第1章⑻
初めての仕事から何件かの現場に同伴した。
主にAQUA PLANET's絡みの現場で愛美が単独の現場ということはなかったので現場が一緒になる別のマネージャーを参考にしながら和也は自分が出来ることから手を付けることにした。
カバン内には綺麗に選択したタオルを三枚入れ、水分補給に始めスポーツドリンクを用意していたがその現場現場によって必要な飲みものを変える。
愛美と普通に会話を出来れば、彼女との会話から彼女に必要そうな物を探りを入れられるのだが、まだやはり頼りにはされていないようで業務以外の会話は難しいのが現状だった。
なので、なるべく愛美から目を離さないようにして僅かな変化や異変を見逃さないように和也は努めていた。
今回も週刊誌でAQUA PLANET'sの特集が組まれるらしく。
グループから数人と現場が同じであった。仕事としてはインタビュー。メンバー数人で記者から出された議題に一人一人が答えていくというものだった。
そのメンバーの中に八乙女 麻衣がいた。
雑誌の関係者か?が小さな声で話しをしているのが和也の耳に入ってくる。
「今日はどこのインタビューしてるの?」
「アイドルグループのAQUA PLANET'sらしいですよ。」
「ヘェ〜、あ、八乙女 麻依ちゃんがいるじゃん。彼女の単独インタビューとかグラビアの方が購読者増えそうだけどな。」
「たぶん、今回のインタビューは麻依ちゃんに大方振られるでしょ、グループ取材とは名ばかりで八乙女 麻依特集みたいに必然的になりますよ。絶対に。」
関係者話しなのかもしれないが和也はなぜか良い気分はしなく軽く視線をその声の方に向ける。
見た目、年齢的には三十後半で身体に纏う雰囲気はヤル気なさげな感じが滲み出ている。
「グループの取材なんだから、そんなビジネス主張で誰かをひいきされたら困るんだよ。」
と和也は誰にも小さく呟くといつの間にか後ろに人が立っていたらしく「別に私はそんな気持ちでインタビューをする気はありませんが。」と声を掛けられた。
和也は慌てて後ろを振り返ると若い青年がバインダーを片手に後ろに立っていた。
ヤバイっ!今の聞かれた。と考えて彼の前で動けずにいると「失礼。いきなり、また後ほど。」と言い残してインタビューを行う部屋へと入っていく。
和也は冷や汗を浮かべながら彼女たちのインタビュー風景を見守る為に他のマネージャー達と一緒に部屋に入っていく。
記者は宣言通りに一つの議題に対してその場にいる全員に答えさせていた。
愛美も自分でのグループ内での立ち位置を踏まえた答えをハッキリと記者に伝えていた。
その堂々とした姿は同年代には見えないと和也は感じる。
記者は「グループのインタビューは以上です。お疲れ様でした。」と言い席を立ち上がる。
彼女たちは同時に立ち上がり「ありがとうございました。」と頭を下げる。
記者はマネージャー側に近づいてき、和也の目の前で止まる。
「すいません。ご挨拶が遅くなりました。私は週刊FRESHの記者の近藤と申します。先程はいきなり声をかけてしまい。失礼しました。」
記者は名刺を和也に差し出すと和也も慌てて胸ポケットから名刺入れを出し「こちらこそ、先程は失礼いたしました。エイジプロダクションで今年より櫻井 愛美の担当になりましたマネージャーね進藤です。よろしくお願いします。」と言いながら名刺を差し出す。
近藤は和也から名刺を受け取るとそれを自分の名刺入れなの上に置き、それを胸ポケットにしまう。和也も同様にして名刺入れをしまうと「少しだけお時間よろしいでしょうか?」と近藤から和也に誘いの言葉をかける。
和也はさっきの言葉を聞かれたことから背中に嫌な汗をかき、時計を確認してから「はい。」と返事をして近藤に着いて行く。
近藤と一緒に出て行く和也の姿を見ていた愛美と麻依以外のアイドルが
「あれ?櫻井さんのマネージャーさん。さっきの記者の人と出て行ったけど、なんかあったの?」
「雑誌に愛美ちゃんの営業でもしに行ったんじゃない?」
「えっ?でも、新人さんでしょ?」
「案外、手が早いタイプなんじゃない?」と会話を始める。
愛美はそれを聞いて、嫌な予感がしていた。
和也がそんな営業術を教わった様子はなかった。
この数日、会話こそなかったが一緒にいれば和也の変化を見過ごすはずがない。
ということはなにか和也が近藤に何か失礼なことをした以外に考えられなかった。
他のメンバーを気にせずに先に帰り仕度を整えた麻依は自分のマネージャーに近づくと二人でその場を出ようとし、ドアを薄く開けると少し固まる。
近藤と和也は部屋を出るとすぐの廊下で話しを始める。
「さっきは私共の社員が無礼な会話をしたこと、本当に申し訳ありません。私共も気をつけてはいるつもりなのですが、どうしても利益優先になってしまう業界ですので、ですが公の場であのような会話を本当に申し訳ないことしました。」
「こちらこそ、近藤さんを見てもいないのに失礼なことを・・・。」
和也と近藤は二人でペコッペコッと頭を下げあう。
和也は近藤に真っ直ぐに向き合うと口を開く。
「確かに今は八乙女さんの方が人気も高いのでしょう。たぶん、彼女だけで特集を組んだ方が雑誌の利益にはなるかもしれませんね。でも、僕は僕が今、担当する櫻井 愛美というアイドルがいずれ八乙女さんと同じ、それ以上になると信じています!なので、小さなチャンスでも取りこぼさせたくなくて、すいません。入込み過ぎて、出てしまった言葉ですので、本当に申し訳ありません。」
和也は恥ずかしそうに笑い、近藤は「そんなことありません。」と首を横に振る。
麻依はドアの前で立ち止まる。
和也の近藤に話しが聞こえてくる。
麻依のマネージャーが「麻依ちゃん。どうしたの?」と聞くがその言葉には答えずに愛美を見る。
「櫻井さん。」
「えっ?はい!」
「あなたは幸せ者よ。」
麻依はそう言い残して部屋を出ていく。
愛美は何のことか分からずにただ麻依が消えたドアをしばらく見ていた。
麻依は和也と近藤の前を通る際に二人に対して「お疲れ様でした。またよろしくお願いします。」と挨拶をしてその場を立ち去る。
和也は礼儀正しい麻依の背中に向かって「お疲れ様でした!」と言葉をかける。
麻依は横を歩くマネージャーに「あのマネージャーの名前を覚えてる?」と聞くとマネージャーは首を傾げながら自分の名刺入れから和也の名刺を探す。
「エイジプロダクションの進藤 和也くんですね。」
「進藤 和也。そうありがとう。」
「珍しいね?他のマネージャーを気にするなんて・・・。」
「まあ、ちょっと。」