『逃ヒ』
(8)
「早奈。つらい?」と樹希翔は急いできたように息を弾ませぐったりした早奈に尋ねる。
早奈はこくんとうなづく。
「どこが辛い?」
そう聞かれても体全てが重い…まるで自分の体じゃないように…。
「名刀。早奈、熱があるのか?」
「ああ。かなり熱がある」
「一刻も早く熱を下げたい感じ?」
「まぁな、このままだと脳がやられるだろうな」と名刀は心配そうに言った。
「ふーん。じゃあ熱を一時的に下げていいんだね」というと樹希翔は早奈の額を一度人差し指で突いた。
ぱーっと体の温度が引いたのを感じて早奈は樹希翔を見る。
「肩痛いでしょ?」と樹希翔はそう言うと今度は早奈の傷口よりちょっと上を中指で突いた。肩の痛みが引く。
「おい!樹希翔。お前何を…」と名刀が怒鳴る。
「そんなに怒鳴らなくてもいいだろ?ツボを突いて神経を麻痺させたの。早奈。ちょっと楽になったでしょ」と樹希翔はイタズラそうに笑った。
「体に負担はないんだろうな?」と名刀が彼を睨む。
「うーん…負担はないよ。ちなみに効果は約一時間…まぁ、単なる気休めだけど変に体力使わなくていいんじゃない?」
「ありがとう」と早奈が小さく呟くと樹希翔がびっくりして言った。
「名刀。なんか早奈が素直すぎる…本当にヤバいみたいだね」名刀はぐったりしている早奈を両手で持ち上げながら言った。
「ああ。薬を飲んでいないから病原が暴れだしている。今はまだ少し体に残っている薬が免疫を上げているが消えた瞬間、病原が第2ステージに移る危険性がある」
「なんか良く分かんないけど早く脱出しないとならないんだろう?」名刀はうなづいた。「じゃあ、地下通路に案内する。」と樹希翔はそう言った。
カンカンという足音がコンクリートで出来た地下通路内に響く。切れかかった電球がバチバチ頭上で音を立てている。樹希翔の案内で早奈達はあの地獄から奇跡的に脱出した。ここに潜った後、一応楓が地下の入口を爆破して奴らを足止めしたが彼らは全速力で走っていた。
「樹希翔、なんでここにいると分かった?俺達は早奈達を助けに行くとお前には言ってないぜ?」と名刀が尋ねた
「うん?道霧からヘルプメール貰った」と樹希翔は携帯を出して笑った。
「道霧が携帯のGPSをonにしておいてくれたから見つけやすかった」
名刀は道霧を見た道霧は舌を出して笑った。
「俺らより樹希翔を信用したのかよ」
「いや、名刀達が早奈を助けにくるのは分かっていたがな、スパイに慣れている樹希翔を呼んでおけば何かあったら抜け道を教えてくれるかな?と…保険かけておいた」と道霧。
はぁと名刀はため息をついた。「おかげで助かった」と名刀はそう溢した。
「樹希翔もたまには役に立つんだねぇ?」と海聖がからかうように言った。
「たまには…ってなんかひどくない?」と樹希翔はそう言いながら地上への階段を上った。
やがてどこか森の奥のトンネル内に出た。月の光を便りに彼らはトンネルから外に出る。
外は暗闇でまんまるの月だけが光っていた。獣声が響いている。
「樹希翔。ここはどこだよ」と名刀が呟く。
「えっ?十二条神社の境内だよ」と樹希翔はそう言って笑った。
「なんでこんなところと警察署がつながっている?」と真良輝が伸びをしながら尋ねた。
「下水道の神秘だね」と樹希翔は笑うとその声にこたえるように「なんだー生きていたんだ!!」という声が暗闇の森の中から響いた。