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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
妖しき事件簿
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席替えの時間

 凛の周りが色々と騒がしくもなったが、それらも無事に解決していき、ようやく少しは落ち着けるかというところにとどまった。


 親睦会の方も月末での開催が決まり、残りの確認と店の予約を残すのみとなった。



 入学してからここまで。まだ三週間と経っていないというのに、もう既に二ヶ月は過ぎたのではなかろうかというくらいに、詰め込まれた日々であった。



 九尾の凛に出会ったかと思えば、同じクラスには烏天狗であるという黒羽がいて。これだけでも相当なものだというのに。



 ある日の放課後に橋本と話をしていたら、どういう流れか親睦会の幹事をすることになって、その間柄で他の生徒との交流の機会が自然と増えていく。仕事故の仕方の無いことだと理解している。


 が、しかしだ。俺の望んでいたものとはちと遠ざかってしまうのは悲しいところ。何事もなく静かに過ごせる日の方が少なく思う。




 俺が望んでいた平穏な日々は、果たしてどこに飛んで言ってしまったのやら。

 別に一人で過ごすことを望んでいるという訳でもない。普通に拓弥や虎太郎とは話をする。


 そうではない、俺自身が一人で過ごしたいと思っているとき。そう思った時、いつも誰かが俺に声をかけてくる。


 橋本に関しては親睦会までのもんかと最初は思っていたが、凛と仲がよろしいようで。終わったあとも絡まれてきそうだ。


 あとはそうだな……橋本の友人である堂口だろうか。いつもテンション高く、俺様感が強い。この前も突然訪れては連行されるはで……。どういうもんだか理解しかねる。



 そして断りきれないのが俺の悪い癖。すっぱりそう言ってしまえばいいものを、気がつけば完全に相手のペースに乗っかられている。そして逃げ場を失ってしまうのだ。





 今日の水曜の七限目。松山先生からの突然の提案により、席替えをすることになった。


「祐真さん」

「ん?どうした」


 先生が用意をしている間、図書室で借りてきた本を読んで待っていた俺は、右横に座る凛に話しかけられた。


「なんというか……皆さんやけに気合いが入っていませんか?」

「あぁ……」

「いいか孤村さん……」

「ってびっくりしたぁ! どうしたんだ拓弥」


 突然俺の近くに来ていた拓弥が凛に向かって言うのだった。


「席替えっていうのは……ある意味で戦いなんだよ!」

「た?戦い?ですか……」

「決め方はくじ引き。何処の席になるかなど、くじを引く直前まで分からない!」

「それは……くじですから……運ですよね?」

「そういうお前は、狙ってる場所でもあるのか?窓際最後列って言うなら、場所変わらないんじゃないのか?」


 拓弥の今の座席は窓際最後列。誰しもが一度は狙いたいであろう場所だ。教室内で最も他人からの視線が気にならない場所だ。この座席以上に落ち着くものは、他に無いだろう。


「もちろんそれもあるが……なるなら女子の隣がいい! 孤村さんとか! 橋本さんとか! そういうものを男子諸君というのは狙うもんだよ!」

「……そうかい」


 少なくとも、全ての男子がそうではないと俺は思う。世の中異性交流が苦手な人だっているだろうよ。



「んだよ余裕の構えかおい。そうだよなー今は横に孤村さんで後ろが橋本だもんなー」

「それは関係ないだろ。どうせ今日の席替えで変わっちまうんだから」

「孤村さんは希望の場所とかはあるのか?」

「私は特にないですね。席が変わるだけでも気分も一新されますから」

「私もかなー隣に来た人とは仲良くしたいから」

「そうかー……ってまた増えたなおい……」



 いつの間にか、橋本グループが会話に参加。


「私はなるべく前の方……って言うか、前の席にでかいやつは来るな!って感じだ」

「あぁ……理由がなんとなく分かる」

「津川の奴背ぇ高ぇーんだよ。それで板書が見づらくてありゃしない」


 堂口は自分の背の低さを嘆いていた。



「私はできれば後ろの方がいい。落ち着く」

「わかるわかる。俺も谷内さんと同じ。前とかやだもん!先生の近くだぜ?」

「同感だな。今一番前だし」

「あ゛ーそういうこと気軽に言ってみてーわー」




 しばらく話しているうちに、くじの用意ができたようだ。


 先に視力の悪い生徒を前の座席に割り振ってから、残りのクラスメイトが列を作って順番にくじを引いていく。


 俺はそれを後ろの方から見ていた。



「ってお前並ばなくていいのか?」

「俺は最後でいい。なんかくじ引くのが怖い」

「なんだよー残り物には……ってやつか?」

「そうじゃねーって。言ったろ怖いって。お前凜が編入してすぐのこと忘れたわけじゃないよな」

「あったねーそんなこと」



 凛が編入してきてすぐのこと。俺と同居しているという事実が知れてからというもの。数日は落ち着かない日々が続いたもんだ。登校してくる時もそうだし、何かに凛と話をしているときでさえクラスの男子の視線を感じるものだ。


 同居している癖して座席まで近いとかいったいなんの当てつけなんだと言っているような目をしている。座席については偶然なんだから、勘弁願いたいものだ。



 ということで今回の席替え。俺が凛の隣の席なんか引き当ててみろ。その後が怖くて想像したくねぇんだ。だから俺は全てを天に委ねることとして、最後まで待つことにする。


 引き当てるよりも、残った席に収まるほうがまだ気が楽だ。仮に俺が望まない結果になったとしても、ダメージが少ない。




 でもってくじを引き終わり、直ぐに座席を移動させる。

 新しい俺の座席は窓際の後ろから二番目。中々悪くない位置だ。やはりこういう場所は落ち着くな。


 その後ろには黒羽がいる。一人でいる時間を好んでいる彼女にとっては最高の場所だろう。



 そして隣の座席に座っているのは――――――


「よろしく架谷」

「おぉ」



 谷内だった。知り合いの他の女子に比べて口数が少なく大人しいから、近くにいる分にはありがたいものだ。


 一応だが、橋本らを悪く行った訳では無いので、その辺は理解してもらいたい。



 虎太郎も後ろの方の席を引き当てたようだし、気合十分だった拓弥はと言うと、隣とは叶わなかったものの、凛の左斜め前の座席に。近い分交流の機会も増えるだろうと喜んでいた。


 橋本や堂口も、希望全てとまでは行かずとも、不満はあまりないようであった。そう考えるなら今回は運が良かったというとこか。



 気分を一新して、これからの生活に望むとしましょうか。

冬のとき、決まって廊下からの冷たい風の当たる席だった。

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