PAPER 1
調子が悪くて、この作品は余り上手く書けなかったのかもしれません。
かといって、自信満々で書いた「ナベリウス」という移民をテーマにした作品が酷評が多かったのですが。ひとまず、楽しんで貰えたら幸いです。
1
「それで、この私に何をして欲しいんだ?」
森を抜けた、山岳の中だった。
その女は、暗い森の中にいた。
彼女の方は、明るい地面の側にいた。
鋼の甲冑を全身に纏った女、アイーシャは、冷酷で、禍々しい瞳をしている女に向かって訊ねた。
「私はメビウスからお前に手紙を渡すように言われただけだよ。受けるべきか、受けないべきかはお前の勝手だ。……それにしても、奴は気前がいい。伝言代として、私が欲しい、『死のドリンク工場』と『腐敗農場』の土地の権利を与えてくれた」
デス・ウィングは、とても嬉しそうな顔をしていた。
アイーシャは封筒を受け取る。
「お前の噂は聞いている。私はお前のような奴が大嫌いだ。吐き気がする」
「そうか、よく言われるよ」
「そうだ、この小包に入っているものもやる。メビウスから出来れば、少しは援助してやって欲しいとも言われている。でも、私は、アイーシャ。お前のストーリーには興味が無い。だからなるべく、お前に影響力の低いものをやる」
デス・ウィングは、アイーシャに小包を渡す。
そう言うと、デス・ウィングは、彼女の下を離れていく。
†
‐アイーシャ殿へ‐
私の事は知っているな?
能力者達を束ねている生きた人形だ。
私とデス・ウィング、それからもう一人の者と三名で、ある存在を倒したばかりだ。
その存在はこの世界に生きていてはならない。
もしかすると、そいつの存在は知らないかもしれない、仮に錬金術師と言っておこう。
ほぼ不死であるが故に、おそらく奴は、未だ甦る準備を整えているだろうが。
しばらくの間は奴の影響力は下がると思う。
この世界の災厄は大きく減ったというわけだ。
だが、問題がある。
奴はこの世界に巨大な力の結晶を幾つも残した。私のような存在だ。
つまり、人造生命体だ。
†
便箋の一枚目にはそう書かれていた。
アイーシャは二枚目を開く。
†
処でお前は死体使いだな?
お前の能力は、死体に鉄の破片を纏わせて、機械のゾンビに変えるそうだな。
錬金術師が創造した者の一人で、地下世界を束ねる者達がいる。
そいつは、冥府の長『アクゼリュス』と呼ばれている。
冥府の長はゾンビを使える者達を探している。そして、ゾンビ使い同士で闘わせているらしい。
その場所は、通称・カタコンベ、と呼ばれているらしい。
理由は彼の軍隊を強くする為との事だが、本当の詳細は不明だ。
単刀直入に言えば、お前がそこに潜入して、情報を出来る限り持ち帰って欲しい。あるいは、冥府の長を倒して欲しい。もっとも、冥府の長は、私と同程度か、それ以上の強さを有しているかもしれないが。
謝礼は私が可能な事なら、何でも行おう。
能力者組合ドーンの総統、メビウス・リング
†
二枚の便箋と一緒に、地図が入っていた。
それから、小切手。
地下世界。
どうやら、世界中、あるいは多次元世界中のアンデッド使いが集まっている場所らしい。
自分は今、生きる目的を探している最中だ。
かつて、全て失って、そしてマイナスからゼロになった。
そこで、何か見つかるかもしれない。
2
端的には、この世界に対する憎しみを出発点にしているんじゃないかと思う。
人間が人間を殺す理由は、だ。
アビューズは、回転椅子に座りながら、その死体を眺めていた。
白骨死体だ。
その骨となった死体は、血塗れだった。アビューズが丁寧に、対象を生きながら、肉を骨から切り落としたのだった。
「今回は56時間は続けたぜ。疲れた……」
先程まで、彼が刃物を入れていた相手だ。組織の裏切り者だ。能力は電気を使うものだった、始まって13時間くらい経過するまでは、何度か能力によって反撃にあって、電気の攻撃によって、アビューズの身体の所々が負傷した。だが、彼は、かつて同志だった相手を生きながら、少しずつ解体していく作業をやめなかった。
「こいつの冷蔵庫に抹茶カフェアイス、ぶち込んだんだよなあ。仕事も終わった事だしなあ、それ食べよう……」
部屋全体に蝿が飛び回り、隅にどかした肉片や内臓には蛆が湧き、大小便の臭いと重なり、部屋全体が不快な臭気を発していた。
それは人間であったモノから、別の何かへと変貌していった。
アビューズは、御使い屈指の実力者だった。
誰の為に、こんな事をやっているのだろう?
実質的なリーダーである、エンプティの為?
分からない。
現在の御使いを築いたのは、アビューズの実力だった。
徹底した残酷さが求められた。
非人間的な殺害方法を欲求された。……それは、御使いに頼る者達によってだ。だからこそ、より御使いを“モンスター”として恐れられる為に、アビューズのような存在が必要とされた。あらゆる組織や政府や企業が、時には個人が、彼らの存在を求めた。時には、猟奇的に、時には静かに、それらは実行されてきた。
「俺は拷問、猟奇殺人担当で、エンプティは手際の良い暗殺者。そういうパートだよなあ……、バンドメンバーかよ…………」
そんな事を思いながら、自嘲する。
部屋のすみには、近くのコンビニで買ってきた、焼き肉弁当の空き箱にも、虫がたかっていた。人間を殺しながら、牛や豚の肉を食べるのにも慣れている。こういった仕事をやる人間は、まず臭いにも慣れなければならない。医者や検視官と同じようなものだ。
彼はシャワーで返り血を洗い流すと、いつもの真っ赤なローブに着替えると、マンションの外に出る。
みんな、誰かの代わりに、自分達に殺させている、過剰な殺害方法を依頼してくる。だから、自分は誰かの憎しみや陰謀などを代弁している、というわけだ。
……人類は普遍的に邪悪なんだ。
……それくらい知っている筈だろ?
アビューズ。
彼は『御使い』という名の、暗殺者集団の一人だった。御使いは、各国の裏側に潜み、政治家や、大企業の社長などに使え、要人暗殺などをもくろむ組織だった。
†
そして、闇の舞台が、また一つ幕を開ける……。
アビューズ
※度々、加筆修正を加えるかもしれないので、ご了承ください。