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第2章⑶

「あれ?珍しい組み合わせだね」



和也と阿久津が会話をしていた所に莉里が一人でその場にやって来た。

「星野、おつかれ」

「阿久津さんもお疲れ様です」

阿久津は一度だけ腕時計を確認して「悪いけど、先に失礼するよ。」と言い、その場を後にしようとする。

莉里は和也の顔を覗き込むように見る。和也の顔は何か呼吸がしづらくて苦しそうな時のような表情をしていた。

「あ、阿久津さん」

和也は阿久津を呼び止めると彼は和也(こちら)を向く。

「……」

呼び止めたものの和也の口から言葉が出てこない。

(なぜ、彼を呼び止めた?なにを俺は聞きたいんだ?どうなることを俺は望んでるんだ?)と心の中で自問する。

阿久津は和也からの言葉を待っている。

隣にいた莉里が心配そうに「カズくん?どうしたの?」と聞いてくる。

和也はハッ!っとした顔をして呼び止めたにも関わらずに何を話す訳でもない自分が恥ずかしく、阿久津に申し訳ない気持ちになり慌てて「すいません。今日はお疲れ様でした。」と頭を下げた。

阿久津は気にした様子もなく「お疲れ様。」と短くねぎらいの言葉を返して、その場を後にした。



阿久津が去ってから少しして「大丈夫?」と莉里がやはり心配そうに聞いてくる。

「阿久津さんとなにかあった?」

「いや、別になにもないよ。何かあったら遠慮なく相談してほしいって優しい言葉をかけてもらったんだ。」

「本当にそれだけ?」

莉里は和也の頬に両手を伸ばし触れる。

和也はいきなりのことに目を丸くし恥ずかしさから顔を赤くする。そんな和也のことを気にせず莉里は「表情が暗い。」と小さく言う。

「悩みがあるなら、話しくらい聞くよ?」

「……。」

莉里の真っ直ぐな目と優しい言葉にまたなにも答えられなくなる。だから和也は少し間を空けて「ありがとう。」とだけ伝えてまた口を噤んだ。

優しく言葉をかけた彼女にとって、その返事は小さな拒絶にも似たものを感じ彼女を傷つけていたことを和也はまだ気づいていなかった。


その後、和也、愛美、莉里はそれぞれ帰路についた。


「ねぇ?もしもまた再会()えたら。」

「うん。僕、…ちゃんと結婚する!」

「絶対だよ?忘れないでね。待ってるからね。」

和也は目を覚ますとベッドから身体を起こす。

幼い頃に誰かとした約束の夢を見た。

あの子は誰だったのか?現在の和也は覚えていない。

でも、あの時の和也にとっては本当に大切な約束(ヒト)だったことはわかる。

「なんだろう。こんな夢を見るなんて。」

和也は立ち上がると冷蔵庫に向かい冷蔵庫を開けて中から水を取り出すとそれを飲む。

まだ辺りは暗くて和也はまたベッドに戻る。

横になり目を閉じるとなぜか愛美の顔が頭を過る。

彼女のマネージャーを任された時の拒絶した表情。握手会で不安な表情をし崩れそうになる彼女の姿。そして、今日帰る間際赤くなった泣いた直後のような目に悲しげな表情。

(いつも俺は彼女の顔を曇らせてばかりだ…。)

和也は胸に手を当てるとその手をギュッと握る。

そして、彼女から言われた言葉を思い出した。


「あなたがうちの事務所に来たから、私はっ!?」

(俺はここに来るべきじゃなかったんだ。)

そんなことを考えながらベッドで丸くなり目をまた閉じた。



翌日

寝起きは最悪の気分でいつものように用意はするものの学校に向かう気力が起きなかった。

そんな理由では休む訳にもいかず、和也はいつもの時間に部屋を出て行った。

やっと通い慣れてきた通学路。

登校している途中で莉里と愛美に会う。

「おはよう!カズくん。」

「おはよう。進藤くん。」

二人は挨拶をしてくれるが和也は二人を見ると顔が真っ青になる。

その異変に当人を含めた三人はすぐに気づいた。

和也は慌てて表情を隠すようにして「おはよう。ごめん。ちょっとやる事があるから先に行きます。」と言い残して走って行ってしまう。

(カズくん。顔が真っ青だった…。昨日から何か変だった。)

莉里はまた心配そうな表情で和也の背中を見ていた。


和也は先に教室に入ると自分の席に座るとすぐに机に突っ伏した。

彼女たちが入ってきても顔を合わせないようにする為にまたさっきのような顔を見せる訳にはいかないと、そう考えて。

和也より少し遅れて愛美と莉里が教室に入ってきた。

愛美と莉里も自分の席へと座る。

「ねぇ?カズくん。」

隣の席の莉里が和也の肩を叩きながら呼ぶ。

和也は少しだけ顔を莉里の方に向けると莉里はいつもと変わらない笑顔を向けてくれていた。

莉里は「大丈夫?」と心配した表情をしている。

「すいません。実は昨日あんまりよく寝付けなくて。」

「そっか。…うん。」

莉里は和也の右腕を掴むと引っ張るようにして立たせた。

「ちょっとついてきてくれる?」

莉里は和也の腕を引くと教室を出ていく。

(どうしたのかな?進藤くん。今朝もなんか変だったし。)

愛美は一緒に出ていく二人を自分の席から見つめていた。


「あの星野さん。どちらに向かわれているんでしょうか?」

「いいからいいから。」

「じゃあ、せめて自分で歩きますので。」

和也は何かを聞いても教えてくれなさそうなので黙ってついていくことにした。

二人が着いた先は役割を持たない空き教室だった。

「ここって…。」

「ここはあまり人が寄り付かないらしくて、ちょっとサボるのには丁度いい教室らしいのよ。」

二人は教室に入ると莉里は扉を閉めると壁際に行くとその場に座り自分の膝をポンッポンッと叩いた。

和也は首を傾げている。

「膝枕してあげるから、一限だけでも軽く休んでいこうよ。」

「え?えぇぇぇぇ!」

「カズくん。声が大きいよ。」

和也は顔を真っ赤にしていると莉里がクスッと笑った。

「保健室だと寝不足が理由じゃ、休ませてはもらえないでしょ?」

「それと膝枕は関係ないでしょう?」

「だって、その場で寝ちゃったら頭が痛くちゃうでしょ?だから。」

「それだと星野さんに迷惑をかけちゃうし。」

莉里は立ち上がると和也の肩に両手を置くとその場に座らせ、そのまま自分の膝に和也の頭を誘導するように彼を寝かせる。

和也の頭部に莉里の柔らかな腿の感触が伝わる。

「あ、あぁぁあぁの。」

恥ずかしさとやましい気持ちで和也の顔は先程より赤くなっていく。

莉里はそんな和也の顔を見ながらいたずらした時のような笑顔を彼に向けながら優しく頭を撫でた。

でも、なんでだろうか?

和也は少しすると莉里に膝枕されて頭を撫でられていることが心地よく昨夜の寝不足もあり、徐々に瞼が閉じていく。



「カズくん。おやすみなさい。」


和也は昨夜見た夢と同じ夢を見ていた。

幼い頃から自分の見た目にはコンプレックスがあったし事実周りからもそのことを言われ、いじめを受けることもあった。そんな中でもあの女の子は何も変わらずにありのままを受け入れてくれたんだ。

あの子はいつも明るくて周りにはいつも笑顔が溢れてる。

周りから嫌われている自分とは根本として違う存在のあの時に彼女惹かれ、何よりも憧れていた。

彼女のそばにいるといつも自分のことが嫌いになる。

なんで彼女のようになれないんだろうか?

どうしたらあの子みたいになれるんだろうって。

だから彼女に聞いたことがある。

「ねぇ、…ちゃんみたいになるにはどうしたらいいのかな?」

「わたしみたい?」

「ぼくも…ちゃんみたいにみんなから好きになってもらっ友達になりたいんだ。」

その問いの言葉に彼女は照れたのか恥ずかしそうに笑っていた。

「わたしはカズくんにわたしみたいになってほしくない。そのままのカズくんでいてほしい。わたしは今のカズくんが好きだよ。」

「なんで?」

疑問に彼女は答えることははなくて、また照れたように笑っていた。



キーンコーンカーンコーン!

「っ!?」

和也はチャイムの音で目を覚ました。

目を覚ますと莉里の可愛らしい寝顔がそこにあった。

和也が寝付く前に頭を優しく撫でてくれた手は今も和也の頭に触れていた。

彼女のそんな姿を見ると心臓がトクンっと脈打つのが体全体に伝わった。

「どうして、こんなによくしてくれの?」

眠る彼女に返事が返ってこないことを分かりながらも、そんな言葉が口からこぼれてしまった。

和也は体を起こすと彼女の肩に手を置くと優しくゆするように起こす。

「星野さん。」

和也の呼びかけにゆっくり瞼を開ける莉里。

「あれ?」

「おはよう。星野さん。」

「ご、ごめん。私も寝ちゃってた。」

「こちらこそごめんね。あと…ありがとう。」

莉里に笑顔で感謝の言葉を告げる。

彼女は小さな声で「よかった。」と言った後にいつものように笑顔を返してくれた。

「もう大丈夫そうかな?」

「うん。大丈夫。」

和也は立ち上がると莉里は「じゃあ、教室に戻ろか。」と言いながら立ち上がろうとする。

そんな彼女に手を差し出す。彼女はその手を握りその場に立つ。

「ねぇ、星野さん。今度は俺が君を助けるからね。なにかあったら、頼りにならないかもしれないけど俺が助けるから遠慮なく言ってね。」

「ありがとう。その時は本当に遠慮なく頼らせてもらうね。」



和也はこの日、星野 莉里への恩をしっかりと胸に刻み込んだ。

いつかそれを返せる日が来るように今は頑張ろうと―――――。


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