渡部さんちの美々ちゃん
「おかえり。」
我が家の台所に立っていたのは福丸の母親みやこさんだった。
「自分ちのようだな。」
とどの口が言うのか福丸が言う。
「家にいても誰も帰ってこないんだもの。あんたはここに帰るしお父さんはひったくり犯に奪られちゃったし。」
「死んだみたいな言い方するなよ。」
福丸の父親は警察官だ。事件が続いてこのところあまり帰っていないらしい。
部活が朝練ばかりなのもこれらの事件の影響だ。
「みやこさん、今日光が丘区の豪邸に住む美少女と話したの。福丸、でれでれしてたよ。」
「言うかな、普通。」
「ミミをハノンなんて言うからよ。同い年くらいだったけど、見たことない子だった。」
みやこさんの反応は意外なものだった。
「あ、それ渡部さんとこの美々ちゃんでしょ。」
「知っているの?!」
「幼稚園に入る前に海外に行っちゃったのよ。小さい頃から美少女だって評判だったの。渡部さんのご主人、アメリカのITとかなんかそんな会社で働いてるのよ。あの豪邸、売らないのかしらね。」
幽霊じゃなかったのか。心の中でがっかりする。
しばらくしてミミが帰宅し、仕事を終えた母親も帰宅した。
「堂本さん、光が丘の渡部さんとこの娘さん帰って来てるんですって。」
「ああ美々ちゃんね。高校が夏休みの間だけ帰って来てるんじゃなかったかしら。渡部さん夫妻は来週末に帰国するって。あれだけ可愛い子が1人だなんて、なんだか危ないわね。」
あんなに可愛いうえに、アメリカ育ちときたか。
「ねぇ、なんでそんなに詳しく知っているの?」
みやこさんと母親は何故か得意そうな顔になる。
「主婦たちの情報網はすごいのよ。」