表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
変人集うオカ研同好会
41/154

甘くほろ苦な過去

 あれは私が中学三年のときの、冬の出来事だった。


 当時の私はどこか飢えているものがあった。見た目もあってか私はよく学校の男子生徒から話しかけられ、告白されることも少なくはなかった。でもそのすべてを私は断っていた。


 相手の見た目がどうとか、趣味がどうこうっていう問題ではないのだ。

 私は観察眼に自信がある。その人を一目見れば、その人の内面が少しは分かるくらいにはってくらい自信がある。大体はそういうので落としちゃう。

 あとは、私自身の好みの問題でもある。私の思い描いている理想とは違うと思うって。言葉で言い表すのは難しいけど。

 一つだけ言えるとしたら……甘えさせてくれるような優しい人……かな。


 なんと言うか、私の理想の王子様って言うのは簡単には見つからないものだなって。そういう意味でも、当時の生活にはスパイスが足りなかったように思う。




「はぁー、寒い寒い」


 その日の授業が全て終わって、私はすぐに帰り支度をして生徒玄関の外に出てきた。

 雪こそ降っていないが、この辺りの冬らしく寒い日だった。

 私は寒いのが苦手だから、この寒さには堪えるものがあった。ここよりももっと寒いところが、この世界にはまだまだ沢山あるとはいうが、私はとても、そんなところにはいられないだろう。


 人肌のように暖かいところの方が、私は好き。学校の中は、私にとってはどこも対して変わらないくらいに寒い。外にいるより少しはマシかなって、毛が生えた程度に思うくらいだから。


 早く暖かい我が家に帰りたい。ぬくぬくした所の方が落ち着くんだから。そこでじっくりまったり過ごすのが何よりの幸せだからぁ……。



「さてと手袋をーって。あれ?」


 手袋をはめようとしたところで、右手用のほうがないことに気が付いた。

 おかしい。朝は確かにつけてつけてきたはずだ。いや間違いなく使っていた。なのに今見たら片方だけ無くなっている。カバンの中、いくら探しても見つからない。ここまで来る途中で落としてしまったんだろうか。

 寒いのが苦手な私にとって、あの手袋は必需品。あれ無しでこの寒い外を歩こうものなんて、私には無理な話。


 どうしよう?! とにかく来た道戻って探さないと……



「あのー、すみません」


 探しに戻ろうと思ったところで声をかけられた。振り返ってみたらそこには黒髪の男子生徒がいた。

 巻かれた青いマフラーからちらりと覗かせている、学ランの襟につけられているバッジから見るに二年生の子だ。


「は、はい。どうかしましたか」

「これ、もしかしてあなたのですか?」

「!!」


 その男子生徒が持っていたのは、私が探していた黒い手袋だった。

 そして私がその時思ったのはそれだけではなかった。私は一時、手袋のことさえ忘れて、その少年のことをじっとみていた。


「……」

「あ、すいません。違いましたか?」

「あ。ごめん。私のなんだ。ありがとう」

「そ、そうですか。よかったです」


 一目でわかった。ようやく見つけた。この子私のタイプかもしれない。

 男子の見極めが得意なこの私がいうんだから間違いない。


「それじゃあ」

「あ、あの!」

「なんですか?」


 手袋を渡して立ち去ろうとするその少年を、私は呼び止めた。そうしなかったら、もう二度と話すことは出来ないんだろうなって思った。



「名前を……教えてもらってもいいかな」

「架谷です」

「し、下の名前も……いいかな」

「え。あぁ……架谷祐真です」


「ねぇ。いきなりなんだけど祐真君って呼んでもいいかな!?」

「え。き、き急にどうしたんですか?!」

「私、夢咲文乃って言います。あなたにその……一目惚れ……してしまいました」



 その後、私が卒業するまでの短い間。何度も何度も時間を見つけては祐真君に会いに行った。色々お話もした。

 祐真君はいつもそつない感じなんだけど、それでも私の話に付き合ってくれたんだ。


 それでも出会うのが遅かったから、離れてしまうのも早かったわけで……。

 三ヶ月経てば私は中学を卒業する。当然後輩であり在校生の祐真君とは一緒に居られなくなってしまう。


 卒業する前に、私の連絡先を渡しておいたんだけど、それから連絡が来ることは無かった。

 祐真君もその年は高校受験があるから、忙しいんだろうなってのはわかっていた。でもいつか必ず、連絡が来るって待っていたんだ。

 一年間ずっと。


 この光ヶ峰学園に入ってからも、私は男の子に何度も告白されました。それでも全てを断りました。また祐真君に会えると私はずっと信じていたから。




 そしたら神様は、私に奇跡を与えてくれました。

 二年になってから二週間ほど経って、私はある噂を耳にしました。一年に入った転校生の女子生徒が、同じクラスの男子生徒と同居しているという噂を。

 しかもよく聞いてみれば、その男子生徒の名前は架谷って言うものだから、私は嬉しくてびっくりしました。

 だってまた祐真君に会えるんだから。またお話することができるんだから。

 今度はもっと沢山お話したいなって。


 でもそう簡単に会わせてくれないのは悲しいことでした。神様のイタズラなのでしょうか。

 それとも小悪魔な私に対する挑戦状なのでしょうか。中々出会えないのです。

 登下校時の生徒玄関でも、普通に廊下を歩いていても、祐真君に会うことができません。


 でもそれから月も変わった頃。お昼休みに廊下を歩いていたらついに見つけたのです。

 私の……運命の人を。


 だから喜びを抑えきれなくて、ついつい飛びついちゃった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ