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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
黒羽京子は密かに笑う
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一筋縄には行かない相手

 でもって翌日のこと。昨日の風呂場での話を受けて、凛は黒羽と仲良くなるべく気合十分のようであった。



 早速行動に移したのはいいのだが……




 登校してきてすぐ。


「おはよう京子ちゃん!」

「おはよう」



 凛は教室に入ると、すぐさまカバンも置かずに黒羽の座席に向かい、そこに座って読書している彼女に元気よく挨拶する。



「今日はどういう本読んでるの?」

「図書室で借りた今月のオススメを。気が散るのでそっとしておいて貰えませんか」



 凛の言葉に返事はするものの、会話を楽しもうとはしていないご様子で。サラッと返しては、後は一人にしておいて欲しいの一点張り。



 流石の凜もあまりしつこくはならず、「今度京子ちゃんのオススメを教えてよ!」と言ってその場から離れていき、橋本らのグループとの会話に混ざっていた。

 凛の言葉に対して黒羽は返事を返さず、視線を凛の方に向けることもなく読書を続けていた。




 三限の体育前の休み時間。




「今日の持久走! 私とペア組まない?」

「いえ。間に合ってますから大丈夫です」



 黒羽の座席に近寄ってそう誘うも、彼女は一言断って、体操服とタオルを持ってそそくさと教室を出ていってしまう。




 体育の授業中。


 体力テストの検査項目として、短距離走のタイムを計測する男子と持久走のタイムを計測する女子。

 順番待ちの合間にチラッと様子を見てみれば――――――


 黒羽の走るペースに合わせて、何か話しかけようとする凛がいるも、構うことなくペースを上げて距離を取ろうとする黒羽の姿があった。

 流石にその時に話しかけようとするのは無理があると思うよ。




 お昼休み。


「お昼ご飯、一緒に食べようよ!」

「すみません。用事があるので」



 弁当の包みを持った凜が黒羽の席に近付いてお昼に誘うも、先約があるからと断られ、彼女は弁当ケースと一冊の文庫本を持って教室を出ていった。

 凛はしゅんと落ち込んでいながらもすぐに切り替えて、谷内達と昼食を取っていた。



 そしてあっという間に一日が過ぎてゆき、放課後。



「今日は一緒に帰らない?」

「急ぎの用がありますので」



 黒羽は考え込むことなくキッパリとそう言うと、教科書を詰め込み終えたカバンを持って、足早に教室を出ていった。





 今日一日の、凛と黒羽の様子について。俺が見ていた限りをまとめてみればこんな感じだ。


 結果を言ってしまえば、五回打席に立って全て三振。いやむしろ、全て敬遠されたと言ってもいいくらいか。ヒットはおろか、きわどい内野安打も無しと来た。

 別の意味で厄介ですねあの人は。



 凛が積極的に黒羽に話しかけ、会話のきっかけを作ろうとしても、彼女は聞く耳持たずとまではいかなくとも乗り気ではなかった。話しかけてきたことに対して、一言返したらそれっきりだった。



 仲良くなるための第一歩は会話によるコミュニケーション!とは以前、橋本が言ってはいたが、そもそも向こうにその気がないというのならそれも意味を為さない。

 言葉のキャッチボールとかいう前に、ゴミ箱に投げ入れられる丸められたティッシュのような感じだ。当然そのティッシュは投げた人の元に戻ってくることなど有り得ないのだ。



 唯一の救いについてを言うなら、黒羽から反感的な返事は返ってこないことだろうか。特に嫌そうな顔はしていなかったし、邪険に扱われていないというのなら、まだいい方なんだろうか。



 でも凛の目的が果たされないことを考えるなら、どんな返事を返されようが、はたまた応じず無視されようが。結局は失敗という結果に収束してしまうのだ。





 結局今日、黒羽と帰ることを諦めた凛は、俺と並んで生徒玄関に向かう。



「中々上手く行きません……。どうしたらいいでしょうか?」

「俺に言われてもなぁ。さっぱりだよそういうのは」

「話しかけても会話に結びつかないというのが、なんとも言えない感じがします……」

「まぁまだ日は長いんだ。高校生活も始まったばかりなんだしさ。焦らずとも……」




 生徒玄関までやってきて、下駄箱を開けた時。俺の時間の流れが一瞬だけ停止した。



「どうかしましたか?」

「あ……何かー……直感だけど着信来たかなぁーって思って」



 開けた開き戸の死角を利用して、下駄箱に入っていた物を凛に見られないようにして制服のポケットにしまった。その後スマホを取りだし、しばらく画面を眺めたあと彼女に言った。



「悪ぃ! 親睦会絡みの件で橋本に呼ばれちまったんだ。先帰っててくれ!」

「あっ祐真さん?!」



 それだけ言い捨てて。凛の呼び掛けに返答することなく、俺は生徒玄関とは反対方向へと走っていった。





 しばらく走って、駆け込んだ先は近くにあった男子トイレの個室。ここならば誰かの視線を気にすることなく済む。

 深呼吸してから、下駄箱の中に入っていたものをポケットから取り出した。



 俺宛の便箋だ。そして差出人は、黒羽京子。

 内容がどんなものであれ、差出人がどうであれ。こうして密かに送られてきた手紙を他人に読まれるのは気が気でない。


 とは言っても、ある程度内容は予測できる。



『お話ししたいことがあります。このことは誰にも言わず、放課後一人で屋上に来てください』



 書道の教科書のお手本のような綺麗な字でそう書かれていた。


 そして手紙の内容もほぼ予想通り。凛の時は直接言ってきてたから、まさかこんな形で呼ばれるとは思わなかったが。

 かと言って誰かしらの悪戯ではないだろうとも、わかる気がする。綺麗な字だが、印刷されたものではなく手書き。そしてあの時もらったアンケート用紙の字に似ているように思ったからだ。


 とまぁそんなことはいいんだ。考えるべきはこの後のことだな。



 昨日の二人の会話を盗み聞きしていて、いつかは俺の事について詮索されるんじゃないかとは思っていたが、まさかその翌日だとはな。

 今日は時折黒羽の様子を見てはいたが、向こうは俺の方を特に気にする様子はなかった。

 想定は出来ていても、心の準備ってやつは出来ていないんだ。



 しかし仮に今日行かなかったとして、明日も同様の手紙が下駄箱に入っているかもしれない。俺が行かない限り、この手紙が俺の下駄箱に投函され続けるのだろうか。それを考えるとゾッとしてくる。


 詰まるところ。行かないという選択肢は、最初から存在しない。



 嘘ついて凛を撒いては来たが、バレないことを祈ろう。

 そう願って、そして覚悟を決めて俺は、屋上へと通じる階段に向かう。

相手はしてくれているようです。

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