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『カイキ』

『カイキ』

次の日、学校の廊下で武に会った。

「おはよう!!」と早奈が声をだすと武はおはようと声を返してくれた。

早奈は武に近づき「今日メールがあるからその場所にきてね」と小さな声で呟くと武に手を振り教室へ戻った。

授業が終わった後、メールが来ていた。

武は震える手でメールを開いた。そこには「午後4時世田谷線世田谷駅」と書かれていた。

武は十二条駅から電車を乗り継ぎ4時に世田谷駅に着いた。うろうろしているとサングラスをかけた男が武の肩をたたいた。

「武。ちゃんときてくれたんだね?」と彼はサングラスを外した。。20代前後の男がそこに立っていた。武はその顔に見覚えがあった。それは弥譜音だった。

「弥譜音さん?」

「弥譜音でいいよ。」と彼はそう言って笑った。

「保坂は?」

「早奈は今、トイレにいます。」と弥譜音は時計を気にしながらそう言った。

その頃、早奈はトイレで胃の中のものを全て吐いていた。薬の副作用で早奈は食事を食べては吐いてを繰り返していた。この事はたぶん弥譜音も名刀も海聖でさえ知っているだろう。

体がだるい。それでも早奈はもう一度、薬を取り出しお茶で流し込むとふらつく足でトイレを出た。

ふらふらしているとトイレを出てきたところで誰かに腕を掴まれる。

「おい、大丈夫か?」と早奈の顔を覗いてくるのは弥譜音だった。

「大丈夫」と早奈はそう返したが見るからに顔色が悪かった。

「早奈。ベンチに座ろう」と弥譜音は早奈をベンチに座らせる。

早奈はベンチに横になった。

「すぐ良くなるからちょっと休まして」と早奈は目をつぶった。

「分かった」と弥譜音は早奈の頭を撫でると早奈の隣に座り込んだ。

「武!!座りな」と弥譜音はずっと突っ立っている武に声をかけた。

「大丈夫なのか?」と武は弥譜音に聞いた。

「いいから、俺の隣に座りなさい」と弥譜音は武に座るように促した。

武は弥譜音の隣に座り込んだ。

「早奈なら平気だろう。彼女がじきによくなると言っているんだから大丈夫」と弥譜音は早奈の頭を撫でながら言うと早奈を愛おしそうに見ていた。

「弥譜音。早奈は病気なのか?」と武。

「そうだね。持病と呼んでいいのかな?まぁ、生活には何も保障はない」と弥譜音はそう武に笑顔で嘘をついた。

早奈の症状はもう立っているのもつらいほどの症状まで進んでいるはずだ。でも、早奈はそれを皆に隠している。早奈が隠しているかぎり弥譜音も名刀も嘘をつきとおすことにしている。

やがて、早奈は30分後に目を覚ました。

「もう、大丈夫か?」と聞いた弥譜音に対して早奈はいつも通りに「ああ。大丈夫だ」と返して立ちあがった。

「今、何時だ?」

「今か?7時半だが?」と弥譜音。

「ちょうどいいな。」と早奈は立ち上がった。

「弥譜音。奴の情報だとあいつは8時に現れるんだよな?」と早奈は弥譜音にそう尋ねた。

「そういう情報がはいっている」と弥譜音。



8時に早奈達は練馬のある住宅街を歩いていた。

「こんなところで何かあるんですか?」と武は早奈と弥譜音にそう尋ねた。

「ああ。ある取引があるんだ」と早奈は武にそう呟くと近くの塀をよじ登った。弥譜音がそれに続く。

「ちょっと!!何しているんだ?」と武は叫んだ。

「何って?奴らをここで待つんだよ」と早奈は勝手に他人の家の屋根に上って言った。

「ここで待つの?」と武はしぶしぶ塀に足をかけながらそう尋ねた。弥譜音が武に手を出しながら言う。「そうだよ。ここがベストポジション」

「何の取引だ?」と武は尋ねた。弥譜音が困った顔をして早奈を見る。

「ある取引だ!!」と早奈はサラリとそう言って登った屋根の前の道から見えないように身を低くした。

弥譜音と武も早奈の隣に隠れた。


やがて、目の前の道に黒いスーツの青年がやってきた。暗闇ということもあって男の顔は見えなかった。

反対側からは細い体つきの挙動不審の男がやってきた。

挙動不審の男は黒いスーツの男に尋ねた。

「お、お前がカイキか?」

「ああ。そうだよ」と黒いスーツの男は彼に笑った。

「ち、ちゃんとわたしたからな」と彼は何かに怯えるような眼できょろきょろしながら彼に黒いスーツケースを押し付け逃げるように去っていた。

スーツケースを渡された男はため息をつくと困ったように頭を掻いた。

そして、スーツケースを持って悠々と歩きだした。

暗闇の中、男の顔が街頭の光に照らされた。

短い黒髪がいまどきの若者のようにワックスで上に向かって立っている。まだかなり若い、まるで大きめの黒いスーツを着て大人ぶっている少年に見えた。

不思議な違和感が彼には会った。

「弥譜音あいつだ!!」と早奈が屋根から彼見て呟く。

「カイキに…。間違いなさそうですね」と弥譜音は彼の様子を見ながら早奈にそう返した。

「武。お前はここにいろ」と早奈は突然、青年の前に飛び出した。

早奈の背中を追って弥譜音も飛び出した。

「えっ!!ちょっと」と武は叫んだ。しかし、その声は早奈の声に消されてしまった。

「カイキ探した」と早奈は青髪の青年にそう言った。細い練馬の住宅街を歩いていたカイキはその言葉に口の端をつりあげた。

「久しぶりだね、僕を殺しに来たの?それとも……これかな?」と彼は持っているトランクを指して笑った。

「さぁね」と早奈。

「早奈。創立者に歯向かうなんて君には出来ないね、お前の中には僕の遺伝子も含まれている。要するに君は僕のコピー、コピーは母体を殺せないよ?」とカイキは昔と変わることのないにくたらしい顔で、そう言った。

「やってみなきゃわかんねぇだろ!」と早奈はズボンからナイフを出す。

弥譜音も武器に手をかけた。

カイキがその様子を見てにやりと笑った。

「ダメだな〜、早奈。ちゃんと相手の獲物を見なきゃ」とカイキは早奈と弥譜根の胸の前で手を広げた。

「バースト」とカイキが呟くと同時に早奈と弥譜根の体は宙に浮き、そして次の瞬間、家の塀を3つ壊し吹き飛ばされた。

そして、壁に強く背中を打った早奈と弥譜音はそのまま意識を失った。

武はその様子を屋根から息をすまして見つめていた。

「まったく…何の成長もしてないね」とカイキは意識を失った早奈と弥譜音を見てそうつぶやくと、塀の屋根でその様子を見ていた武を見て笑った。

「君が武君だね、久しぶり大きくなったね」

その笑みはなにかを企んでいる顔だった。

武は彼のその笑みを見ただけで屋根の上で気を失った。

「記憶は失っても身体のほうは全て覚えているみたいだね」とカイキはそう言うと携帯を取り出した。

「ニイ?俺だ。武を捕まえた。至急、人をよこしてくれ」携帯をしまうとカイキは住宅街へと姿を消した。


「早奈!」という弥譜音の声で早奈が目を覚ましたのはお昼すぎだった。

頭がくらくらする…と思いながら早奈は体を起こした。

「今、何時だ?」

「15時だ」

「くそっ…頭痛い」と早奈は頭に手をやりながら弥譜音を見上げた。

「カイキは?」

弥譜音は首を降りながら「俺が目を覚ました時にはもう…」と言った。

「そうか…」と早奈は呟いて下を向いた。

何か異変を感じ早奈は辺りを見渡す。何かが目覚める時と違う。

何が違う?早奈は記憶をたどった。

「弥譜音!武は?」と早奈は慌てて弥譜音に聞いた。

弥譜音は首を降った「分からない。愛に連絡したが戻ってはいないらしい…」

「カイキが連れ去った可能性は?」と早奈。

弥譜音は少し沈黙し「否定は出来ない。武の中にはダブーの一番が隠されているからな」と言って携帯を打った。

「今、武の行方を探すように指示を出しているから…」といつも冷静な弥譜音がやけに焦っているように早奈には見えた


漆黒の闇。その中に見える赤い光。その光の中で一人の少年がこちらへ手を伸ばしている。

「お兄ちゃん!」幼い自分の声がこだまする。

傍に駆け寄ると少年の隣に髪の長い少女が赤い光の奥で武と少年に手招きをしている。

少年は武を見ると微笑んで少女の元へ走って行った。

「待って!行かないで!おいて行かないで!」と叫ぶ幼い自分が見えた。

また、暗闇が目の前を支配する。


やがて、水の落ちる音が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある音…。

また、この音…と思いながら武は目を開けた。

灰色のコンクリートの天井が見えた。どこかで見たことのある風景だ。

武はデジャブ感を覚えながら「ここは…どこだ?」と呟いた。

「お久しぶりだね、武君?」と頭上から声が降り注いだ。

「おまえは誰だ?」と武は体を起こそうとした。

しかし、体はきっちりベッドに固定され動くことが出来なかった。

「あ、ダメダメ。君はここに捕われている身だから大人しくしててね、さもないと…」と彼は武を除きこんでニヤリと笑った。

突然、武の体に電気がながされた。

うああああっ…と武は悲鳴を上げた。体に酷い痛みが走る。

その様子を見てカイキは口の端をつり上げた。

「さぁ、武君。武士を出してくれよ」とカイキは呟き痛みに悲鳴を上げる武を楽しそうに見つめた。



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