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俺の家に狐が居候している  作者: 夘月
橋本桐華は興味を抱く
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連れ回されました

 色々あったが、凛も用意を済ませて橋本らと一緒に候補の店をいくつか下見して回ることになった。



 ――――――どういう訳か俺まで連行されることになったわけだが。




 事の始まりは十分前に遡る。



 俺が玄関に戻ってきてから三分ほどして、着替えを済ませた凛が、部屋から降りてきた。


 格好はシンプルに。空色のTシャツと黒のスキニーパンツ。シンプルなものだが、こちらに来てまだあまり日が経っていないことを考えると、外に出る服であまり悩むこともないのだろうか。


 もし余裕が出来た時は、またその辺は何とかするのだろうか。もっともそういう担当は母さんと那菜になると思うが。



「お待たせしてしまってすみません」

「いいのいいの。むしろ謝らないといけないのはこっちの方だからさ」

「突然お呼び出ししてしまいましたからね」



「じゃあ祐真さん。行ってきますね」

「おう。なんかあったら連絡くれよー」



 そう言って凛を見送り、俺は部屋に戻って作業の続きをしようと思ったんだが――――



「何言ってんだ架谷。お前も来るんだよ」

「……はい?」



 なに言い出すんだ堂口。用があるのは凛の方じゃないんですかい?



「来てくれよ! 女子四人とこうして出かけられるチャンスなんて今後滅多にないと思え!」

「いや……俺やることあるんだが」

「ちなみに拒否権はない! 私がルールだ! さぁ早く準備してこーい!」

「………」


「あ、明莉ちゃん。無理言わないのー」

「強引なところもまた明莉らしい」



 女神のいる泉とやらに堂口を放り投げたら、少しは性格の浄化された堂口と交換しては貰えませんかね。まぁそこまではせんが。


 というかなんでお前が決定権握ってんだ。本来それは俺が持っているものだろうが。ガキ大将かあんたは。


 多分こいつは聞く耳持たないだろうから、黙って従う他ないか。仕方ないから大人しく従ってやるよ。



「……ちょっと待っててくれ」



 とりあえず出かける用意して……一応母さんにはメッセージ飛ばしてと。




 といった次第だ。


 断る隙さえ与えさせず。堂口に言われるがままに、俺は彼女らの下見に同行する折となったのだ。




 ひとまず外に出て、しばらく歩いたところで橋本に聞いた。



「そんで、具体的には何をするんだ」

「教えてもらったところから、今回は街中の方でいくつかピックアップしておいたの。そこを回っていく予定」

「成程」

「駅の方にも何個かあるんだけど、そっちはまた別の機会に」



 一応今回の目的は、俺がこれから自宅でやろうとしていたこととほとんど変わらないから、なんら問題は無いのかもしれない。かと言って俺がついてくる理由は果たしてあるのだろうか。



「俺が行っても、あまりお役には立てないと思うんだが」

「いいのいいの。こういう時に、男子の意見も聞きたいから」


「その男子代表が俺っていうのは恐れ多い気がするが」

「幹事なんだから、そういうこともしていくの」

「……そういうもんかい」



 まぁこのまま進めていくと、女子に寄った会になるのはなんとなくだが想像出来る。クラスの親睦を深めることが目的なので、女子に比べてあまり意見がなくとも、男子の考えを蔑ろにする訳には行かないか。



「できることなら凛の服とかも見に行きてぇんだがなー」

「私の……ですか?」

「確かにコーディネートのしがいがありそう。すらっとしてるから何着ても似合いそう」


「お気持ちは嬉しいんですけど……あまり手持ちもないので……」


「ならしゃーないかー。凛のトータルコーディネート計画は近々やるとして――――」

「やるのは決定なんだ」



 そんでもって堂口は凛の方に歩み寄ると、じっくりと凛の全身を眺めていた。



「見たとこスタイルいいみてぇだからなー。神奈みたく引き締まってるくせして出るとこは出てるからなー」

「確かに……」



 谷内も堂口のように、吟味するように凛の全身を眺めている。谷内は大人しいんだが、一方で堂口はエロ親父みたいな目付きになってきてるぞおい。



「そんな……私は神奈さんの方がスタイルいいと思ってます」

「これだからよー。……てめぇらの身長とおっぱいを寄越しやがれぇ!」



 谷内のスタイルがいいことは、クラスの男子にとっては周知の事実。この前の測定でチョロっと聞こえた話になるが、身長は165と女子高生としては高い方だろう。


 そして凛も、決して背は低い方ではない。今近くに立っている谷内と比べた目測だが、160位はあると思う。



 そして人目を気にすることなく、堂口は凛と谷内の胸を正面からこれでもかと言わんばかりに揉みしだいていた。



「ちょっとこんな昼間から」

「くすぐったいですよ?!」

「ちきしょう!! どうせ私はちんちくりんだよ!」

「時間帯の問題なのかな……」

「……」



 俺はそれをなるべく視界に入れないよう、早歩きになって集団の最前を歩いていた。他人の振りをしながら。




 最初に訪れたのは街中にあるカフェ。といっても此処は候補ではなく、あくまで今後についてのちょっとした相談と、早めの昼食を兼ねて寄っただけのことだ。



 橋本は地図アプリを開くと、いくつかポイントが打たれているものを順番に確認していた。



「今日はこの辺にある店を三件ほど見て回る予定なの。もしこの辺りで他に何か知っている人とかいない?」

「私は何も……」

「私も」

「俺も知らない」

「そっか。じゃあ追加はなしということで」



 その後は各々で食事を注文し、ガールズトークに花を咲かせていた。


 しかし俺にとってはなんとも落ち着かない空間だ。この女子会の中、一人だけ男子が混じっている。

 どういう話題を話せばいいかも分からないし、相槌も適当に打つ訳にはいかない。なんせ耳に入るのは知らないことばかりなのだから。


 そんな俺に出来る唯一のことは、頼んだコーヒーを飲みながら、黙って皆の話を聞くことくらいだ。



「ところで架谷。聞きたいことがある」

「……なんだ堂口」



 と思っていたら堂口から話を振られる。不意に話しかけられるとは思っていなかったんで、少々びっくりしてしまう。しかしそういう素振りは見せず、平然を装って。

 口に含んでいたコーヒーを流し込んでから応対する。



「股かけてるって本当か?」

「?!」



 追加のコーヒーを口に含んでいなくて正解だったと実感。

 いやそうじゃなくて! 急になにをどうしたらそんな展開になる!



「どっから持ってきたそんな性懲りもない噂……」

「凛が転入してしばらく経ってからだったかな。オカ研の誰がそんなことを口走っていたようなーいなかったようなー」

「思い違いということにしてくれ。そんな所に俺の知り合いはいない。それにそんなこともしちゃいない」



 そもそも彼女と呼べる存在自体まだ居ないからな。


 凛はあくまで居候している身。橋本達についても、つい最近から話すようになっただけだ。特別仲がいいということでもない。



「架谷くんはそんなことないと思うけどなー……」

「そ、そうですよー。ですよね祐真さん!」

「うちだったら寧ろ愛川なんかがそうな気がする」

「「わかる……」」




 結局俺の神経をすり減らすことになった、しょうもない噂の話題となり時間は進んでいた。落ち着いたのでそろそろ店を出ることに。



「橋本。ちょっといいか」

「どしたの?」



 橋本に声をかけた俺は、財布から千円札一枚と、小銭を数枚取り出して彼女に渡した。



「これ、俺の分の代金。ちょっとトイレ行きたくなっちまったから、支払い任せてもいいか?」


「わかった。お会計終わったら外で待ってるね。お釣りもその時に渡すから」

「悪いな。助かる」



 急かされて、慌てて出掛ける用意をしていたのもあって、用を足すチャンスがなかった。食事をしている間も、一言そういえばそれで済むことなんだったが、どうにもこうにも言えずじまいだった。

 というか俺を中心とした話題になってしまうから、席を外そうにも外せなかった。でもって言うなら今しかないだろうと。


 なんともお恥ずかしいが。それくらい限界が来ていたわけだし。





 無事に用を済ませ、店の外に出てみると、四人は何故だか俺の方に背中向けて、向こうの方見て固まっていた。



「どうしたんだ? お前ら……」



 俺が背後から話しかけてきてようやく気がついたのか、凛以外の三人はゆっくりと俺の方を振り返って言うのであった。



「私、すごいものを見た」

「勇ましかった」

「すげぇーやばかった」



 嫌な予感がするんだが……もしかして正体バレた?

証明し難いのもまた悩ましいところ

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