PAPER 2 ニュー・スピーク New Speak 2
深夜の出来事だった。
三名で夕食を食べた後、人通りの無い道を歩いているところだった。
警察官の制服に身を包んだ者達が、ボブに拳銃を向けてきた。
アイーシャは驚いた顔をする。
「おい、お前ら、この国の警官の服を着ているが。お前らの顔付きは分かっている。俺を狙う組織のメンバーだろ。ふざけるなよ」
「死んで貰うぞ。“ファントム・コート”。お前がいるだけで、我々の上司は夜も眠れない」
おそらくは、この国の本物の警官なのだろう。
そして、この国には、ボブのような存在を始末する為の部隊が、警察組織の中にあるに違いない。
機械の装甲を纏ったトカゲが、警官姿の男の一人の指を喰い破っていく。手に持っていたコンバット・ライフルが落とされる。
アイーシャは、剣を振るう。
剣は分解され、中はワイヤーによって繋がっていた。まるで、鞭のように、剣は回転しながら、警官姿の男達の首を叩き落していく。
ボブはうずくまり、半泣きになっていた。
「…………。貴方を雇うのが、二日遅れていたら、俺は死んでました……。ありがとう……」
「こいつらがお前を狙う者達か」
「こいつらの住所は、知るわけないよな……?」
「え、ええ……、勿論ですよ。何処にあるのか、何処から狙ってきているのか分からない」
「そうか。工事現場からブルー・シートを見つけた。この国の本物の警察が、片付ける時、手間取らないようにしてやろう」
死体は全部で、七体あった。
みな、ブルー・シートの上に載せていく。
アイーシャの剣は変形していく。
それは、ドリルのような形状になった。
そして、男達の死体の顔に回転するドリルを撃ち込んでいく。
「い、一体、何をやっているんですか!?」
「ボブ。看板とペンキが欲しい。それから紐だ、工作するから」
ジャーナリストの男には、アイーシャの行為の意味が理解出来ないみたいだった。
「グリーン・ドレスから教えられた事があってさ。敵の戦闘意欲、士気を下げる為に、なるべく残虐的に晒し者にするんだよ。もっとも、余計に相手を激昂させる事もあるけどな」
アイーシャは看板に、赤いペンキで“貴様らがまた刺客を送り込んでくるようなら、私は徹底して、お前らを殲滅する。家族もろともだ。これ以上、ジャーナリストを狙うのを止めろ”という文字を、上手い具合に書いていく。
彼女はエグい文字は、まだまだだな、と言うと、満足げに、看板に孔を開け、紐を通した後に、頭をグチャグチャにした敵の首に、ネックレスのように掛けていく。
「これで大丈夫だろ、多分。まあ、もっと怒らせたら、ごめんなさい、ってわけだけどな」
「…………。よく、酷い事、こんなに出来ますよね…………」
それを言われて、アイーシャは困惑する。
「そういう戦いをしてきたからな、こっちも非道になるさ」
そう言いながら、機械の装甲を纏う女は、鼻歌を歌っていた。
「処で、ボブ」
「はい?」
「私は明日から、優先しなければならない依頼を行わなければならない、分かるな?」
アイーシャは突き放した態度で、髭面の男を見る。
ボブは少しだけ泣きそうな顔になる。
「もしかすると、手伝えるのは、これくらいかもしれない。悪いな」
そう言うと、彼女は自分が作り上げた死体達を、つまらなそうな眼で見ていた。その後、大あくびをする。
「ひとまず、バイアスを置いておくぞ。出来れば、私がお前を護衛したいが。明日、ある場所に向かうが……もし、戻れそうな時には、戻ってくる」
彼女は、また鼻歌を再開していた。
ボブは困ったような顔をして、惨殺死体を横目で見る。
……酷い報復に合うかもしれないなあ……。
そういった恐怖が、これから続くのだろうか。