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大草原不可避

ーーああ!今日は待ちに待ったルーマニアンの新作の発売日じゃないか!

なんてこった、早く買いに行かねば…

(速く、もっと速く走れ)

「お……て……」

(なんで俺の邪魔をするんだ、いいからほっといてくれないか)

ゲーム屋に着いた。

ああ、売り切れている……。

ここまでの時間と労力が無駄になってしまった。

(この野郎邪魔しやがって、俺のルーマニアンライフが)

「起きて!」

高い声が聞こえる。体が揺れる。


その強烈な肩の揺さぶりと思しき感覚に俺は起きざるを得なかった。

そして、何が起こっていたかを思い出すのに有した時間はそう長くはなかった。

周りが草原しかない異世界に飛んだのだった。

(夢の中で女の子の声が聞こえた気がしたけど……)

周りには動物1匹すらいなかった。

(そんな都合よく女の子なんているわけないか……)

こんな大草原にぽつんと人が眠っていたとして誰が見つけられるのか。

(夢の中の女の子に起こされたのかよ!そして現実には誰もおらず。

ド畜生かよ……)

……余計なことを考えてもしょうがない、町を探そう。

と言っても周りには草原しかなく、集落がある気配がない。

(そういえば離れたところに飛ばしてしまったと言っていたな……

魔力で充電できるって言っていたけど結局どうやればいいか分からないし……)

ここから見えるのはぼんやりとした遠い山の起伏だけであった。

(とにかく歩こう、どこか……そうだ、今見えているあの山に向かって歩こう。

いつか何かに出会えるはずだ……)

そう自分に言い聞かせて足を動かした。

そうして歩き始めた……のは良かったのだが。

見えない、何も。山も近づいている気配がない。

もう10kmはとうに歩いたと思う。

(こっちじゃなかったか……)

「はぁ……」

身体的な疲れこそないが、精神的な疲れはある。

「戻ろう……」

ちょっと待った。冷静に考えてみよう。

初期地点で10km離れていると言っていた。

今戻ってもちょうど元のところに戻れる保証はほぼない。

(どうするべきか……)

とりあえずさらに前進する事にした。


……


…………


……………………


……行けども行けども何も無い。

(何でだよ!なんてところに飛ばしてくれてんだ!)

気が付けばすっかり日も暮れて、辺りは暗くなっていた。

(なんかちょっと疲れてきたしだいぶ腹も減ってきたな……昼間は何も感じなかったのに……)

その時、昼間の出来事を天啓のように思い出した。

俺はそれをもう一度確かめるように言葉を発した。

「ステータスオープン!」


《光合成Lv.100》


……間違いない、犯人はこいつだ!

浮かび上がった薄い背景に太い文字、その堂々たる姿に俺は恐怖をも覚えた。

(見た時はなんのこっちゃ分からなかったがまさか自分でも分からない間に早速生活のリズムに取り入れていたとは……)

自分でも驚きを隠せない。

もう夜になり、光合成はなんの意味もなさなくなる。

(まずいな……かなり腹が減ってきたぞ……)

周りは草原、何も食べられるものは無い。

もう空腹がかなり限界まで来ていたようだった。

(もうなんでもいい、食べ物を……)

周りは何も無い草原。

「草原」。

俺は全てを理解し、考え、悟った。

(こんなことが許されるのだろうか、俺は生きていけるのだろうか……)

その地面に生えた草を掴む、引きちぎる、口へ運ぶ。

(背に腹は変えられんな……)

意を決してその草を口の中に入れて咀嚼する。

あまり美味しいと言える味ではないが、食えないほど不味いというわけではなかった。

ただ状況が状況なだけに、テンションは深夜から明け方にかけてのそれになっていた。

(これは……いくらでも食えるぞ!どんどん食べよう!)


もしゃもしゃもしゃ

もしゃもしゃもしゃ


俺は草を食っていた。

何故かって?決まってるさ!

空腹、DA・KA・RAだよ!


そうは言っても、同じ草しか食べていない俺の満腹中枢はあまり満たされなかった。

(はあ……飽きてきたな……別のところの草でも食べに行くか……)

すっかり重くなってしまった足を上げ、別の草を求め歩く。

その目には異世界に対する期待など既に消え失せていた。


参考文献


・伏瀬,転生したらスライムだった件,2013

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