『会議』
『会議』
早奈とその他男3人は武と別れた後、渋谷駅にあるお店に向かっていた。
人通りの多い道からちょっとずれたところに古びたカフェがあった。
4人は無断で中に入った。
「さびれすぎじゃねぇ?」と名刀が呟いた。
「本当だね」と海聖は呟いて本来マスターが座る位置に座って言った。「じゃあ、僕はここで待っているから、行っておいでよ。」
「よろしく」と名刀と弥譜音がそう言って店の奥に入って行った。
早奈が「気をつけて」と海聖に呟いた。
「大丈夫。大丈夫。」と言いながら海聖は愛用の拳銃の入ったホルダーを触った。
店の奥には地下へと続く階段があった。
3人は白熱灯で照らされた階段を降りて行った。
やがて、階段の先に銀色のドアが見えた。ドアノブに青いモザイク模様がある以外は普通の鉄扉である。弥譜音は自分の青い携帯を取り出すとノブのモザイク模様に近づけた。
カチャリという音ともにドアが打つ側へ開かれる。
その先には灰色にコンクリートに覆われた地下室が続いていた。地下室の奥には段差があり、その段差の上に10人位の男女が座っている。
その男女の前には青い髪の男がいる。
名刀が大声で彼に謝った。
「ごめん。樹希翔!!遅くなった。」
「いいですよー。まだ、集合時刻の5分前ですし!!」と彼はそう返してきた。
3人はのんびりと人が集まっている場所へと歩いて行った。
「樹希翔。これで全員か?」と名刀は尋ねた。
「うん。君たちが来てくれたから幹部も皆集まったよ」と樹希翔は言った。
早奈は集まった男女の顔を見まわした。
「あれ?俊。久しぶり!!」と早奈は前に座っている金髪の男を見てわざと驚いたように声を発する。
「あれ?じゃないだろ?俺が来るのを知っていたくせに…」と俊は苦笑いをする。
「まぁね。だって俊が一番安心だからね」と早奈は笑い返して俊の近くに座り込んだ。
皆の前に立っている樹希翔が大声をあげた。
「今日、緊急招集してもらったのは君たちに幹部と手を組んである集団を追ってほしい。指示は携帯で促すが、チームを組むからには顔を合わせておいたほうが何かとやりやすいだろう?だから顔合わせに集まってもらった」と樹希翔がそう言った。
目的は違うけど理にかなっているね。さすが樹希翔と思いながら早奈は欠伸を殺して話を聞いていた。
名刀は煙草を吸い始めながらその話を聞き弥譜音を見る。
「おい、弥譜音。お前がこのメンバーを招集したんだよな?」と名刀。
「そうだけど?」と弥譜音が何?というように言った。
「理由あるのか?」
「ありますよ」と弥譜音は答えて前に立っている名刀を睨んで言った。
「彼らは実績の面から一番信用できます。と弥譜音。
「データか?」
「データです。」
「そうか。」と名刀は納得して言った。
「分からないことは幹部またはリーダーに聞いてくれリーダーには全て話してある。まぁ、言えないことも含めてな」と名刀はそう言って思い出したように尋ねる「そういや、早奈、弥譜音。昨日の仕事は完了か?」
「けっこう楽でしたよ?」と弥譜音はそう言って早奈を見る。
「あのくらいはかるいね」と早奈はそう返す。
「難しいと思われる仕事は俺と早奈が全て引き受けましょう」と弥譜音。
「はぁ?仕事勝手に増やすな!!しかもまた弥譜音と一緒かよっ!!」と早奈は怒鳴る。
「お前が俺と名刀以外に従えるとは思わないがな?」と弥譜音が苦笑いを溢す。
「…武と俊なら平気だ!!」と早奈は強がって言う。
「こりゃ、おもしろい。じゃあ、武は弥譜音と早奈のグループな」と名刀が笑いながら言う。
「楓は紅黎と笙流がいれば平気ですかね?」と樹希翔が隣にいる茶髪の青年にそう尋ねた。
「平気です」と茶髪の青年、楓はそう言って弥譜音に笑いかけた。
「じゃあ、頼んだ」
「仰せのままに」と楓。
「名刀は真良輝と歌乃に着いてもらうとして…」と樹希翔。
「えっー名刀かよっ!!」と金髪の女の子が嫌そうに名刀を見た。
まだ、中学生の真良輝である。彼女は中学生のくせに結構頭がきれるが名刀との相性があまり良くない。なぜなら、名刀がからかうからである。
「おうっ!!おてんば娘。よろしくな?」と名刀が楽しそうに笑った。
「で、最初はどこへ行くんだ?」と真良輝。
「最初は俺と歌乃だけで行く」
「はぁ?なんでだよ!!」と真良輝は怒鳴りつける。
「お前、平日学校だろ?学校ちゃんと行けよ!!」
「なんだよ…お前まで義務教育とか言うわけ?」
「ああ。言うぜ?」と名刀は煙草に火をつけながら真良輝を見る。「お前と同じ年齢で死んで行った奴らがいる…。お前だって知っているだろう?そいつらは学校行きたくても行けなかった…。なぁ?そうだろ?なら、そいつらのためにも学校だけは行けよ」と名刀は煙草の煙を真良輝にかける。
真良輝はゴホッゴホッと咳込みながら怒鳴った。
「死んでいった奴らは学校がどんなところかしらねぇよ!!あんな箱のなかで何教われって言うんだよ!!」
「なんだろうなぁ〜?人間関係?」と名刀はそう言うと笑う。
「真良輝。お前は一人じゃねぇんだ。何か悩みでもあるならいつでもここに来いよ。ここにはお前と同じ境地に立たされている仲間がいるんだぜ!!」
「う…うるせぇ!!わかったよ!!学校行けばいいんだろ!!」と真良輝は半分投げやりにそう言い返す。
「お前が素直になるのは気持ち悪いなぁ?」と名刀は今、言った言葉を全てひっくり返すようにそう言って笑った。
真良輝はムッとした顔で名刀を睨みつけた。
名刀は面白そうに真良輝の頭を撫でると樹希翔を見る。「樹希翔は寛隆と俊と組むってことになるがいいのか?」
「何か不都合でもありますか?」と樹希翔は名刀に尋ねる。
「いや…3人とも短距離だな…って思って」と名刀は煙草の火を消すと携帯灰皿の中にいれる。
「別に平気じゃない?」と早奈がやる気なさそうに呟いた。「こっちは武が戦力にならないし…べつに強いかもしれないけど、下っ端なら問題ないよ」
「早奈。それはどういう意味だ?」と名刀が焦ったように聞く。
「そのままだけど?」と早奈は膝をつきダルそうに言う。
「武はまだ使えないってことか?」と弥譜音が尋ねる。
「そういうこと…。」と早奈はそのままコンクリートの上に横になる。体が燃えるように熱い。灰色のコンクリートが冷たく感じる。
「早奈?」と早奈の異変に気づいた弥譜音が早奈に声をかける。
「なんか…気持ち悪い」と早奈はそう呟くとそのまま下へ真っ赤な血を吐く。
「ちょっ!!早奈!!」と弥譜音と名刀が駆けつける。
「名刀。俺、愛呼んでくるな!!」と弥譜音が走っていく。
「ああ。」と名刀は短く弥譜音に返事を返すと「お前!!渡した薬全部飲んだか?」と早奈に聞いた。
「分かんない…」と早奈はポケットからケースを出す。
ケースの中には薬のゴミが12個入っている。
「全部飲んでいるみたいだな」と名刀が呟くと早奈は苦しいのか上を向こうとする。
「バカっ!!お前。横向いていろ!!肺に血が全部入るだろうが!!」と早奈を横に向かせながら早奈の体が熱いことに気づく。
名刀の頭に最悪なパターンが横切る。まさか…それはねぇだろう?
悩んでいると金髪の髪の愛が大きな箱を持ってくる。
「なにボーっとしているのよ!!名刀!!」と愛にそう言われ名刀は我に返る。
早奈を見ると目に涙をいっぱいためて名刀のことを見ている。
すがりつくように名刀の袖を握っている。
早奈は昔からの知り合いである、弥譜音と名刀と海聖ぐらいにしか弱みを見せることはしない。
「早奈!!」という弥譜音と名刀の声に「早奈ちゃん」という愛の声を聞きながら早奈の意識は暗闇へと落ちて行った。