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カタコンベ  作者: 朧塚
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PAPER 9 永遠の昨日



―地下世界でのトーナメントの終了から一日後の事だった。-


 アクゼリュスの地下世界に閉じ込められていた怪物の中で、ある男が檻から出したものの一体は、混乱に乗じて、地上世界まで上がっていった。そいつには、巨大な翼があったからだ。



 ステートの昼の街中だった。


 その怪物は、聖書に登場しそうな角の生えた大悪魔(デーモン)のような姿をしていた。筋骨たくましい肉体の所々からは、角のようなものが生えている。


 人々はぽかん、としたまま、誰一人、逃げまどう事なく、昼のランチタイムを楽しんでいた。電車は通常通りに動いている。ビルが密集している地帯だったが、ビルで仕事をしているサラリーマン達も、その存在を確認するが、なにかのアトラクションの見世物だと判断したようだ。


 そのデーモンの怪物は、口から、炎の吐息を吐き出して、地上の人々を焼き払った。車を次々と踏み潰していく。



 その巨大な怪物は、数時間に渡って、軍隊によって鎮圧されたが、報道機関は、気象異常の類として処理した。災厄に見舞われた人々は、神話的な怪物の姿を目撃した、という声が多発したが、パニックによる集団幻覚の可能性が高い、と専門家は証言した。


 彼らは、終わりの無い日常を望んでいた。

 永遠に覚める事の無い夢を渇望していた。


 報道機関が流している事が、正しい、とみな、信じていたし、疑うという事を知らなかった。この社会は、偽りの民主主義によって設立されていて、政府やマスコミが嘘の報道を流す、という考えには、つねに至らなかった。



 コインの裏表なのだろうか。

 鏡みたいなものなのだろうか。


 多分、同族嫌悪、というものに近いのだろう。


 ヴェンデッタは、政府や体制に従う事を選んだ。

 アビューズは、政府や体制に従わない事を選んだ。


 自分は善をなしているとは思えない。ただ、自由になりたいだけなのかもしれない。自由の先に何があるのかは分からない。


 自分が裏切る事によって、エンプティはどんな顔をするのだろう?

 憎むのだろうか? 憐れむのだろうか?



 たとえば、手から炎を出せるとか、物体を触らずに動かせるとか、未知のウイルスを作り出す事が出来るとか、そんな分かりやすい超能力ではなくて、自分が出来る事というのは“赤い点”のようなものが、壁などの障害物を通して“視える”という事だった。

 だから、ずっとそんな力を“生涯、隠して通す事は出来た筈”なのだ。

 ヴェンディは、何故、そんな程度の事が出来る事で、射撃手としての異様な才能が見出されたのかは分からない。思い出すと、中学生時代に弓道部だった頃も、小学生時代に男子に混じって、野球をした時にも“赤い点”が見えた。

 自分は与えられてはいけない、力を持っているのだと知ったのは、いつ頃だろうか。それは、物心付いた頃から、すぐ、では無かったような気がする。記憶は曖昧だ。


 そう、高校生の頃だ。

 ある人物達がやってきたのは。


 それは、彼女が、ある特殊な能力に目覚めているのだと知った者達が、ある日、彼女の家に訪問してきたのだ。高校生時代に、男子に混ざって、自衛隊の体験入学なんてものをしてからだ。完全に、それが間違っていた。そのせいで、彼女の運命は決まってしまった。

 射撃訓練の際に、人型の的に“赤い点”が見えたので、思わず、それら全てにそって銃の引き金を引いてしまったのだ。

 結果は、現役軍人達も絶句する程の、パーフェクトな命中率だった。


 完全な、悪目立ちだった。

 噂を消すのに、一、二ヵ月はかかったと思う。

 あんな恥ずかしい思いは、もうしたくない。




 連れていかれた時に、いくつかの筆記試験……心理テストのようなものを受けた。


 Q 貴方はナイフを持っています。夜の道に暴漢に襲われました、どのように対処しますか?

 A 逃げ続けて、背後から刺す。


 Q ある家に入ると、一人の男が頭を砕かれて死んでいました。その死因は?

 A 彼は退役軍人で、敵国のスパイに殺された。


 Q 貴方の友達の両親は、母親の方は外国人であり、友達はハーフです。ある日、その友人の母親は不法移民だと知りました。貴方はどうしますか?

 A 面倒事を起こしたくないので、知らなかった事にします。


 Q 貴方は愛国心という言葉を聞いて、どのようなイメージを抱きますか?

 A それに従っていれば、安心だと思います。私にはどうでもいい事です。


 …………。

 150問以上の筆記試験を受けた後、見事、彼女は“スカウト”された。

 彼女はこの上ない限りに、この国にとって貢献しうる人材なのだ、と。そして、遠回しに、断る権利は無い、とも言われた。

 そして、それらの事は、彼女の両親に知らされ、彼女が要人のボディーガードをする事は、誰にも言わないように言われた。



「決戦の舞台は決めたわ」

 彼女は、アビューズという男を殺さなければならないのだと、分かった。

 そうする事によってしか、自分の道は開けないのだ、と。


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