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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
妖しき事件簿
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落ち着いた日などあるのか?

「どうしたんだ架谷。さっきからずーっと黙り込んでさ」

「具合悪いのか? それともなんだ? 話がつまらないってか?」

「そういうこっちゃないんだ……たしかに今回のイベントは虎太郎の言うように神イベだと思うしさ……」

「ならなんだよ……」


 一呼吸置いてからこう言った。


「どういう訳かな……今日はいつも以上に強い視線を感じるような……そんな日な気がするんだ」



 朝の谷内の一件もそうだったんだが、今日はやけに視線を感じる気がするんだ。背筋が凍りそうなくらいに。

 授業中とか。移動教室で廊下歩いている時とか。今日は購買にパン買いに行ったけど、その時も誰かの視線を感じた。他の何よりもハッキリと刺さるような。俺に向かってきてると感じさせるようなものを。


 学院で注目されるようになって、誰かしらからの視線を向けられなかった日などしばらく……いや全く無かったと言っていいくらいに。視線を浴びせられるのだ。


 凛のこともあってクラスの女子と関わるような機会も増えてきたんだが、それもあってか尚更視線が俺に集まる。

 女子との絡みが増えたことは、別に問題ではない。むしろ歓迎ものだ。


 問題は、俺が望んでいた穏やかな日々は、果たしてどこに行ってしまったのか。と言うことだ。



 全ての始まりは俺が転校生であった凛と同居しているという噂が広まったことだ。いい加減、凛は俺の遠い親戚であるっていう(うそ) は広まったんだから、そっとしておいてもらいたいものだ。


 穏やかに過ごせないという代わりにか、女子との絡みが増えたことは俺としては許せるものなのか。嬉しさもあるがもどかしさもあり、決断が難しい案件だ。

 目玉焼きにかける調味料の議論くらいに解決しそうに無さそうだ。



「視線ねぇー……俺らから言わせて見りゃ、どうしようもないことだと思うがな」

「転校生の狐村さんと同居してるなんて言われたら、お近付きになりたい男子諸君は黙ってないだろうよ」

「お前はなんというか……うらやまけしからんと言うか……」

「そうだなー。なんだかんだ橋本とか谷内にもチヤホヤされてるからなー」

「別にそんなもんでもないんだがな。それにお前らだって橋本達と話すことはあるだろ」


 まだ友人の友人みたいな感じの立ち位置ではあるが、拓弥や虎太郎も凛や橋本と話すことはそう少なくはない。

 橋本が異性と話すことに慣れているというのもあるだろうが、なんやかんや彼女は誰とでも話をするほどにオープンな性格なのだ。


「話す機会はあってもだ。お前みたいに二人っきりっていう状況がないんだよ!」

「そうだよ!そんなもん羨ましがらない男友達がいるかよ普通!」


 まぁ焦点はそこか。なんだかんだそういう機会は多かったもんな……。拓弥らが見ていない所でにはなる訳だが。

 自分たちの知らないうちに女子と親密になっていたら、不審にも思うわな普通。


「俺から言わせてもらうが、女子と一対一で会話するのって相当神経使ってるからな」

「どういうこったよ」

「まず始めに。異性との会話って、中々共通の話題が見つけにくいから、何話したらいいもんか問答に困る」


 橋本みたいに話し上手だったり、今朝の堂口みたくノンストップで話しかけてくるようような奴だったりすると、こちらとしても話す分にはあまり困らない。相手が話し手となり、俺が聞き手に回ることになるので、返答をしていけばそれだけで会話は成立する。


 しかし全てがそういう訳でもない。趣味や趣向が合えばそれで盛り上がれるが、中々そうにも行かないし、そもそも異性慣れしてない場合の方が多いであろうよ。


 俺の友人にしてみればの話、凛はそこまででは無いものの、友人以外の人に話しかけるようなことってのはあまりない。まだこっちに慣れきってないというのも有るだろう。誰とでも話せる。と言うにはまだ足りないだろう。

 谷内や黒羽は口数が少ないので、そもそも会話が成立するのかさえ怪しいところ。



「でもって変に気を使おうとすると、すぐ終わる会話になってしまう」


 それでどうしようか悩み考えても、何をしたらいいんだと言うことになる。

「今日はいい天気ですね」

「そうですね」

 みたいな感じの会話で終わってしまって無言になってしまうというのもある。



「そう楽な事じゃないんだってことだ」

「俺から見れば、自慢に聞こえなくもないんだよな……」

「もうそう思ってくれても結構だ。反論する気力もありゃしねぇ……。俺は穏やかに暮らしたいんだ……」

「穏やかにねぇ……。あっそうだ架谷」


 もうどうしようもないのではと思ってうなだれていた所に、虎太郎がこんな提案を持ちかけてきた。



「お前将来、山の中の田舎で暮らそうとか思ってないか?じいちゃんの知り合いに詳しい人が居るんだよ」

「なんでそういう結論になるんだよ!」

「だって……静かに穏やかに暮らしたいって言ったら田舎だろって思って」

「あぁー成程ぉ! そういやこの前テレビでやってたな! 都会の波から離れて田舎で暮らす人々に密着したそんな番組!」

「いやいや……。俺が望んでるのはそういう事じゃなくてだな……」


 俺が望みは人々の荒波から逃げ出すことではない。目立たなくてもいいから普通の暮らしをさせろということだ。


 結局俺の悩みの種は消えないままである。





「はいどうぞ」

「ありがとうございます」


 図書室のカウンターで貸出業務をこなしながら、隙を見ては先日買ってきたラノベを読んでいる。

 内容としては学園ラブコメ。一人で過ごすことを何より好んでいる主人公の周りで起こる慌ただしい高校生活が書かれている。


 この作品の主人公。何があっても自分の望みに忠実と言うか、信念を曲げないのは強いと思う。

 自分もこれくらい意思が強ければと思うが、そこまで強いものもないし、肝も座ってない。


 そんな願望がほんのりと芽生えたところで誰かカウンターにやってきたようだ。


「すみません。貸出を」

「あぁはい……って」

「ども」


 カウンターに来たのは谷内だった。まぁ珍しいことでもないかと思い、本を受け取ると慣れた手つきでバーコードを読み込んでいく。


「はいよ」

「ありがとう」


 手続きも終わったので、俺はラノベ読むのを再開……して三十秒。


「……」

「……」


 谷内がカウンターに突っ立ったままであった。でもってモジモジしながら俺のことを見ているのだった。

じー……

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