『月』
月の光が深い森を照らしている。
彼女は月の光を便りに深い森の中を走っていた。
彼女は黒い影から逃げていた。四方八方から短刀が彼女を襲う。彼女は鋭い瞬発力を利用して全ての短刀を避け立ち止った。
「なんなんだ!!お前ら!」と痺れを切らせながら彼女は大声をあげた。
「クックッ…。久しぶりだね?衣舞。」という声と共に彼女の前に銀髪の青年が現れる。彼は悪戯をした子供のように笑った。
「ゆう…」と彼女はまるで幽霊でも見たように彼の名前を呼んだ。
彼は衣舞を抱き締める。
「ごめんね?君の力を試してしまった」と彼は衣舞の耳元で静かにそう言い笑った。
「貴方、死んだはずじゃ…」と衣舞は涙を流し、彼の手をぎゅっと掴んで彼の顔を見上げた。
「いや、早奈のおかげで生きているよ。早奈が裏切り者を教えてくれたおかげでね」と彼は衣舞から離れると右手を上げた。
森の中から一人の青年が現れる。
「こいつは龍。戦闘はまるっきりダメだが、彼の治癒力を使えば彼らとの戦闘は可能だろう。早奈に伝えてくれ、俺達は心綺の家の周りの森で待機している。裏切り者が携帯電話に爆弾が仕掛けたみたいでな携帯電話は粉々に吹っ飛んでしまった。それと彼が心綺の家に向かっている。」
「わかった」と衣舞は携帯電話でメールをうち込んだ。
「龍。衣舞を頼む」と彼は心配そうにそう言った。
「お任せを…」と龍は彼に頭を下げる。
「祐は一緒に来ないの?」
「奴を騙すには俺らは死んだということにしておいたほうがいいだろう?早奈もそう考えるはずだ」と彼はそう言ってもう一度衣舞を抱きしめた。本当は離れたくない。でも、そんな我が儘言ってはいられないことを祐は知っていた、もちろん衣舞も…。
「俺らはさっきも言ったとおり心綺の家の周りで待機している。衣舞、くれぐれも気をつけて」
「貴方も気をつけて」と衣舞は彼に携帯についている白い貝のお守りを渡して彼を振りかえりもせずに走り出した。
祐はそんな愛しい衣舞の後ろ姿を見ながら月を見上げた。
この戦いはいつ終わるの兄さん…?。兄さん達はどこで何をしているの?
俺らはいったいいつまで…?
月は何も語らず祐をただただ見下ろした。