喜べばいいんでしょうか?
「とまぁ私はそんな感じで祐真君と出会いました。私にとっては運命の出会いって感じだったの」
「なんかドラマチック」
「一目惚れかぁ……」
「……」
俺は食堂で注文した日替わり定食を食べながら夢咲さんの話を聞いていた。
ちなみに本日のこの定食の主菜は和風ハンバーグである。まぁそんなことはどうでもいいとしてだ。
一応神経尖らせながら彼女の話を聞いていた。あまりにぶっとんだ内容っていうか、過度に膨張された話になっていないかを確かめる為に。
聞いててその辺は問題なし。俺の記憶が完全という訳では無いが、夢咲さんとの出会った経緯については間違っていない。
手袋を落として言った女子生徒に話しかけたらその人が夢咲さんで、突然告白されました。という感じで。
「なんでお前はそんな人のこと忘れてたんだよ」
「そーだよ。何度も告白受けるような、こんなに麗しい先輩相手にして、その人のこと忘れちまうとか!」
「しばらく連絡してなかったってもあるんだ。それにまさか、同じ高校になるだなんて思わなかったからさ……」
あの時の俺は、真っ当な思春期男子だったと思う。あんな先輩に告白されたら、断る理由なんてよっぽどのことがない限りは、ないに決まってる。
基本的には夢咲さんからグイグイ来るような感じだったけど、先輩と過ごす時間は楽しかったと思う。
でも卒業して行って、進級して。その年は高校受験があったわけだから、そっちの方に意識が持っていかれて。いつしかその人のことを思い出すことさえなくなってしまった。
「でもこうして再会できたんだから良かったじゃん」
「そーそー。お前もさぁ、『会いに来たよ。文乃』って感じでやってもいいんじゃねぇか?」
「やらねぇよ! 俺はナルシストじゃねぇわ!」
俺はそんな性格じゃねーわ!んなもん考えたら自分でも吐き気催すわ!
「そういう架谷くんはちょっとー……あれかな…」
「きしょくわりぃーなー」「変人」
「虎太郎のせいで要らん被害受けたわ!」
一部女性陣からは煙たがられる。
「あぁー……大胆な祐真君もありかもぉ……」
「あの人。何故だが惚けてませんか?」
「京子ちゃんの言う通りかも……祐真さんにべったりっていうか……」
もう俺との関係性についてあれやと語られているが、俺はこの事態をどう受け止めるのが正解なんでしょうか。
再開したことについて、素直には喜べないのには理由があった。
夢咲さんが卒業して、俺が三年に進級してからしばらくの間。俺は一部の男子から執拗な嫌がらせを受けていた。
その理由としては夢咲さんと短い間とはいえ付き合っていたからだ。と言っても俺にとっては恋人とかじゃなくて、まず初めはお友達からって感じでだが。
夢咲さんはある時言っていた。これまで何度も告白はされたけど、全部断っていた。男の子とこうしてお話しするのは俺が初めてなんだと。
これまで夢咲さんに好意を持っていた人からしてみれば、俺の印象は良くないだろう。
一応言っておくが、俺はそのことを誰かに自慢したことなど一度もない。中学時代の友人にもだ。要するに、喧嘩売るような真似はしてないってことだ。
俺が先生に相談して厳粛な対応をしてもらったから、一連の行為については五月入るまでには収まった。
最近テレビじゃそういう対応の悪さというものがあるようだが、うちの先生はそんなんじゃなくて良かったと思っている。
そういう過去があったからこそ思うことがあったんだ。
俺が静かに、ひっそりと過ごしていたいと思うようになったきっかけは、夢咲さんとの出会いがあったからだと。
「どうかしたのか架谷」
「え?いや……なんでもない。突然のことだったからさ、まだ気持ちの整理が出来てないのかもしれん。ホントに現実なんだろうかって」
「大丈夫だよー現実だよー。文乃は今、祐真君の隣に居るからねー」
彼女が俺の右腕に抱きついてきた。さっきよりもあの柔らかい感触が布越しに伝わってくる。
というかヤバい。マジでやばい。
右腕に伝わる感触もそうなんだけどさ、こういう時に俺の耳に入ってくる夢咲さんの声が艶っぽいっていうか色っぽいっていうか。下手したら骨抜きにされそうなくらいにあまーい声してる。
もうこの人がいたずら好きな小悪魔みたいに思える。いったいこの一年で何があったんですかあなた!?というか一年も会えなかったからか?!
中学時代の時のあなたって、ここまで大胆じゃなかったですよね?!
「あ、あの……夢咲さん?」
「んー?どうしたのー祐真君」
「食べづらいんで、離れて貰えるとありがたいんですけど……」
「いいじゃんもー。そう言うなら私が食べさせてあげるからさー」
聞いてくれてるのかそうでないのかがまるで分からない。
夢咲さんは俺の身体から離れてくれたかと思ったら、俺のトレーのお皿に乗っているハンバーグを自分の箸で一口サイズにしてやると、それを箸で掴んで俺の口元まで運んできた。
「はい。あ~ん」
「あの、そこまで頼んでないので……」
「私がやりたくてやってるの。だからはい」
「……」
素直に受け入れていいものか。甘やかさなくてもいいというべきか。
友人のいる前でこういうことされるのも如何なものか。とか考えていると友人らから野次が飛ぶ。
「お前この人のご行為を無下にするつもりか!」
「男を見せる時だよ架谷くん!」
「この際ガツンと行ってやれよ!」
「悔しいけど、お前の特権だもんな!」
「ファイト」
「一部なんかおかしいけど!!」
ええいクソ。この際出たとこ勝負ってか?
「あ、あーん……」
「はーい」
受け入れることにした。夢咲さんが差し出したハンバーグに顔を近づけ、口に収める。
「じゃあ次はー」
「あ、いや……もう十分なんで……」
「私はぜ~んぜん足りないんだけどなー。ということでー」
「……」
心の底から本音を言うなら嬉しいんだけど……苦笑いする他なかった。このあとお昼の時間は、夢咲さんとべったりしながら過ごすことになったもんで。
今この場に、俺と同じ中学だった奴が居ないことを祈りたい。




