ひっそりと動いてます
「どうしたんだ谷内?」
「え?あ。えと……」
「まだ何か用があるのか?」
「……」
なんていうか、谷内の奴さっきからずっとこの調子である。俺が何かしら質問しても、黙り込んでもじもじしてしまっており、返答がこない。
そんな状況が三十秒くらいは続いていただろうか。どうしたら良いものか判断に困る。
何かしら話しかけた方がいいんだろうけど、なにをどう話したらいいものか。問題はそこだ。「用があるのか」って聞いても無言というか、なにか言葉を選んでいるような感じもする。
「えっと……はさ……」
「あっ。神奈さーん」
「……!!」
ようやく俺に話しかけて来たところで、突然誰かに自分のことを呼ばれた谷内は、身体をビクンとさせてた。彼女はそのまんまの流れで後ろを振り向いた。
そこには本を抱えた凛がいた。
「おっ。凛。貸出か」
「はい。こちらお願いします」
「はいよ」
谷内のことが気になるが、今は目先の仕事を片付けることが優先事項だろう。本を三冊受け取って貸し出しの処理をしていく。
「って……どうしたんですか神奈さん?」
「あ。え。あぁ……えぇと……」
「なんかさっきからこんな感じで……」
「顔赤いですよ神奈さん。大丈夫ですか?」
「ふしゅうぅぅ……」
あダメだ。よくわかんねぇけどショートしちまってる。顔完全に赤くなってる。朝の時とは比べもんにならないくらいに赤くなってる。ほんのりとかってレベルじゃなくてもう完全に熟れちゃってる。
「あ、あのえぇと……ひとまず話聞きますから落ち着いてください」
「凜。多分今話しかけても意味無いような、どうにもならないような……」
「あーもー!どうしたらいいんですかぁ祐真さーん」
「俺にも分からないよ?!」
「しゅぅぅ……!!」
「凜さん。架谷さん。図書館なんですからもう少し静かにお願いできますか」
「あ……京子ちゃん。ごめんごめん」
「すまん……」
三人してパニック状態になりかけたところで、返却処理を済ませた本を棚に戻しに行っていた黒羽が戻ってきた。
「何かあったのですか?」
「いやそれが……神奈ちゃんが……ってあれ?」
「居ねぇ……」
見渡せど、谷内の姿はそこにはなかった。黒羽と話していたごく数秒の間に居なくなっていた。
「よくわかりませんが、谷内さんがどうかしたのですか?」
「私にもよくわかんなくて……。受付に来たら直立不動の神奈さんが居たので、話しかけたらなんというか……よくわかんないです」
「……どうだったんですか架谷さん?」
「別に変なことは何もしてないんだ。受付に来た谷内の貸出処理を済ませた後、ずっと受付にいるもんだったから、まだ何か用があるのかって聞いたら、なんでか顔赤くしてて……って感じだ」
「二人ともよくわかってないのですか……」
誰にも整理のつかないこととなっては、黒羽も頭抱える他ないようだ。
とそんな時。
「話は聞かせてもらった!」
「「……!」」
「誰!?」
「お悩みの架谷たちに慈悲の手を差し伸べる正体不明の声の主。果たしてその正体とはぁ!」
「……」
自分で変なナレーション言いながら現れたよこの人は。女子の知り合いって時点でもう選択肢は二択しかなく、時折見えてるピンクのツインテールでもう答えは一択だ。
「私だ」
「お前か」
「明莉さん」
正解は堂口明莉でした。正解者にはポイントも景品も何もありません。
「堂口さん。図書室では静かにお願いします」
「気にすんな気にすんな。架谷ーこれ貸出頼むわー」
「へーい」
「……私の話聞いてないですよね。適当に返しましたよね」
「黒羽。気にしたら負けだ。こいつは何も聞いちゃいねぇから」
「もっとタチが悪いじゃないですか……」
よく分からんが、とりあえず堂口から本を受け取って貸出の処理をする。文庫本サイズの小説一冊と…料理の本に……こっちはなんだ?『コミカルな異性との会話術100』って何?彼氏募集願望がこういう形でにじみ出てるよ。その努力は褒めるけど。
「間違いないな。あれは」
「間違いない……ですか」
「……恋だ。全く神奈の奴までそうだったとはな……」
「「……」」
「は……?」
我、思考が停止。凛と黒羽も同じく。
「そんなわきゃねぇよ。だいたいそこまで接触したようなこともほとんどないんだしさ」
「ならあれだ。一目惚れってやつだろう」
「なおのことわからん。それなら他にもっといい相手がいる。見た目だったら津川とか瀬尾とか」
見た目という第一印象なら、俺よかもっと良い奴、クラスにいくらでもいる。
「いやいやお前もそう顔たちは悪くないと思うからよ」
「自己評価は厳しい方なんでな」
「なんにせよ、谷内の奴が普通じゃないってのは確かだろ?出なきゃあんな態度はとらない」
「一理ありますけど……」
「皆さん。盛り上がってるとこすみませんがそろそろ閉館時間ですので、続きは外出てからやってください。架谷さん。戸締りの確認お願いします」
「あぁ。わかった。にしてももうそんな時間だったか」
「全く釣れねぇなぁー」
「規則ですから」
程なくして図書館は閉館の時間となり、ぼちぼちと解散となった。結局谷内についての疑問は解決しないままである。
「噂では聞いてたけど、やっぱり本当だったんだー。中学の時以来かなー祐真君に会えるの」
図書室から少し離れたところ。その場所を伺える廊下の影で、戸締りを済ませた架谷らを見ている一人の女子生徒の姿があった。
「上手く話せなかったって?」
「……」
帰り道で、谷内は黙ったままこくんとうなづいていた。話し相手になっているのは、クラスメイトの橋本である。
「凛が来た時びっくりしちゃって。結局何も言えなかった」
「神奈ちゃん、ビビりやすいって言うか、驚きやすいって言うか……」
「二人になると、言葉が出てこなくて、頭グルグルしちゃって」
「誰か面と向かって話すのって苦手だからねー神奈ちゃんは」
「うん……直さないと」
その後は静かに。なにも話すことなく歩いていた。その途中で彼女はこんなことを呟いていた。
「架谷って鈍感……。でもそういうとこも面白い」
「神奈ちゃん何か言った?」
「なんでも。早く行こう桐華。バス来ちゃうから」
「絶対何かあるよぉーそれー!」




