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『心綺と紅空』

「この子は良い検体なんですがね」と心綺を医療カプセルに入れながら一人の男が言う。

「いくらウィルスでも性格の全ては変えられないからな」と隣にいる青年がそう言った。

「G-7でナリソコナイにならなかったのは彼ら2人だけなんでしょ?」と男は医療カプセルに心綺を寝かせるとそう尋ねた。

「ああ。まさか一番ダメだと思っていたハーフの子に一番一致するとはね」と彼は笑いながら医療カプセルの中で眠る男の子を見た。

「あとで懲罰房へ入れておけ」と彼はそう言うと部屋から出て行った。


「ごめんなさい」と叫ぶ子供の声が暗闇から聞こえる。

灰色の暗い部屋で男の子が二人泣いている。彼らの前にはタバコをふかした男。

上半身の服を脱がされ後ろ手に両手を縛られ心綺と紅空の二人は男達から与えられる痛みに泣いていた。彼らの背中には複数のみみずばれが飛んでいて見るからに痛そうだ。

「お前らは兵隊だ。言われたことに従え!!なぜ、殺さなかった」と男が怒鳴っている。

「今から隣の奴を殺せば許してやる」と男が心綺の耳にそっと呟く。

「いやだ!!許して。それだけはいやだ」と彼はずっと叫んでいた。

「おまえはどうだ?」と紅空に男が囁く。悪魔のささやきのようだ。しかし、紅空も黙ったまま首を振った。

男がもう何個目になるのかたばこを紅空の背中に押し付ける。それでも彼は何も言わなかった。悲鳴を一つも上げない。

怒りに満ちた男は手が出せない彼らを蹴りあげ投げ飛ばした。

心綺は悔しいと思いながら手さえ動けば殺してやると思いながら彼らを睨んでいた。


心綺と紅空はそれ以来会うことはなかった。

心綺は6歳になると牢屋の暮らしから検体の暮らしに変わったからだ。血や髄液を取られ体全てを検査された。

嫌だったのは研究員が彼に投与する薬だった。まるでモルモットのようにいろいろな薬を体に投与され、吐き気が止まらない日も頭の頭痛が止まらない日もあった。毎日、体がダルく一日中動けない日もあった。目の前で同じ薬を飲んだ子が苦しんで死んでいく姿を見ることもあった。そのたびに涙が溢れて止まらなかった。死んだ子は運ばれる際必ずきつねのぬいぐるみが遺体の上に乗せられていた。

「いやだ!もう止めて薬なんか飲みたくない」といえば彼らは必ず心綺を殴りつけた。

だから、心綺の顔には生傷が絶えなかった。


気が付けばこの施設に来て3年がたっていた。

3年たったある日、いつものように畳の部屋に寝ていると明け方、一人の女の子と共に紅空が入ってきた。「良かった。君はナリソコナイじゃないんだね?」と彼女はそう呟く。

「ナリソコナイ?」と彼はそう聞いた。彼はナリソコナイというものを知らなかった。

「まぁ、いいわ。早くここから出ましょう」と彼女はそうナイフを握りながら言った。

「ここから出る?ここから出ることが出来るの?」その言葉に紅空が頷いた。

「この人達が出してくれる。心綺(こあ)」と紅空が差し出した手を心綺は取っていた。

そして、心綺と紅空はパルパックから抜け出した。


心綺の話を黙って聞いていた紅空がぼそりと呟いた。

「早奈が外に出してくれた」それだけ言うと彼は心綺のお茶を勝手に飲んだ。

「それ俺のお茶だよ。紅空のはそっち」と心綺が困った顔でそう言う。

「飲んだ」と彼は自分の前のコップを彼に見せる。彼のお茶は全て無くなっていた。

「おかわりっていえばいいんじゃない?」と真良輝が言うと彼は興味なさそうに中庭を眺めた。「性格わるっ」と真良輝がそう呟く。

その言葉に心綺は苦笑いしお茶を淹れなおすと彼の前にお茶を置いた。

「気にしないで、仕方ない。紅空はウィルスの影響で脳に障害が出た。」と心綺は無理に笑顔を作った。


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