色々ぶっ飛びそうです
凜の放った一言は、瞬く間に辺りの空気を凍りつかせた。
十数秒かは、双方無言であった。その代わりに聞こえてくるのは、風の音だけ。
そして先に口を開いたのは、黒羽の方だった。
「……まさか狐にそんなことを言われるなんてね。でも私はそういうつもりは無いの。そうする必要がないと思っただけ」
「またまたー」
「ともかく。余計な馴れ合いをするつもりはありませんので」
「そんな事言わないでよー。確かにお仕事も大事だけど、こういった経験も大事だと私は思うんだよなー」
「それはあなたの考えでしょう?私はあなたとは違ってそうは思っていないの」
お互い引かず。という所か。
自分の意見をねじ曲げたり、相手に肩入れすることもなく、言葉による応戦は繰り広げられていく。
一方で物陰の方では――――――
いやいやいやいや待て待て待て待て。天狗って言ったらあれか?! あれなのか! あの赤くて鼻が長いやつ! あでも烏天狗とかもあるみたいだから……黒羽の場合そっちだったりするのかな。名前から考えた安直すぎるもんだけどな。
いやいや問題はそこじゃない。それが事実として、クラス内に凛とほぼ同類の存在がいただとぉ!もうどうなってるんだよこの学校?!
ひょっとしたらさ、学園内探してみたら他にも似たのが居そうでさ! ものすごく気になるんだけど!
あぁもう落ち着かねぇ! 誰かありったけの水を俺にぶっかけてくれ! 死なない程度であれば手段とかは一切問わねぇから! この俺のどうにかなりそうな心をどうにかしてくれ!
ついでに言えば、この場に橋本がいなくて本当に良かったわ! もしあのままここにいて、この事実知ったらどうなるよ?! 今度こそ説明せなきゃならんけども、そもそもどうすりゃあいいんだよって話だよ! 今度はコスプレなんて言い訳通用しねーもんなぁー!!
サンキュー! 橋本の母さん!
しかしこれは別の意味でやばい。とっととこの場を離れた方がいいってのは分かっているのに、あの話の続きが気になって仕方がねぇ! そのおかげで俺の足が言うこと聞いてくれねぇー!!
もう思考回路がめちゃくちゃな架谷が、目を回していた。
場所は屋上フロアの方に戻って。話の内容に反して空気は殺伐としている。
「なんというか、橋本さんに少し似てきましたね貴女は。そう何度も話しかけては寄り添おうとするあたりが」
「わたしも桐華さんも、京子ちゃんと仲良くなりたいなーって思ってるから」
「そのご好意だけはありがたく受けとっておきますが……私にとっては余計なお世話です。これ以上余計な関わりはしないで貰えると助かるのですが」
もうこれ以上話していても、何も事が進展しないとわかったのか、別れ際の挨拶もなしに、黒羽は屋上を後にしようとする。
それでも凛は諦めることなく、話を続けようとする。
「京子ちゃんってもしかして――――」
凛が立ち去ろうとしていく黒羽に向かって声を張り上げるも、カノジョは聞く耳一切持たずにつかつかと歩いていく。しかし次の一言を言った瞬間――――――
「ホントは友達欲しいって思ってる?」
黒羽は足を止めて彼女の方を振り返っていた。そして猛反発。
「あ、ああ貴女には、かか関係のない話でしょう!私が好きでこうして一人でいるんだから、放っておいて貰えないかしら!」
「顔赤いよー?」
「気のせいです!」
気の所為でもなんでもなく。他人から見れば、彼女の顔が赤くなっているのは明らかであった。
「とにかく!もういいです!」
「また明日ねー。もっと素直になりなよー」
黒羽は振り返ること無く歩いていく。一瞬立ち止まって聞いてはいたようだが。
その後はなにも言葉を返さず、黒羽は屋上をあとにした。それから少し遅れて、凛も屋上から移動していく。その横顔は一件笑顔にも見えたが、何処か悲しそうにも見えた。
それから数十秒後。黒羽も凛も、屋上から降りていったところ。屋上に通じるドアの近くにあった、掃除用具入れのロッカーがガタンと動き出し、中から男子生徒が出てきた。
「ふぅー……。なんとかバレずに済んだわ……」
架谷祐真であった。
ついさっきまで、屋上にいた二人の様子を伺っていたが、黒羽がこっちに向かってきそうだったんで「あっこれはヤベぇ」って思ったわけだ。
幸い近くに掃除用具入れのロッカーがあったんで、その中に隠れさせてもらった。当然モップなんかは入っているがバケツさえ取りだしてしまえば、なんとか通常体型の人一人であれば入れるだけのスペースはあった。
何分、一度はそういう所に入ってみたくはなるものだが、ここで実際に入ってみた感想をひとつ。
やっぱり狭いし、思いのほか匂いがきつかった。悶絶するほどではなおものの、我慢すれば容認できるかというもんでもなかった。
まぁそんなくだらんことはどうでもいいとして。
凛の真相を知っている俺とはいえ、黒羽の真相まで知ってしまった俺は果たしてどうすればよいものかと。
凛が俺の家に住み込んでいるっていう話はもう学園中の知るところ。当然黒羽もその件を気にしていたか。着眼点は他の奴らとは違ってはいたがな。
しかしそう考えると、近いうちに黒羽から何かしらの追求を受けそうだな。
できれば穏便に済ませたいけど、凛とのやり取りを一部だけとはいえ、見ていて楽には済まないだろうなって。むしろかなり手強い相手になりそうだなって思ったよ。
とにかく今日はもう帰ろう。凛と鉢合わせしそうだけど、その時は図書室で適当に時間潰してたって言って誤魔化すか。
しかし、その後帰り道で彼女と会うことは無かった。
「はぁ~~……」
夕食の後、俺は湯船に浸かって放課後のことについて考えていた。
本来なら、帰ってから親睦会のプランについて自分なりに調整するつもりだったが、先の一件のせいでそうすることに意識が向かず。今もこうして考えているわけだ。
とは言っても、考えたところで答えが見つかるのかといえば、そうでも無いのがまた悲しきかな。
「どうすりゃいいものか……」
これから先のことについて、今は不安しかない。と思っていたその時だった。
俺が今入っていると言うのに、お風呂場のドアが開いた。
この後ご期待の……?!




