第1章⑵
和也は扉の方を見て固まっていた。
なぜなら彼の視線の先にはテレビや雑誌と幅広く活動している新人のアイドル 星野 莉里が居たのだ。
和也も彼女のことはやはりテレビなどで見ていたために入ってきた瞬間にすぐに彼女だと気付いた。
「君は誰かな?」
彼女は和也に近づいてくる。
近くで見るとまたテレビや雑誌の写真で見ていた可愛いアイドルの彼女とは違う独特の雰囲気というかオーラがあり、より魅力を放っているように見えていた。
「えっ、ぼ、僕は」
つい生の莉里を見たことにより口どもってしまった。
莉里はそんな和也を見て「えっ、ぼ、僕は」と和也がどもってしまったマネをする。
和也は恥ずかしくなり顔を真っ赤にしうつむく。
莉里はイタズラを成功させた子供のようにニコニコと御満悦という表情をしている。
そんな部屋に立花さんが戻ってきた。
戻ってきた彼女は脇に封筒を挟みながら御盆を持ってお茶を運んできてくれた。
「ごめんなさい。お待たせ、あら?莉里ちゃん。もう来てたの?」
立花さんは莉里に気づき彼女に声をかける。
「もう来てたの?って、なんで莉里が早く来てるとすぐにそういう言い方するの?」
莉里は抗議の目と頬を膨らませながら文句を言う。
立花さんはお茶を和也に差し出しながら「莉里ちゃんは普段から遅刻が多いからね」とボヤくと莉里は言い返す言葉がないのか渋い顔をしながらそっぽを向く。
そんな莉里を気にせずに脇に挟んでいた封筒を持つと封筒から書類を出して、和也の前に出す立花さん。
「じゃあ、進藤くん。あなたが通う学校の特別支援学科について話しをしましょう」
「……えっ?はい」
和也の頭の中は突然現れた星野莉里要素により、更に混乱していたがとりあえず立花さんの話に返事だけした。
それから立花は丁寧に和也が入った特別支援学科について説明してくれた。
まず私立桜陵学園高等学校の本キャンパスにある特別支援学科とは、理由を抱えて一般の高校生活を出来ない学生を支援する学科だということ。
この学科での単位を取るには出席率はあまり関係せず、中間と期末のテストを一定の点数を取るか、学校から出された課題を提出することで単位を取得することが出来る。
和也は書類を持つと確認していた。
立花さんは次に和也のことについて説明してくれた。
和也は桜陵学園に在籍しつつ、エイジプロダクションのアルバイトスタッフとして学校と事務所に所属しているアイドルや俳優の現場への同伴とスケジュール管理のマネージャー補佐にプラスして学校内でのサポートをすること。
その仕事の代わりに学校で掛かる費用は全額負担され、月の給料も支払われるという。
住む場所は事務所が用意してくれた寮に住むことになる。
「マネージャー補佐とか、無理です。」
和也の口から出た言葉に立花はすぐに「無理ってどういうこと?」と聞いてくる。
和也は真ん丸とした身体を小さくして呟くように理由を話す。
「僕は特別支援科に入る時の条件がまさか芸能関係のマネージャーだなんて知りませんでした。マネージャーをやってほしいとは言われたのは事実ですが、それは学校の何か部活のマネージャーをすれば良いのかと・・・。」
和也は深く頭を下げる。
立花は何も言わずに莉里を見た。
莉里は和也とこの状況から既に興味を失い、スマホをいじり始めていた。
「頭を上げて、進藤くん。こちらから前以て、いろいろと説明と手続きをしなかったのが悪いのだし・・・。」
「すいません。」
「進藤くん。私たちがしっかりとサポートするし安心して引き受けてくれないかしら?」
今度は立花の方が「お願いします。」と言い、頭を下げる。
スマホをいじっていた莉里は和也を見る。
「部活のマネージャーは引き受けられて、私たちのマネージャーを引き受けられない理由って、なに?」
「えっ?」
「芸能関係のマネージャーは経験がないから?私たちみたいな人と関わるのは面倒くさそうだから?・・・断るなら、断る理由を話すのが常識じゃない?」
「別に面倒とか、じゃない、です。ただ・・・」
もちろん経験がないからという不安もあるが自分みたいな人間が軽々しく踏み入れていい場所だとは思えない、と和也はそう考える。
莉里は少し鋭い目付きになると和也を見る。
まるで本当のことを話せと言われている訴えている目に和也は思わず顔を背けてしまう。
莉里は「はぁ。」とため息を吐いた後、腕を組むと口を開いた。
「私、決めた・・・。」
彼女の言葉に和也と立花は莉里を見る。
莉里は変らず真っ直ぐに和也を見て「私は私の担当マネージャーとして彼を選ぶわ‼︎」
「ッ⁉︎だから、僕には無理なんだってッ‼︎」
和也は大きな声で拒否するが莉里は立ち上がるとツカッツカッと足音を発てながら和也に近づくと和也の額を中指と薬指で小突いてから「やる前から無理って言うんじゃない。」と落ち着いた口調で言われてしまう。
立花はそんな二人を見てか、とくに口を挟むことはせずに見守っていた。
「僕、・・・お、俺は・・・。」