PAPER 2 ニュー・スピーク New Speak 3
12日に一度、地下鉄から、ある場所へと辿り着く。
時期によっては、一月に一度程度の場合もある。
深夜から出発するのだが、それは廃線だ。
それなのに、何故か、電車がやってくる。
所謂、幽霊電車と言う奴だ。
中には、生きた人間なんて乗っていない。
地下鉄に乗ると、半透明な者達が乗車しているのが分かる。他にも、腐敗臭を放つ者達も多い。
アイーシャは、この列車に乗って、これから地下世界「カタコンベ」へと向かわなければならないのだ。この列車の事は、メビウスから貰った便箋の地図の中に、場所と時刻表が記されていた。
ふと、何処からか。
愛国歌が聞こえてくる。
人々が当たり前のように、この国を奨励している。
自分には、もう戻るべき故郷が無い。
この国が良い国か悪い国かなんて、正直、どうだっていい。ボブの事も、一応、仕事として引き受けたが、自分が戻る頃に、彼が生きている保障なんて無い。
ふと、過去のトラウマが眼の前に広がる。
自分の身体がバラバラになっていく、感覚がする。自分の肉体は呪われている。何故、何の為に生きているのだろう。かつての部下達の顔が浮かぶ。みな死んだ。いつから、自分はこんなに冷たくなってしまったのだろう。グリーン・ドレスと一緒に街を焼いてからか、メアリーに敗北し、凌辱されてからか。それとも、軍隊の厳しい訓練故か。
どんな奴が出てこようが、斬り殺して、撃ち殺してやろう。
自分の存在意義が脅かされる事、それがとてつもなく怖い。だから、強くなるしかない。きっと、今よりもずっとだ。
殺される前に殺すしかない。
多分、残酷さは馴れる。
それがこの世界のコンセンサスなのだろうから。
†
愛国心万歳。
愛国者万歳。
ああ、祖国よ、永遠に。
彼女は、列車の中で、この国でホテルを探している最中に見てきたものを回想していた。
街宣車に乗った者達が、公道でそのようなスピーチを行っていた。
それを聞いて、聴衆達が喝采を浴びせている。
思うに。
まるで此処の街の住民達は、中身の無い空洞、骸骨が歩いているように思えた。
“カタコンベ”。
それは骸骨で作られた墓であり、観光名所だった。
地下墓所。
死体が当たり前のように留置されて、それを当然のものとして、市民は受け入れている。この国家の下で人が幾ら、政府から処刑されて、死体にされようが、みな、それを当然のものとして受け入れている。
大量殺戮こそが、平和の証であり、導なのだと暗に言っていた。
死体の上に創り上げられた社会だ。
‐YU区画は共産主義者と社会主義者の巣窟だ。‐
‐奴らはこの国に貪る病原菌だ。
‐テロリストとの戦いを強めなければならない。‐
過激な保守主義を煽る新聞には、そのような見出しが書かれていた。
知識人達は、他国に国を売り渡すテロリストだ、といった趣旨の事が新聞には書かれている。
†
生も死も、その指標は何処にあるのだろう?
生きているものと、死んでいるもの、その区別は何処にあるのだろう?