置き去りナナちゃん
「そうすると、この男は君だね?」
1人の警察官が尋ねる。
「違います。どこの誰なんですか?この極悪男は」
山田が答える。
福丸と私は驚いて目を合わす。
警察官2人もふたたび目を合わす。
今、山田は写真の男を見て「極悪男」と言った?
「なんで極悪男なんだよ」
福丸の声は少し緊張している。
「福丸、警察官が聞くってことはこの男は何か悪いことした、って山田が考えるのは当然よ」
フォローしながらも私も少し声がうわずる。
「今この写真を見て極悪男と発言したね。つまり君はこの男が何かの事件の犯人であると知っているということかな」
警察官が慎重に確認を取るように言う。
「あ、はい」
ふたたび山田はあっさりと認める。
「まだ何の写真か聞いていないのになんでわかるんだよ。この男は何かの被害者かもしれないし、犯人とはかぎらないだろ」
福丸がたまらず口を挟む。
「いや、この男は犯人だよ」
山田の返事は変わらない。
「どうして犯人だってわかるんだろうか?犯人が君だから、ってことじゃないのかな」
警察官が妙に優しい口調で山田につめよる。
「え?なんで?」山田は驚いた顔をする。
私も福丸も何がどうなっているのかさっぱりわからない。
「結局、この写真はなんなんですか?」
私が尋ねると、警察官の片方がようやく写真について説明してくれた。
「この写真は、ひったくりの通報があったあとATMでキャッシュカードを使おうとして不正利用と判断された男の写真なんだ。
暗証番号を忘れただけかもしれないが、複数の金融機関のATMでこの帽子の男が映像にうつっていてね、こいつが犯人だと睨んでいたんだ」
「ナナちゃんを連れた僕たちに声をかけたのは?」
「結局犯人の顔がはっきりうつっている映像がなかったったんだよ。ATM
近くで聞き込みしようと思っていたら、犯人が連れてた特徴ある犬によく似た犬を連れた君達を見つけたっていうこと」
なるほど、と福丸と私は納得した。
警察は最初に福丸を疑って、今は山田を疑っている。
しかし山田のよくわからない言動に混乱させられている。
「この男、ひったくりまでしていたのか。どうしようもないやつだな」
山田が呆れたように言う。
「他人事みたいな言い方するね。それにひったくりまで、って他にはどんな悪いことしたの」
警察官も山田の口ぶりに呆れたように言う。
「こいつはね、ナナちゃんを置き去りにした極悪男なんだよ」
山田がめずらしく怒りをあらわにする。
「え?」
「置き去り?」
一体なんの話なのか。
「君の飼い主はいったい誰なの?」
警察官がナナちゃんに向かって尋ねる。
ナナちゃんは警察官の前でごろりとお腹を見せた。




