『多重人格!?』
『多重人格!?』
ガタンと重い扉が開かれて名刀と真護と愛の3人は開かれた扉を見た。
「名刀!武は見つかったか?」と早奈が大声をだして部屋の中に入ってきた。
その様子を見た名刀は早奈と弥譜音の異変に瞬時に気づき心配するように駆け寄
って来た。
「おい!大丈夫か?」
「えっ?何が?」と早奈が呟いた瞬間、後ろにいた弥譜音の体が早奈に倒れてく
る。
「弥譜音!?」と早奈は大声を上げた。
「おっと…」と倒れていく弥譜音の体を間一髪で名刀は支えると床に降した。
ぬるっとした感触がして名刀は自分の手を見た。手はべっとりと赤い血に濡れて
いた。
名刀はそれを見て眉を潜めると弥譜音の着ている服を慌てて破いた。
傷だらけの肌の中に血だまりが浮いていた。ちょうど、みぞおちと呼ばれる場所
に…
愛を呼ぼうとした次の瞬間、聞こえてきた悲痛に近い悲鳴に名刀は早奈を見た。
早奈は頭を抱え悲鳴でも叫び声でもない声を発した。その声に名刀は早奈に駆け
寄り、慌てて口を塞いだ。赤い瞳に変わりつつある早奈がそこにいた。
ぎゃあああああ!!!人間が発する声ではない声が早奈から発される。
名刀は早奈の腕を掴み叫んだ。
「海聖!!早奈が!!早奈が!」
「早奈ちゃん!!」と愛が駆けつけようとした。それを名刀が止める。
「来るな!!早奈に殺されるだけだ」
早奈の髪と瞳が真っ赤に染まった。
異常に気づいた海聖が駆けつけた。
「どうした?名刀…」と海聖は早奈と名刀を見て大声を発する。
「なにしているんだ!!名刀。早姫が来る!早く離れろ!!殺されるぞ!」
「なら、俺も名輝を出すまでだ!!」と名刀は怒鳴る。
「本気か?」
「ああ。」と名刀は海聖をみる。その瞳は赤い目から青い瞳に変わっていた。名刀の髪が海聖のように金髪に変わる。
「おい!!やめろ!戻れなくなる…」という海聖の声はもう名刀には届かなかった。
早奈がもう一度悲鳴を上げた。
そして、海聖を見て笑った。
その笑みがあまりに薄気味悪くて海聖は背筋が凍える気がした。
「ここに出てきたのは何年ぶりだろうな?なぁ?海聖。海人は元気か?」と早奈がしゃべった。しかし、それは早奈ではない。早奈の中にいるもう一人の早奈、早姫だった。
「海人は死んだよ」と海聖は震えながら呟いた。
「ははっ!!死にやがったか!だから、今はお前がそいつの支配者か!」と早姫は笑った。
「うるせぇぞ。早姫。」と金髪になった名刀が静かに言った。
「俺の眠りを覚ますな!!てめぇが出て来たから名刀が俺を起こしやがったじゃねか」と名刀が早姫を睨んだ。
「あら?名輝じゃない」と早姫は赤い瞳で彼を睨んだ。
「呼び捨てか?てめぇ!!」と名輝は握っていた早姫の手を掴み、片手で早姫の体を持ち上げ壁へと投げつけた。
早姫の体はひどい音を立てて飛んで行った。
早姫は壁にぶつかる前に壁に足をつくと人間とは思えないジャンプ力で名輝に早奈、愛用のナイフを握って襲いかかった。
ダルそうに名輝は頭を掻き彼女の攻撃を避けると隙が出来た彼女の胸に手を当てた「バースト」と名輝が呟くと小さな爆発が名輝の手で起きた。早姫の体から血が噴き出す。しかし、早姫は怯むことなく。ナイフを名輝の首に走らせようとした。間一髪でそれを避けるように名輝は後ろに下がった。名輝の顔に一筋の赤い線が走る。
床に足をついた早姫は胸から大量の血を流しながら笑った。
「やっぱり、お前に痛みがないんだな?」と名輝が呟く。
「お前にだって痛覚がないだろ?」と早姫は血を舐めながら言った。
「俺には痛覚はあるさ。ただ、視力がない。目に映る怖さを知らないために俺は視力を取られた」と名輝は笑った。「まぁ、そのおかげで恐怖がないんだがな」と早姫の元へ走ってくる。「その体は早奈のものだろ?あまり傷つけるわけには行かないからな。もう決めさせてもらうぜ」と彼は名刀の愛用の刀に手をかけた。
「望むところだぜ?」と早姫が真っ正面から突っ込んでくる。
早姫は名輝の間合いに入ると天井へジャンプする。それを追いかけるように名輝が地を蹴って飛び上がった。
それから、何があったのか海聖には分からなかった。
気づけば跳び上がった名輝が早姫の足を捉え早姫の体を力いっぱい地上に投げつけた。
そして、早姫が地上に落ちて気を失ったようにしか海聖には見えなかった。
しかし、地上に降りた名輝はキンと刀を鞘に収める音を出した。
いつ彼が刀を抜いたのか海聖には分からなかった。早姫を地上へ投げる時には確かに刀は抜けてなかった。
早姫が気をうしなったのを見ると名輝は一息ついて血を流し、虫の息となっている。
弥譜音の傍に座り込み血の溢れる傷口に右手を当てた。
青い柔らかい優しい光が弥譜音の傷口を照らす。
やがて、名輝は立ち上がり海聖に言った。「致命傷となる傷は癒した。あとを頼む」
「あ…ありがとう」と海聖は彼の顔を見た。
「なんて顔しているんだ?海聖。」と名輝は笑って言った。「久し振りだな?もう会えないとおもっていたよ」と彼はそう溢した。
「僕もさ」と海聖はふわりとほほ笑みかえした。
「じゃあな。俺はもう役目を果たしたから寝る。もう二度と会えないかもしれない。海聖、名刀を頼むな」と名輝は笑った。「やっぱり、戻るのか」と海聖。
「ああ。そういう約束だからな。」と名輝は苦笑いをして目を閉じた。名刀の髪や瞳が元の赤い色へと戻った。
その体を海聖は支え、床に寝かせた。