異世界への導入
ここは……どこだ……?そうだ、俺は確か本を読んでいて…
「やっと気がついたか」
前方から声がする。そこには若い男、いわゆる好青年といった感じの人が立っていた。
「誰だ……」
「俺は死んだ人間を異世界に転生させる為に出てくる神だ。元々は死ぬはずの無い人間が死んだ時に召喚させるだけなんだが、なんやかんやでお前を召喚させることになった」
来たか、ついにこの俺にも。あまり見えてこないが、なんせ異世界に転生させてくれるようだ。よっしゃ。
「ああ、そうなんですか、ありがとうございます!」
「ちなみに、今から行くその世界は残虐な魔王の手によって支配されている。世界に平和を取り戻してくれたら元の世界に生き返らせてやるぞ」
「はぁ……」
正直元の世界に戻ることはあんまり考えてなかった、まあやり残したゲームとか読んでない本とかあるにはある。
異世界を堪能した後に元に戻るのを視野に入れてもいいだろう。
「まあ、前置きはいいんだ。本題はこれからだ」
「……能力……ですか?」
「そうだ。転生させる際に困らないことがないように能力を付加させられる。どんな能力でも付けさせてやる」
「少し考えさせて下さい」
好きな能力を付けさせてもらえる、つけたい能力は沢山ある。沢山あるのだが……。
最近では、チートとかも流行っているようだ。かと言ってチート能力をもらうのか?
あまりに、ありきたりすぎるだろう。しかも、チートで無双などして何が楽しいのか。
もっと言えばチートの元の意味は「騙す」だ。その主張に特に意味は無いが……。
だがさすがに何も無いのは少し不安だ。俺には……。……そうだ、なろう小説だ!
「よし、決めた。俺は普段から小説を読んでいるので、それを元にした言動に攻撃判定をつけてくれませんか」
「ほう……なかなか学があるみたいだな……。良いだろう、そうしてやる。あ、身体能力も上げることができるが、どうする?」
学があるかどうかは分からないが……。身体能力は普通でいいだろう。
「普通にしておいてください、適当に向こうの世界の力の平均でも取ってくれませんか」
「え……それで本当にいいのか?」
ぽかんとした表情になった神がそこにいた。普通でいいと言う人は今までいなかったのだろうか。
「構いません」
他人に付加された異常な身体能力でちやほやされたとて、何も楽しくないだろう。
たとえ元に戻れるとしてもだ。元の世界に強く戻りたいと考えている訳では無い。
「その能力であれば恐らく小説の言動1000回ぐらいで戻れるようになるだろう……あくまで予想だが……」
「わかりました」
なるほどな、普段からなろう小説読み耽ってる俺には造作もないことだ。
その時、ポケットに物が入っていたことを急に認識した。そうだ、こいつを使えるようにしてもらおう……。
「あとこれを使えるようにしといてくれませんか?」
そう言って俺が出したのは薄い金属の板、スマートフォンである。
「別にそれは構わないが……どの機能を使うと言うんだ?」
「とりあえず無いと不安なんです。充電とかも切れないようにお願いします」
「まあそっちがそう望むのならそうするが……」
困惑しているようだが、これが無いと何も始まらない。ようやくこれで、全ての準備は整った。
「もう望むことは何もありません。転生する準備は出来ました」
「そうか、もう良いんだな?」
「大丈夫です!」
「よし、じゃあ異世界に転生させるぞ!」
その声が聞こえた直後だ。手足の感覚がなくなる。視界が奪われる。何も聞こえなくなる。そこに意識はもう無かった。
参考文献)
・冬原パトラ,異世界はスマートフォンとともに。,2013
・FUNA,私、能力は平均値でって言ったよね!,2016