心を奪われた福丸
「あの、うちの猫がすみません。首輪をつけたのはあなたですか。」
ミミを追ってここへたどり着いたこと、首輪をつけていなかった理由を説明する。
「飼い猫だったのね。あまりに懐っこくて可愛かったから…ごめんなさい。」
彼女がミミの首輪を外して頭を下げると福丸が慌てて顔の前で手を振る。
「いやいや、よかったらこれからもハノンを可愛がってやって。」
福丸をじろりと睨む。
けれど、彼女がミミを無理に連れて来ているわけではない。
ミミが自分でここに来て、ごはんまで要求しているのだ。
「ごはんまでいただくのは申し訳ないのですが、これからもミミが遊びに来た際には遊んでやってください。」
結局福丸と同じようなことを言う。
「ありがとう。」
彼女はにっこりと笑った。
破壊力抜群の笑顔だった。
「どこの高校か聞けばよかったな。」
帰り道、福丸が話しかけてきたが聞こえないふりをした。
あれだけの美少女だ。地区が違うとはいえ一度も噂を聞かないのは不思議だった。
「可愛かったな。」
今度は独り言のように福丸が言う。
福丸はすっかり心を奪われてしまったようだ。
彼女、幽霊とかならいいのに、とこっそり思う。