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1章第1話『武』

あれは高2の夏、全てはその夏に始まった。


あれは 真夏。


うだるような暑さの日だった。


今まで暑さが嘘の様に感じるほど蒸し暑い夏の日…。

13歳の加進(かしん) いさむ)はふらふらした足取りで病院へと向かっていた。


昨日から40℃を超える熱に頭痛、吐き気、下痢、咳、眩暈がしていた。まるで体の中の臓器がすべて体内でぐるぐる移動しているような感覚があった。


武はこれまで大きな病気どころか風邪をひいたことが一回もなかった。



ソナーパレカル~Soner PARECARU~


『武』

あれは高2の夏、全てはその夏に始まった。


あれは 真夏。


うだるような暑さの日だった。


今まで暑さが嘘の様に感じるほど蒸し暑い夏の日…。

13歳の加進(かしん) (いさむ)はふらふらした足取りで病院へと向かっていた。


昨日から40℃を超える熱に頭痛、吐き気、下痢、咳、眩暈がしていた。まるで体の中の臓器がすべて体内でぐるぐる移動しているような感覚があった。


武はこれまで大きな病気どころか風邪をひいたことが一回もなかった。


中学でクラスの半分がインフルエンザで学級閉鎖になった時も武はインフルエンザって何?というほどピンピンしていたものだ。


だから、風邪の症状も何一つ経験したことがなかったが、さすがにこの症状が尋常でないことを武は分かっていた。


昨日は1日中安静にして寝ていたが症状は大して良くならず不運なことに悪化してしまった。


熱は40度近くにはねあがり咳のせいでか呼吸をするのが辛い。


武はやっとの思いで近くの大学病院へと辿り着いた。


診察券を出して待合室で座っていると偶然通りかかった白い服を纏った男が武に声をかけてきた。


「具合が悪そうだね」と男はそう武に言った。武は彼の顔を見てうなづいた。


声をかけてきた男は真っ赤な赤い髪に赤い瞳の武と年齢がそこまで変わらないであろう若い青年だった。 白い白衣を着ており、首には聴診器を付けていた。

男は座っている武と目線を同じにするようにしゃがみ込むと武の額に手を当てた。


その手はとても優しくてまるで氷の様につめたかった。


そして、少し考えると額から手を放し武を見た。「熱がかなりあるみたいだね」

武は沸騰しきった頭でこくんとうなづいた。


「もしかして、息苦しくて頭痛とめまいと吐き気が同じにきているかな?」と彼は聞いた。なぜそんなこと分かるんだろうと思いながら武はうなづこうとした。


そのとき「あー先生!ここにいたんですか!?」と一人の看護婦が慌ただしく走ってきた。

そして、武の前の青年を捕まえて言った。


「先生!ポケベルで何回も呼んだんですよ?急患が入って人手がたりないんです」


「あ?気付かなかった」と彼はズボンの後ろポケットからポケベルを取り出し画面を睨む。


「先生、ポケベル見ている場合もありません」と看護婦は彼を急かす。


「はいはい」と彼は面倒そうにそう言うと武を見た。「坊主、診察終わったらここにいろ」と彼は武にそういった。


しかしその言葉は「先生、早く」という看護婦の声と重なり、武の耳には届かなかった。いや、届いていたかもしれないがこのとき武の耳は中耳炎のように水が溜まり音を聞き取ることは困難だった。


この声が聞こえていれば武の運命もすこしは変わっていただろう。

しかし、運命の糸はここで複雑に絡まり始めた。


「かしん いさむさん!」と呼ばれ武は診察室に入った。


その様子を待合室で見ながら薄気味悪い笑みを浮かべていた男がいたことを武は気付きもしなかった。


「加進 武さん!!」という声がして、おれはふらつく足で診療室に入った。

診療室にいた医者はかなり若い男だったことを覚えている。



その医者の下した診断はただの風邪だった。


しかし、念のため精密検査をしておきましょうと言われて俺は採血された。


「なぜ?採血するのだろう?」と武は朦朧とする意識の中でそんなことを思ったことを覚えている。


採血の後、武は点滴を3本され、30分後にやっと開放された。


点滴の後は頭痛も無くなっており、体のだるさや吐き気、眩暈も治まっていた。

こんなに簡単に治るものなのかな?と不思議に思いながら、武は帰り道を歩いていた。


家の近くの大きな通りに来た時、突然、後ろから人の気配を感じた。

武はおそるおそるうしろを向いた。


しかし、誰もいない。


その道は普通の日でも人通りの少ない通りであった。

学校だけが永遠と6校近く連なる道で周りに民家は一つもない。生徒たちの登下校の際にしか使われない道であろう。

ましてや、平日の昼過ぎ、生徒たちはお昼中か誰一人校庭に出ている者はいなく通りは静まり帰っていた。ガサッという音が後ろから聞こえた気がして怖くなった武は走るようにして道を急いだ。すると、後ろから武を追いかける大勢の足音が聞こえてきた。

武は恐怖で後ろを見ることも出来ずに全速力で走った。

やがて、腕を掴まれて後ろから押さえつけられ口にタオルを押し付けられた。驚いて暴れている内に意識が暗闇の中に落ちて行った。



夢を見た…。ひどく目覚めの悪い夢だった。

ピチョンという水の落ちる音がいつまでも続く部屋に武寝ていた。

目の前には灰色の薄汚れたコンクリートが広がっていた。

ここはどこだろう?と思いながら辺りを見回そうとしたが、首から下が動かなかった。


「目が覚めたみたいだね?武君?」と夢の中で頭上から声が降ってきた。


聞いたことのある声だったが、頭がぼーっとしていてなにも考えられない。

まるで脳全体に薄い靄がかかっているみたい。


「そのままで聞け!」と声はそう武に命令を下した。

どこから声がしているのだろう?と思いながら武は朦朧とする意識のなかでその言葉に頷いた。


「君の鎖骨に組織の証である刺青を彫った。この刺青がある限り君は組織から抜け出すことはできないよ」と声は武の頭の中で鳴り響く。

毒?刺青?なんだっけそれ?


「組織はこの刺青がある限り君を地の果てまで追いかける。」

武はもやもやとした夢のような意識のなかでその言葉を聞いていた。

「さぁ、つかれただろう?ゆっくりおやすみ…いさむ」と誰かが武の額を優しくそっとなでる。

その手は暖かくて、優しくて、どこかとてもなつかしかった。

武はその手に導かれるようにゆっくり瞼を閉じた。

また暗い闇の世界へ武は落ちて行った。


目が覚めると武は自分の部屋のベッドの上だった。武は慌てて自分の鎖骨を触った。

しかし、刺青の感触はない。彼は手鏡を取り自分の鎖骨を映した。しかし、そこにも刺青の痕跡はなかった。

朝日が部屋の窓から武の手鏡を濡らした。

今のは夢か…と武は安心したように呟くと起き上った。ベッドの横にある窓からいつもの青い綺麗いな空が見えた。とても現実とは思えない青く綺麗な空だった。



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