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第2章⑵

愛美は仕事の内容を聞くと自分の頭に手を当てて悩んでいる。

すると、注文したアイスティーと愛美が頼んだアイスカフェモカが運ばれてきた。

和也は店員さんに軽く会釈すると愛美に視線を戻し声をかける。

「社長から話しを聞いたんだけど、櫻井さん。あんまり料理が得意じゃないとか。」

「別に下手って訳じゃない!ただ慣れてないだけだから!」

「そ、そうなんだ。(料理が苦手な人の典型的な言い訳だぁ!)」

和也は「どうしようか?」と愛美に聞いた。

本当にNGなら無理には彼女を番組に出演されることは良くないが、これは彼女にとってはチャンスの一つのような気がする。

和也はそんな気もしていた。

だが、仕事をするのは愛美だ。彼女には選択する権利がある。

「進藤くんはどう思ってる?」

「う〜ん。(俺の考えをそのまま伝えて良いのかな?彼女の意見を聞いて、それに沿う形の方が櫻井さんにとってはいいんじゃないか?)」

「仕事をするパートナーとしての意見が欲しい、私に気遣った人間的な意見じゃなくて。」

愛美の言葉に和也は考えていることが読まれて驚き目を丸くし和也は注文したアイスティーを飲み、口を潤わせてから話しを始める。

「マネージャーとしての意見はせっかく来たテレビの仕事、どう転がるかは分からないけど櫻井さんにとってはチャンスだと、思います。生放送ではなく今回は収録という形らしいですから、いろいろ試すという意味でも・・・」

「そうだよね。出たいからっと言ったから出してくれるなんて身分じゃないし、確かに目の前にチャンスがあるならそれをみすみす手放しちゃダメだよね。」

「でも、櫻井さんがどうしても嫌なら無理にはそれを押し付けは出来ないです。」

愛美はストローでカフェモカを混ぜながら考えているようだ。

和也は愛美の答えが返ってくるのを待つ。

愛美はストローに口を付け、カフェモカを飲んだ後に「よし、決めた!」と言うとメニューを広げると店員さんを呼び、「チーズケーキを一つお願いします。」とケーキを注文してから答えを告げる。

「今回の仕事、受けよう。正直に言って自信はないけど、今はいろいろ試してみなくちゃね。」

「はい!俺もしっかりサポート出来るように努力します。」

愛美の前向きな姿勢に和也は嬉しくてつい返事が大きくなってしまった。


その後、和也と愛美は出演する番組の内容からいろいろとお互いに意見を出し、出演前に取り組みなどを相談した。

和也は今、話したことや明日から自分がやるべきことを忘れないようにまたメモを取る。


店を出たのは日が完全に傾き、日没ギリギリの時間だった。

「ごめんなさい。いろいろ話してたらこんなに遅くなっちゃった。」

和也は頭を軽く下げると愛美が「別に打ち合わせなんだから、謝ることじゃない。」と少し呆れたような声で言う。

「俺は事務所に寄りますけど、櫻井さんはどうしますか?」

「私も用事あるから、事務所に寄って行くわ。」


二人はいつもより遅くに事務所に向かう。


事務所に着くと阿久津が机で作業をしていた。

和也は「おはようございます。」と声をかけるとチラッと見て「おはよ。」と返事をする。

後ろにいた愛美はどこか気まずそうに壁際に設けられた休憩スペースのソファに座る。

彼女が気になりはしたが、和也は自分に与えられたデスクに座ると阿久津と同様に作業を開始した。

カタカタと阿久津の軽快にタイピングする音が部屋に流れる。

和也はスマートフォンを取り出すとメモに記載された番号に電話をしようとして、事務所にいる二人を見た。

愛美は作業をする阿久津を気にするように何度も彼へと視線を向けて、阿久津はやはり自分の作業に没頭している。

「すいません。ちょっと電話をかけてきます。」

和也が気を利かせてスマートフォンと手帳を片手にその場を後にした。


和也がいなくなった事務所内

愛美は腰掛けていたソファから立ち上がると阿久津に近づく。

「彼はどうだい?」

彼女の動く気配を感じて、阿久津はパソコンから目を離さずに言葉をかけた。

愛美はピタッと足を止めて、「彼なり努力はしてくれてるわ。」と伝える。

「そうか、うまくやってるなら良かったよ。」

「ッ!?別にうまくなんてやってないッ!」

愛美は大きな声を出すと阿久津は「愛美。」と彼女の名前を呼んで彼女の方を向く。

下唇を噛みしめながら、目には涙を溜める彼女に阿久津はため息をつく。

「私は弘樹(ヒロキ)がパートナーとして、ずっと側にいて欲しかった。」

「愛美。僕は君が思うような良きパートナーにはなれないし、なろうとも思わない。今の君を支えていくつもりもない。これだけははっきりと伝えておくよ。」

「どうして?なんで・・・?」

彼女の問いに阿久津は何も答えない。


「私はッ!・・・弘樹が好き。」



愛美の告白に阿久津は「ごめん。」と謝るとパソコンの電源を落として身支度を整えると事務所を出ていった。

取り残された愛美はその場に座り込むと顔を床につけて泣き出した声を上げながら・・・。



事務所の外で電話をかけていた和也は阿久津が事務所から出てきたのを横目で確認しながらも電話を続けていた。

阿久津は和也を見つけるとこちらに近づいてきて、和也が電話を終えるのを待っていた。


「あ、ちょっとすいません。こちらから電話をしてしまったのに申し訳ないのですが、一度折り返しをしても大丈夫でしょうか?・・・はい、またこちらからご連絡のさせていただきます。お忙しいところ申し訳ありません。では、今後ともよろしくお願いします。失礼します。」

和也は何かを感じ取り、電話を早めに済ませる。

阿久津が「電話をしているところ悪かったね。」と謝ってくる。

積極的に話しに来てくれたことに和也は驚き、「いえいえ」という言葉が妙に上ずってしまう。

「仕事の方はもう慣れたかい?」

「いえ、ま、まだまだ分からないことが多いんで、現場に同行する際はまだ緊張しています。」

「まあ、学生からいきなりマネージャー業だ。無理もないさ、僕も二年前は君と似たような感じだった。焦らずに君が出来ることから頑張って努力していけば良いよ。」

阿久津の温かい言葉に和也の身体から自然と力が抜けていく。

和也は「ありがとうございます。頑張ります。」と頭を下げながら言うと阿久津は「君には苦労をかけると思う。」と話し繋ぐ。

和也は顔を上げると阿久津が申し訳ないという表情を浮かべる。

「今日、また僕は愛美を傷つけてしまった。」

「えっ?な、なんのことですか?」

(今、電話をする為に事務所を出た僅かな時間に何かあったの?)と聞きたいところだったがそれを聞ける感じの雰囲気ではない。

「進藤くん。無責任な願いだとは思うだろうがお願いをするよ。僕のように愛美を見捨てないでやってくれ、そして彼女を支えてくれ。」

「(櫻井さんを阿久津さんが見捨てた?確かに彼女のマネージャーになった時に彼女は俺が担当になるの酷く拒否していた。俺が新人だから嫌がったんだと思ったけど、違うってこと?阿久津さんと櫻井さんに何かあるの?)わ、かりました。」

「すまない。ありがとう。君のフォローは僕がさせてもらう。何か困ったことがあれば遠慮なく電話をしてくれて良いから。」

「あ、ありがとうございます。」



和也はこの時、胸の中を何かに掴まれたような奇妙な感覚を感じていた。



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