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第2章⑴

和也はこれから起きるであろう自分への災難を予知しながらもその席に座ることを義務付けられていた。


話しは遡ること数日前

握手会を終えて数日後に突然の連絡から始まる。


「もしもし?お疲れ様です。」

和也は着信を見てすぐに通話に出る。

連絡してきた相手は長谷川だった。

「あ〜。おつかれ、進藤くん。どうだい、最近の櫻井くんとは?」

「えっ?あ、はい。彼女に迷惑かける事もありますがなんとか仕事の方は助けられながらこなしている状態ですね。」

「そうか!少しずつでいいから仕事に慣れていってくれ、・・・って言っておいて悪いんだが、来週の土曜日なんだが櫻井くんにテレビの仕事が入った。」

長谷川はなぜか声のトーンを落として話をする。

「本当ですか!」

「うん。・・・でも、少し問題があってね。」

その後、長谷川は問題についてを話してくれた。

愛美が出演依頼を受けている番組は正午に放送されている情報番組の一つである収録の料理コーナーのアシスタントとしての起用依頼らしい。

平日毎日放送されている情報番組であることから料理コーナーのアシスタントはAQUA PLANET'sのメンバーが入れ替わり制で担当するらしい。

ここまでは何の問題もないようなのだが、長谷川は和也に愛美のある事実を伝える。


櫻井 愛美は料理が苦手。

和也はあまりに意外な事実に長谷川との電話を終えてから愛美のことを考えていた。

普段、アイドルの仕事を卒なくこなしている愛美。

その姿を見ていると何でも出来て苦手なことなんてなさそうで、別の世界の人間(ヒト)だと思うこともあった。

この前の握手会での弱った姿や今、聞いた欠点を見たり聞いたりすると突然、彼女が和也自身の身近な存在に思える。

不思議とそんな愛美のことをもっと知りたいと思い、もっと話しをしたいと思う。

マネージャーとしてとは別に友人として。


次の日、和也は自分の席に座ると前の席をただ見つめていた。

少しすると愛美と莉里が教室に入ってくる。

「おはよう。カズくん。」

「あ、おはよう。(カズくん?)星野さん。」

莉里はニコニコしながら自分の席に座り、和也は愛美にも「櫻井さんもおはよう。」と挨拶をする。

「おはよう。」

愛美はいつもと同じく短めの素っ気なさを感じる挨拶を返すと自分の席に座る。

莉里はそのやり取りを見て、またニコニコと笑っていた。

「なんか嬉しそうだね?」

「え〜。そうかなぁ?」

「なんか凄いニコニコしてるし、何か良いことありました?」

和也が聞くと莉里は「まぁ、ね。」と言い、何があったかまでは教えてくれなかった。

和也は愛美に昨日入った仕事についての話をする為に後ろから彼女の肩を叩く。

ぴくっ!っと一瞬だけ身体が震える感覚が手に伝わる。

「な、なに?」

「いきなり、ごめん。昨日社長から連絡をいただいて、テレビの仕事が入ったんだけど、その仕事内容とかを打ち合わせ出来たらと思って。」

「うん。わかった。教室だと話しにくいから放課後に話しましょ。」

愛美はいつものようにあまり感情を出さない話し方をしていたが、表情は少しだけ嬉しそうだった。

和也は手帳を取り出すと昨日、連絡を受けメモした内容を再確認する。

隣に座る莉里が和也の手帳を覗き込むとメモ欄にぎっしりと書かれていた。

和也は視線を感じて莉里の方を見ると莉里もメモから和也の方に視線を移す。

「どうかしました?」

和也が聞くと莉里は少し恥ずかしそうな顔をして「いやぁ、頑張ってるなぁと思って。」と言いながら笑い誤魔化した。

和也は「自分のミスで櫻井さんに迷惑は掛けられませんから、俺は念には念を入れて何事も取り組まないと。」とそう言うと笑ってみせる。

「そっか、」

莉里は小さな声で何かを言ったが和也の耳にまで届くことはなかった。



放課後になると和也は帰り支度をしていた。

「私、これから打ち合わせがあるから先に事務所に行くね!」

莉里は和也にそう告げるとカバンを持って教室を出て行こうとする。

「ちょっ、一人で大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。事務所で立花さんが待っててくれてるから。」

「でも、事務所まで一人じゃ、危ないですし事務所まで送りますよ。俺たちも打ち合わせがありますから、」

「ねぇ?君は私の保護者なのかな?」

「いや、保護者ではないけど、事務所のマネージャーとしては心配だから。」

和也がそう言うと莉里は珍しく少しだけ顔を曇らせる。

莉里は「君の担当はマナっちで、私の担当じゃないんだよ。」と言い、教室を出ていく。

和也はその後ろ姿を見送るしかなかった。

「なにか今の星野さんは変だったね。」

愛美は帰り支度を終えて和也と莉里のやり取りを聞いていたようでその中で彼女に違和感を感じていた。

「いつも星野さんの方から進藤くんに絡んでくるのに・・・。」

「まぁ、確かに俺がしつこ過ぎました。俺たちも事務所に行きましょう。打ち合わせしないと。」

和也は苦笑いすると自分のカバンを持つ。

愛美も自分のカバンを持つと二人は教室を後にする。


事務所に向かう道中、愛美とはとくに会話はない。

ちょっと前は愛美の少し後ろを歩いていた和也だったが今は隣を歩いている。

「あ、」と言い、愛美が足を止める。

「どうかした?」

「ねぇ、事務所に行く前にちょっとここで打ち合わせしていかない?」

彼女が指差す場所は全国にチェーン展開しているカフェだった。

和也は意外な誘いに戸惑いながらも「いいですね。」と了承する。

中に入ると店員さんが御冷を二つお盆に乗せてメニューを片手に持ち席へと案内してくれる。

「御決まりの頃に御注文を伺わせていただきます。ごゆっくりどうぞ。」と告げると店員さんは御冷とメニューを置き、席を離れていく。

「進藤くん。先にどうぞ?」と愛美はメニューを広げて和也に差し出す。

和也は「俺はあ、アイスティーでいいや。」と言い差し出されたメニューを愛美に返した。

愛美は「ふーん。」と言いメニューを自分の元に戻して軽く視線を落とすとすぐに店員さんを呼ぶ。

愛美は和也と自分の注文をするとメニューを返した。

「進藤くんはコーヒーは飲まないの?」

「ど、どうしたの?いきなり・・・。」

「別にただの質問だよ。」

「御恥ずかしい話なんだけど、コーヒーの苦味が苦手で・・・。飲めない訳ではないんだけど、自分では飲まないかな。」

「そっか・・・。」

愛美は自分が質問したのにあまり興味を持ってはもらえなかった。

和也は「あ、そうだ。打ち合わせしないと」と話しを変えた。

カバンから手帳を取り出すとそれを開くとメモの内容を先に愛美に伝える。



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