まじい者がおったとはな……興味深そうな娘ではないか」
「まぁ癖は強いですけどね……」
「女子というのはそういうものじゃ。容易く扱えるものでは無いのだぞ 」
「そうですかねぇ………って」
前にもやったような自然な会話。でもどこか疑心さえ抱くそんな会話。俺は今誰と話しているというのだよ。
凛と揃って振り返ってみれば、その人……いや、狐はいた。
「「出雲様!?」」
「相変わらず、気づくのが遅いのだな」
トラブルメーカーのご登場である。今回は前会った時とは違って、ちゃんと人間体であった。
それに格好もいつもの和服ではなく、現代日本に溶け込んだ感じのカジュアルファッション。
「何してんですこんな所で?!」
「ちとこちらに用があったのでな。凛に渡したい物があっての」
「私にですか?」
出雲様は懐から麻色の巾着袋を取り出すと、それを凛に手渡した。
「警戒しておけということでな。持っておくと良い」
「なにが入ってんだ」
「あ。これって……」
その中に入っていたものは何かの紙切れ。それにしても何らやらびっしりと書いてあるなそれ……
「御札ですかそれ?」
「主の言う通りだ。最近この辺が物騒なのではないかと思うのでな。再三になるが用心しておくのだぞ」
「ありがとうございます。出雲様」
「……あの。出雲様」
「どうしたのだ祐真殿」
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「構わぬぞ」
こうして突然出雲様が現れてきて、思うことがあるんで聞いておくことに。
「出雲様もお忙しい身分だと思うので、こういうことの場合って、遣いの者でも回すものかと思ったんですが……」
この方も身分故に忙しい。こっちの方に顔を出す暇もあまりないと思う。こうしてこっちの世界にいる凛に何かの伝達があるとするなら、お偉い様の出雲様が出なくとも、部下なり使えばいいと思うのだ。
そしたら出雲様は身体の前で腕を組んで答えるのだった。
「儂はの。この世界のことがたいそう気に入って居るのだ。しかしお主の言う通り、儂も忙しいが故中々自由に動けぬのだ」
「と言いますと……」
「こうでもして理由を作らねばこちらには来れぬのだ」
「……」「あ……ご苦労さまです……」
要はこの狐、自由気ままに動いているってことか。
「まぁ気をつけい。それではの」
でもって出雲様は街の方へと歩いていった。
あの人も……中々に掴みどころのない人だと思うんだ。夢咲さんみたいに。




