考え直せよ君
「すごいド直球で来たね明莉ちゃん……」
「大胆」
「なぁーどうだ架谷。まずは友達からとかそういうのでもいいんだ!」
堂口が顔の前で両手合わせて頼んでいた。
少し考えた後、俺はガタッと立ち上がって堂口に言った。
「堂口……」
「もうちょいちゃんと考えてから、そういうこと決めろ」
その後は堂口には何も言わず、振り返って入口の方に歩いていった。
「凜。帰るぞ」
「え?あ、はい……」
「「「……」」」
祐真と凜が出ていった教室では――――――
「ありゃまー。玉砕されたかー」
「どんまい」
「何が違うって言うんだよー! 私には何が足りないっていうんだよー! 身長か! 胸か!」
「違うと思う」
「ならなんだって言うんだー!」
堂口はただひたすらに嘆いていた。
「どうなんだ桐華ー!」
「私には分からないよぉー。それに私は架谷くんになにか言い寄られたりもしてないからさ……」
「私も。だから分からない」
「……はぁ」
ため息ついて、机に突っ伏して居た堂口のことを見兼ねてか、橋本はこんな言葉をかけた。
「でも架谷くんって優しいとこはあるから……そういうことなんだと思う……かな?」
「……意味がわかんねぇ」
「あの……。祐真さん」
「……なんだ」
「差し当たりなければその……聞いてもいいですか?」
「断った理由についてか」
「……はい」
学校を出てからの帰り道。やや冷たい風に当たりながら凛と二人で歩いていた俺は、教室での先程のことについてを凛に聞かれた。
俺はその断った理由についてとやらを話した。
「いくらなんでも短絡的すぎる。あの場であんな話があって、そこからすぐにあなたどうですかと聞かれて、素直に首を縦に降るほど俺はバカじゃないし、ましてやお人好しでもない」
「もしかして……明莉さんのこと嫌いなんですか」
凛にそう言われ、俺は首を横に振って、一つ息を吐いてから答えた。
「別にそんなわけはねぇよ。いきなり押しかけてきたり、昨日も突然愚痴を聞かされたり。時々厄介って思うことはあるがな」
「……」
「あいつは俺のこと、まだ全然知ってやいないんだ。クラスは同じでも、話す機会なんざそう多くはなかった。そして俺も堂口のことについては知らないところが多すぎる」
「それはまぁ……まだ四月でこのクラスも始まったばかりですから……」
「先のことについてまでは深く考えないが、付き合うって決めるなら生半可な考えで決めたら行けないと思うんだ。もしかしたら死ぬまで一緒になるかもしれない相手になるんだ」
「なんだかんだでそこまでは考えるんですね……」
「凜だって、いきなり来た見ず知らずの相手にそういうことを言われても、素直にオッケー返すわけじゃないだろ」
「それは……そうですね」
いくら親に言われた事だからって。向こうから言われたことだからって。容姿や振る舞いといった、相手の第一印象がどんなに良く見えようったって。
自分にとっては全く知らない相手と付き合えと言われたら、誰しも必ず迷うだろう。考えたくなるだろう。
それくらいに人間関係ってものは簡単なものじゃない。友達とはスケールの違う話なんだ。
まだ十五の、恋愛すら知らない俺がこんなことを言って何になるんだって言うが、恋愛がそう簡単に考えては行けないことくらいは分かっている。
「でもこれから、明莉さんのことを沢山知ることが出来るかもしれないですよ。桐華さんに神奈さん………それから京子ちゃんも!」
「そうかもな。クラスは同じだから、この先嫌でも知ることになるだろうな。いいとこも悪いとこも」
「もちろん私のこともです」
「……そうだな」
こっから先は俺の本心。
「本音を言ってしまうと、あの場にいるのが落ち着かなかったから、早いとこ立ち去りたかった……っていうのがあるんだがな」
「でしたらそう言えば良かったのでは……」
「あそこで話しているとき、堂口の奴机の下でずっと俺のブレザーの袖掴んでいたんだ。おかげですぐには出られなかったんだ」
「明莉さん、強引なところありますからね……」
「もうちょい大人しけりゃ、普通に可愛いと思うだがな」
「……」
そしたらどういう訳か、凛が俺のことをじーっと見つめ始めていた。
「な、なんだ? 俺の顔になんかついてるってのか?」
「いえ。祐真さんにも、そういうお考えがお有りなのかと思いまして」
「男ってのはそういうもんなんだよ。わからん以上は第一印象で判断するしかないんだ。それである程度決まっちまうんだよ」
「……そういうもんですか」
そういうもんなんです。
「それが男の性だ。そういや凜にはなかったのか? 男子に言い寄られたことなんかは」
「まぁ……ないといえば嘘になりますね。ここに来てからも何度かそういった形で男子の方からお声かけ頂いたことはあります。一応全て断ってますが」
まぁそれもそうか。外部から来た、人間ではない凛が下手に事情を知らないものとそういう関係を築くのは、彼女にとっては色々と不利益があるか。
「それでも諦めの悪い人もいまして。揉め事になったりってのもあるんですが……」
「そ、その時は……」
「力を持って制するか、術式で相手を眠らせて解決しています」
「……」
恐ろしい子だ。この娘は。
ともかく明日。堂口には謝った方が良さそうだな……
翌朝。
「のぐぁ?!」
生徒玄関に入ってきてすぐ。後ろから誰かにどつかれた。
「誰だ! ……って」
「よっす」
「明莉さん!」
「何のつもりだ……」
事情を聞こうとしたら、さらに距離を詰められた。そんでもって。
「趣味はなんだ! 好みのタイプはなんだ! あとはそうだな……最近ハマっていることとか!」
「き、急にどうしたおい……」
「お前に言われた通りだった。私はお前のことについて知らなすぎる。だからまずはお前自身についてを知ることにした!」
「は、はぁ……」
本当に。こいつのメンタルだけは褒めてやりたいと思う。どういう訳か、俺の表情は僅かにだが緩んでいたようだ。
「っておい無視するんじゃねぇ! 架谷ぁぁ」
「大丈夫ですよ明莉さん。ゆっくりとでも、祐真さんのことは分かってきますから」
「……」
「ど、どうかしましたか?」
「これが正妻の余裕かー」
「せ、正妻じゃないですからぁぁ!!」
諦め悪い。