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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
妖しき事件簿
33/154

ひっそりと動いてます

「どうしたんだ谷内?」

「え?あ。えと……」

「まだ何か用があるのか?」

「……」


 なんていうか、谷内の奴さっきからずっとこの調子である。俺が何かしら質問しても、黙り込んでもじもじしてしまっており、返答がこない。

 そんな状況が三十秒くらいは続いていただろうか。どうしたら良いものか判断に困る。


 何かしら話しかけた方がいいんだろうけど、なにをどう話したらいいものか。問題はそこだ。「用があるのか」って聞いても無言というか、なにか言葉を選んでいるような感じもする。



「えっと……はさ……」

「あっ。神奈さーん」

「……!!」


 ようやく俺に話しかけて来たところで、突然誰かに自分のことを呼ばれた谷内は、身体をビクンとさせてた。彼女はそのまんまの流れで後ろを振り向いた。

 そこには本を抱えた凛がいた。


「おっ。凛。貸出か」

「はい。こちらお願いします」

「はいよ」


 谷内のことが気になるが、今は目先の仕事を片付けることが優先事項だろう。本を三冊受け取って貸し出しの処理をしていく。



「って……どうしたんですか神奈さん?」

「あ。え。あぁ……えぇと……」

「なんかさっきからこんな感じで……」

「顔赤いですよ神奈さん。大丈夫ですか?」

「ふしゅうぅぅ……」


 あダメだ。よくわかんねぇけどショートしちまってる。顔完全に赤くなってる。朝の時とは比べもんにならないくらいに赤くなってる。ほんのりとかってレベルじゃなくてもう完全に熟れちゃってる。


「あ、あのえぇと……ひとまず話聞きますから落ち着いてください」

「凜。多分今話しかけても意味無いような、どうにもならないような……」

「あーもー!どうしたらいいんですかぁ祐真さーん」

「俺にも分からないよ?!」

「しゅぅぅ……!!」



「凜さん。架谷さん。図書館なんですからもう少し静かにお願いできますか」

「あ……京子ちゃん。ごめんごめん」

「すまん……」


 三人してパニック状態になりかけたところで、返却処理を済ませた本を棚に戻しに行っていた黒羽が戻ってきた。


「何かあったのですか?」

「いやそれが……神奈ちゃんが……ってあれ?」

「居ねぇ……」


 見渡せど、谷内の姿はそこにはなかった。黒羽と話していたごく数秒の間に居なくなっていた。


「よくわかりませんが、谷内さんがどうかしたのですか?」

「私にもよくわかんなくて……。受付に来たら直立不動の神奈さんが居たので、話しかけたらなんというか……よくわかんないです」

「……どうだったんですか架谷さん?」

「別に変なことは何もしてないんだ。受付に来た谷内の貸出処理を済ませた後、ずっと受付にいるもんだったから、まだ何か用があるのかって聞いたら、なんでか顔赤くしてて……って感じだ」

「二人ともよくわかってないのですか……」


 誰にも整理のつかないこととなっては、黒羽も頭抱える他ないようだ。

 とそんな時。



「話は聞かせてもらった!」

「「……!」」

「誰!?」

「お悩みの架谷たちに慈悲の手を差し伸べる正体不明の声の主。果たしてその正体とはぁ!」

「……」


 自分で変なナレーション言いながら現れたよこの人は。女子の知り合いって時点でもう選択肢は二択しかなく、時折見えてるピンクのツインテールでもう答えは一択だ。


「私だ」

「お前か」

「明莉さん」


 正解は堂口明莉でした。正解者にはポイントも景品も何もありません。



「堂口さん。図書室では静かにお願いします」

「気にすんな気にすんな。架谷ーこれ貸出頼むわー」

「へーい」

「……私の話聞いてないですよね。適当に返しましたよね」

「黒羽。気にしたら負けだ。こいつは何も聞いちゃいねぇから」

「もっとタチが悪いじゃないですか……」


 よく分からんが、とりあえず堂口から本を受け取って貸出の処理をする。文庫本サイズの小説一冊と…料理の本に……こっちはなんだ?『コミカルな異性との会話術100』って何?彼氏募集願望がこういう形でにじみ出てるよ。その努力は褒めるけど。


「間違いないな。あれは」

「間違いない……ですか」

「……恋だ。全く神奈の奴までそうだったとはな……」

「「……」」

「は……?」


 我、思考が停止。凛と黒羽も同じく。


「そんなわきゃねぇよ。だいたいそこまで接触したようなこともほとんどないんだしさ」

「ならあれだ。一目惚れってやつだろう」

「なおのことわからん。それなら他にもっといい相手がいる。見た目だったら津川とか瀬尾とか」


 見た目という第一印象なら、俺よかもっと良い奴、クラスにいくらでもいる。


「いやいやお前もそう顔たちは悪くないと思うからよ」

「自己評価は厳しい方なんでな」

「なんにせよ、谷内の奴が普通じゃないってのは確かだろ?出なきゃあんな態度はとらない」

「一理ありますけど……」

「皆さん。盛り上がってるとこすみませんがそろそろ閉館時間ですので、続きは外出てからやってください。架谷さん。戸締りの確認お願いします」

「あぁ。わかった。にしてももうそんな時間だったか」

「全く釣れねぇなぁー」

「規則ですから」


 程なくして図書館は閉館の時間となり、ぼちぼちと解散となった。結局谷内についての疑問は解決しないままである。





「噂では聞いてたけど、やっぱり本当だったんだー。中学の時以来かなー祐真君に会えるの」


 図書室から少し離れたところ。その場所を伺える廊下の影で、戸締りを済ませた架谷らを見ている一人の女子生徒の姿があった。








「上手く話せなかったって?」

「……」


 帰り道で、谷内は黙ったままこくんとうなづいていた。話し相手になっているのは、クラスメイトの橋本である。


「凛が来た時びっくりしちゃって。結局何も言えなかった」

「神奈ちゃん、ビビりやすいって言うか、驚きやすいって言うか……」

「二人になると、言葉が出てこなくて、頭グルグルしちゃって」

「誰か面と向かって話すのって苦手だからねー神奈ちゃんは」

「うん……直さないと」


 その後は静かに。なにも話すことなく歩いていた。その途中で彼女はこんなことを呟いていた。



「架谷って鈍感……。でもそういうとこも面白い」

「神奈ちゃん何か言った?」

「なんでも。早く行こう桐華。バス来ちゃうから」

「絶対何かあるよぉーそれー!」

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