第1章⑶
和也は欠伸をしながら真新しい制服に身を包みながら新しい通学路を歩く。
通学路には散り始めた桜が積もっていた。
入学式には結局出れなかった和也はまるで転校生の気分だ。
少しだけ脚が重いという感覚を感じ、つい猫背になり丸い身体がより丸みを帯びた。
パシンッ‼︎という音ともに背中に激痛が走る。
和也は振り返るとそこには莉里が笑みを浮かべて立っていた。
「おはよう、マネージャー。」
前日
「僕は、・・・お、俺は・・・。」
和也はズボンをギュッと握りしめる。
和也の頭の中に溢れる色々な無理という言葉、本当は莉里の言った通り無理ということでやはり面倒事から逃げようとしていたのかもしれない。
今でも出来れば、断りたい。という気持ちでいっぱいだったが莉里の目が言葉がそれを許してくれなかった。
「本当に、何もわからないんだよ・・・。」
「はじめはみんな、そうでしょ。」
「補佐なんて言われても、きっと迷惑しかかけない。」
「最初から過度な期待なんてしてないし、徐々に覚えていけばいい話だから」
和也の言葉に莉里はキッパリとした答えをぶつける。
和也は莉里を見ると莉里はムッ、とした表情をしながらもどこか優しい目をして和也を見ていた。
立花も和也の言葉や表情を見て、答えが出たと読み取った。
「特別入学の約束でしたし、迷惑をかけるとは思いますがマネージャーのお仕事を受けさせていただきます。」と和也は言いながら深々と頭を下げた。
その彼の姿を見て、立花はとりあえず話がまとまったことに安堵の表情を浮かべ、莉里はまた興味を失いスマホをいじり出した。
マネージャー補佐の詳しい話は今日の放課後に昨日訪れた事務所にて立花から説明があるらしい。
その際に和也が誰を担当するのかも・・・。
莉里が和也を自分の担当マネージャーに引き取るという話をしていたが、事務所に所属している人間である以上はあくまでも意見として上がるだけで最終決定は事務所の社長もしくは人事部の決定が絶対らしい。
和也はそんなことと初登校ということが重なり、異常なまでに緊張していた。
莉里が隣の和也の緊張を読み取ったのか妖しい笑みを浮かべながら、「莉里のマネージャーになれたら幸せだね。」と話をする。
莉里はどこまで本気で言っているのか?
和也は彼女の発言を計り兼ねていた。
「そうですね〜。」と少し流し気味に答える彼に莉里はどこか物足りな気な表情をした後に頬を軽く膨らませる。
そんなやり取りをしていると学園の校門にたどり着いていた。
和也は一度だけ足を止めて校門とそこを通る生徒たちの光景を目に焼き付けるように見てから、軽く目を閉じて心の中で「さあ、始めよう!」と意気込みの言葉を浮かべてからその門の中に足を踏み入れる。
こうして、進藤和也の長いようで短い高校生とマネージャーとしての生活が始まるのだった。