勇者の記憶を渡されるはずが魔王の記憶渡されました。
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「そなたに歴代勇者の記憶を授ける
旅路の大いなる助けになるであろう
無事記憶が継承されれば鍵のかけられた
そなたの勇者としての力も目覚める
…異世界の少女よ、どうか魔王を倒しておくれ」
荘厳な雰囲気と優しげな声色。
白で統一され部分に繊細な金の装飾が施された衣服。
この世界がもしRPGならば神に連なる神官といったところだろう。
しかし彼はその信奉される対象、神様そのものであった。
「ふざけないでっ!」
過激に女性らしさを殴り捨てて私は叫ぶ。
唯一の救いはここは深い森の中にある神殿であり、
周辺に人の気配などないこと。
神様を罵倒したとあってはタダじゃすまないんだろうな。
と思考の端で思いつつも感情は激流のように止められない。
「拉致っておいて魔王を倒せ?
嫌ですよ無関係なのになぜ危険な事しないといけないんですか
第一、私は体育の成績1の文系なんですよ、家に返してください」
神様は表情を変えず、ただ微笑んでいる。
片手をこちらにかざした。
私は嫌な予感がして目の前で腕を盾にする。
「じゃ、記憶を渡してはじまりの森に送るね!よろしくぅ」
鋭い光線のような光が包み込む。
突然鈍器で殴られたように頭が痛くなった。
「あ、やべ、ミスった」
神様が何か言ったようだが聞き取れなかった。
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私の最大の悲劇は魔物が闊歩する暗き森で、
大声をあげて自分の位置を知らせたことであった。
が、しかしそれも仕方ないと思うのだ。
「異世界召喚される側の身になれってんだ!」
決して神様の言うこの異世界パンドラの住民ではない。
事前知識なしで送り込まれていたらどうなっていただろう。
考えても仕方の無いことばかり思いつくには私の悪い癖だ。
数分前までテスト勉強すべく、私の右手にはペンが握られていたはずだった。が、今や輝かんばかりの光に包まれた聖剣とやらにすり替えられている。
「魔王倒してくれたら還すだ?……真っ平御免だ!」
それに第一、第一だ。
「勇者の記憶をさずけよう…」とかなんとか言っていたはずだ。
が。
先程の頭痛で送られてきた記憶。
私の脳内劇場で繰り広げられたのは、光溢れる勇者様の記憶。
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なんていうものではなく。
「おぉ、魔王様、お目覚めになられたのですね」
「魔王様助けてください人間が人間が」
「人間のつくりだした物体が木々を枯らしておりまする、このままでは」
「人間は魔族と違ってどうしてこうも戦争ばかり、そのせいで荒れた土地から澱みが」
魔王の記憶じゃねーかっ!!!!
これの何処が勇者の記憶ですか。
脳内で自分のステータスを見るべくメニューを開く。
本来なら勇者の記憶があれば、勇者専用のスキルや先代方の取得済みスキルの一部が有効化されるらしいのだが…。
見事に鍵がかかっています。なんで闇系統の魔法が有効化されてるのかは考えたくないです。
「…はぁ」
さっき脳内再生された映像に思いふける。
魔王の役割。人間が増えすぎれば災厄が起きる。
それを防ぐために一定で保つため殺し、人間が汚した世界の澱みを身代わりする、というもの。
なんというか。
「不憫」
RPGの私の中の凝り固まっていた魔王像が崩れていく。
唯我独尊、欲望のままに綺麗な女捕まえて魔王城行って、あはんうふんするor勇者の当て馬にされ殺される。みたいな存在だと思っていましたけど。
神様は殺せって言ってましたが。
「神とやらが本当に返してくれる保証もないし」
自分の取得可能なステータスと所持品諸々をチェックしていく。
というよりあの神様とやらの言いなりが嫌です。
拉致された恨みは消えません。
あれは頼らない、自力で帰る。そして、したいことが出来ました。
うむ、ならば行動あるのみ。
時間は有限、時は金なり、即行動。
周辺からグルルと唸り声が聞こえる。
私の叫び声に魔物が集まってきたのだ。
「こいつらを片したら魔王城行こう」
あの神様とやらに一泡吹かせてやる。
それが私の復讐だ。
神様への、私の小さな意趣返し。
「別に、魔王を幸せにしたっていいじゃない」