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『判断』

その頃、早奈はお風呂でシャワーを浴びていた。

熱いお湯がシャワーから溢れていく。もうすでに40℃はゆうに超えているだろう。

なにも考えたくなかった。次々と早奈の体から赤い血が流れて行く。奴らの返り血に自分の血が混ざっていく。血のあの独特な臭いが鼻につく。早奈はそれを見ながらぶつぶつと何かを呟き耐えきれなくなって顔を手で覆って泣いていた。

今日、自分が犠牲にした命の数を彼女は全て知っている。天の使徒がテロをすると言った時、彼女は関根と武を守るために彼らを犠牲にさせた。誤算だったのは武が俊達と一緒に戦いに参加してしまったことだった。それ以外は上手くいった。

このことを知っているのは名刀、海聖、弥譜音はもちろん、樹希翔、真良輝、芽生、真斗、紅空、俊、嫌々ながら愛、幸哉、それに真護だった。おかげで死者は少なくてすんだし、戦闘準備と強い者を選抜することが出来た。でも、失くしたものは大きかった。早奈はその大きさ背負いきれなかった。自分があんな命令を出さなければ…私が天の使徒にいけば彼らは生きられたという思いが早奈の中を渦巻いていた。

「早奈。大丈夫?」と女の子の声が外から聞こえた。

早奈は何も言えずにドアを見つめていた。ドアの外の真良輝はジャージャー流されるシャワーの音を聞きながら言った。

「早奈が全て抱え込むことはない。早奈の判断は正しかった。あの状況ではあれしか方法は無かった。私たち、伝播主は生き残る必要がある。たとえこの命が短いって分かっていても負の遺産を未来に残す訳にはいかない。私たちで立ちきらなきゃ。それに止めなかった私たちにも罪はある。早奈が一人で抱え込むことはない!!」とそれだけ言って真良輝の気配は消えた。

早奈はその言葉でなんか気持ちが楽になりシャワーを止め、外に出た。

そして、真良輝がその言葉を泣きながら言っていたことに早奈は気づいた。お風呂に入る前に早奈が手すりにかけておいてバスタオルがバスマットの上に落ちていた。拾いあげるとそれは誰も使っていないはずなのに微かに濡れていた。彼女は人前では絶対に泣かないし、泣いた証拠も残さない。服の袖で涙を拭けば泣いたことがバレテしまうから真良輝はバレないように近くにあったバスタオルを握りしめ泣きながらそう早奈に言ったのだろう。

そう思うとまた涙が溢れてきたが、早奈は唇を噛みしめてそれを我慢した。ここで泣いている訳には行かない。私はもっと強くならなきゃならないと早奈はそう思った。

早奈はお風呂から上がると服を着て茶の間に行った。心綾は髪をふきながら出てきた早奈を見ると冷たいお茶を渡し「もう出てくると思って作った。」と言うとニコッと笑った。

「ありがとう」と早奈は礼を言い「突然、押し掛けてごめん。大変でしょ」

彼はいつも絶やすことない優しい笑顔を早奈に返し言う。

「そんなことない。こんな広い部屋、僕ら3人じゃもったいない。それに…」と彼は早奈に耳打ちした。

「紅空も喜んでいる。」

早奈は無表情で空を眺めている紅空を見た。彼が喜んでいるようには見えないが…一緒に住んで心綺がそう言うのだからそうなんだろう?

「それにもうすぐ、大学から衣舞ちゃん帰ってくる。そしたら喜ぶ」

衣舞とはこの家のもう一人の住人。彼女の行きたい大学がこの埼玉にあったということでこの家に心綺達と共に住んでいた。衣舞は早奈と同い年であり、偶然にも誕生日が一緒なこともあって非常に仲良しである。その言葉に早奈が一瞬嬉しそうにしたのを心綺は見逃さなかった。

「嬉しそうだねぇ。早奈」と心綺がそう言うと彼女はそんなことない!とピシャリと言って黙ってしまったが彼女は本当に嬉しそうだった。心綺はその表情に嬉しく思いながら彼女にお茶を渡した。

彼女は左手でお茶を受け取るとありがとうと言った。心綺は首を捻った。

彼女は確か右利きだったはずだ。

「早奈。右手、どうかしたの?」と早奈が強がりということを十分理解している心綺は手っ取り早く彼女の右腕を掴む「いっ…」彼女は驚いた顔と悲鳴に似た声を上げて右腕を左手でぐっと掴み背中を丸めた。

どうやら痛みに耐えているようだ。「弥譜音!」と心綺は二階から降りてきたばかりの彼に声をかけた。

弥譜音はため息をついて立ち上がると「早奈。やっぱり怪我していたのですね」と言った。

「うるさい!大丈夫だって」と彼女はそう怒鳴った。

「ほっておくと動かせなくなりますよ?」

その言葉に早奈は静かになった。「心綺。隣の部屋開いている?」

「うん。」と心綺は返事を返した。「おいで」と弥譜音は早奈の左腕を掴み、隣の部屋に連れこんだ。

「早奈。どうしたの?」とその一部始終を見ていた樹希翔がそう聞いた。

「利き腕を怪我した」と心綺「そう…」と彼は心綺に近づいて関根には聞こえないように言った。

「怪我人が多くて今は戦闘体制に入れないけど、どうするつもりだろ?」

「それは…皆が来てみなきゃ分からない。報告を聞くしかない」

「8時には全員集まるのか?」

「衣舞から連絡が入った。情報収集を頼んだJが全滅。だから真斗からの情報に変更。9時には帰るって。」

「それは道霧から聞いた。送り届けて道霧も参加するから8時には帰るって。」


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