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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
黒羽京子は密かに笑う
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その人の価値観

「いきなりだが。二人に聞きたいことがある」

「なんだいったい」

「どうしたって言うんだ」

「お前たちの思う、黒羽の印象について聞きたい」




 昼休み。弁当を食べながら拓弥と虎太郎にこんなことを聞くのには、理由があった。

 特に変わりごともなく、普段通りに登校。してすぐさま橋本に聞かれたことがあった。



「京子ちゃんと仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」



 率直な疑問をぶつけてきた。しかしそんなこと俺に聞かれても。

 友達がいない訳では無いが、少なくとも、男子に女子と仲良くなる方法を聞きに来るのはどうかと思う。せめてその時俺と一緒にいた、同性の凛に聞くのが筋ではなかろうか。



 その黒羽はというと、今日も変わらず。自分の座席に座り、周りのことを何気にすることなく読書に夢中である。


 橋本は今朝も声をかけに行ったそうだが、一言挨拶を返されたあとはそれっきり何も返してくれなかったという。当初の俺以上に厄介だと言っていたが、俺は最初そんな風に思われとったのかい。



 いてもたってもいられずに理由を聞いてみれば、会話の返しがなんだか素っ気なかったからだという。女子と話すのが苦手なのかと言われた。


 誤解にならないように言っておいた。橋本と話すのが嫌なんじゃない。そもそも話すことなどないからだと。用もなく話しかける理由なんぞ、どこに存在するわけだと。


 そう言ったら何故だか怒られた。俺はどうしろって言うんですか。




「お前、とうとうあいつにまで手を伸ばすつもりか」

「そういう意味で言ったんじゃないって。最初に行ったろ。橋本がどうこうって」

「どういう風の吹き回しだおい」

「別に陰口叩こうとか、そんな性格悪いことはしないっての。そうはならない方面で。お前らのお考えを聞きたいってことだ」

「それで橋本の参考になるってか」

「そうなるかは分からんが、他の人から見た印象なんかが分かればまた違うだろうなって」



 というわけで。橋本以外の人に黒羽の印象を聞いてみれば、何かしら役に立つのではないかと思った。自分一人だとどうしても気が付かない点というのはあるものだ。



「まぁ安直に言ってしまえば文学少女だな。いっつも本読んでるわけだし」

「それにいつも一人でいるからな。誰かと楽しくおしゃべりするようなとこなんて見たことねぇよ」

「高校デビューに失敗したとかか?」

「いや。そもそも誰かに話しかけようとすらしていなかった」



 恐らくだが、友達作りに失敗して一人でいるわけではないと俺は思っている。虎太郎が言うように入学一日目からそんな感じだった。


 自分から誰かに話しかけるようなことは無かったし、近くにいる奴らから話しかけられてもあまり会話をしていなかった。それ故に、次第に話しかけようとするものは減っていった。


 それでも橋本や凛のような諦め悪い人は居る訳だが。ほんとにこの二人のメンタルは相当なもんだと感心するよ。




「他に。なにか無いか」

「んな事言ったってな……そんなもんわからねぇよ」

「性格云々とは違うけどさ、なんか女子が黒羽は足が速いっていうようなことを言っていたかな」

「足が速いか」

「そういう所から話を広げるとかは?」

「あー……どうだろ?」



 この前サラッと橋本が言っていたが、友人作りのコツとして相手の長所や得意分野についてを褒める。というのがあったが、そもそも会話自体成立しない黒羽相手には、役に立たない知恵となってしまっている。



 会話のキャッチボールなど成立せず、むしろ水切りのようなものでは無いか。川に投げられた言葉という名の石は、水面で何度かは跳ねようとも終いには沈んでしまって、投げた人の元に帰ってくることはない。 



 つまりはそうならないように。なんとか会話を続けていけないか。というのが橋本の考えることではないのかと、勝手に推測しておく。



「しっかしまたどうして急に」

「なんか橋本は黒羽とも仲良くしたいんだとよ」

「難易度高いだろ……どの選択すれば好感度上がるんだよ」

「知るかよ」

「もっとも、俺にとってはあまり興味無いんだが……」




 橋本や凛にしてみれば、色々と悩ましい問題なのかもしれないが、俺はそうとは思わない。


 仮にだが、一人で過ごすことを本人が望んでいるのなら、そうさせてやるのが一番だと思っている。誰しも友達がいて、集団行動していれば充実しているものでもないだろう。




 人には個性があって、それぞれに違った望みや感性というものがある。万人が納得するものというのは、存在し得ないものなのかもしれない。



 もし自分が料理人だとして、今から料理を振る舞う一万人全員がお世辞言うことも忖度することをもなく、心の底から納得の回答をする料理を一品作れるかと言われたら、俺は間違いなく首を横に振るだろう。


 味の好みは皆同じなわけがない。甘い物が好きな人がいれば、辛いものが好きな者もいる。また言い換えれば、辛いものが食べられない人もいるだろう。


 またある者が揚げ物を好むなら、ある人は煮物を好むかもしれない。そう言った料理の好みもある。



 故にだ。相手の考えを知ろうとせずに、自身の意見を押しつけるだけならば、それはただの迷惑であり偽善だ。


 これまで橋本達がどういうことをしてきたのかは知らないが、まずは彼女について知ることから始めるべきではと思う。





 ともかく橋本らが抱えるこの悩みは、そう簡単に解決するものでは無いだろう。そう思っていたんだが――――――






「狐村さん」

「どうしたの?」



 放課後になり、帰ろうとしていた凛に声をかけるものがいた。そしてその人物こそが――――――



「二人で話したいことがあるので、後で屋上に来て貰えませんか」

「うん! わかったよー」

「では先に失礼します」



 今回の悩みの種とも言える、黒羽京子。その人であった。今まで自分からこういうことを言ってきたことはなかったので、彼女が教室を出てから、近くにいたものは皆驚愕していた。



「あの黒羽が……」

「やっぱし転校生には興味あったのか…」

「わざわざ呼び出すってどういうこと?!」



 もちろん俺と橋本もであった。



「まさか向こうから来るとは思わなかった」

「とうとう観念したのかどうかは知らないが、きっかけが出来たならいいんじゃないのか?」






 屋上から見える空は、所々に灰色の雲が混じっていた。その下で対面する二人からはなんとも異様なモノが滲み出ていた。



「まず聞きたいことですけど……」





「――――――貴女は何を思ってこっちに来たの?」

私は一人でいるほうが好きですね。(どうでもいい。)

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