トーナメント 4-3
3
「ああ、サーティーンは一回戦で敗れましたか」
エンプティは電話を受け取っていた。
彼は、スーツ姿から、ターバンを巻き、カラフルな民族衣装姿に代えて、いつものリラックスした赴きだった。ホテルの一室の中で、ソファーに座ってくつろいでいる。
空いた缶ジュースが何本か、テーブルの上には置かれていた。
どうやら、闘技場の観客の中に、彼の下で働く調査員がいたみたいだった。
「サーティーンは死亡せず、戦闘不能状態なんですね? なら、上々です。何も問題ありません。試合の内容は録画されているビデオで観ますよ」
「しかし、ビデオで見ていたんですが。この試合会場の観客席ですが。死ね、殺せ、バラバラにしろ、臓物を出せ、といったような下品な罵声が多いですね。私にはとても、会場の熱気には耐えられそうにないなあ」
電話を切る。
彼は、ザルに沢山入った、木の実のような形の噛みタバコを手にして、口に入れる。
そして、録画してあった、剣闘士達の試合やモーター・レースなどを見ながら、くつろく事にした。
「それにしても、死臭がこちらにまで伝わってくるような気分になるなあ。これが人間達と人間サイドが魔物や悪魔と呼んでいる者達との交流、というのが笑えるなあ。種族というものを超えて、血沸き肉踊るスポーツの内容が、人間の死体の再活用ってのが、また皮肉というか」
スマートフォンが光を発する。着信音が部屋の中に鳴り響く。
彼はくつろいでいるとはいえ、一応、仕事の待機中なのだ。
通信機に表示されたよく知る名前を見て、エンプティは、自然と何のてらいも無い笑みが浮かんだ。
「ああ、どうしました? アビューズ。今は貴方の方も、待機中でして、我々、御使いをどう使おうか、と。ウキヨ様も、他の武器商人、大企業の方々も、保留にしているみたいなんですよね」
<ああ、ウキヨが。ボディーガードとして、俺を外したのは何でだと思う>
エンプティは、少しだけ考えてから、答えた。
「アビューズ。君は少々、危険なんですよ。直観が鋭い。それに、なんというか……。貴方は元々は向いていないのかもしれませんね」
彼はガムのように、噛みタバコを噛んでいた。そして、吐き出す。
<エンプティ、お前は俺の事が分かるのか。俺の思惑も>
「…………。もし、私の予想が正しければですが。……咎めませんよ。元々、御使いには上下関係は必要無いと思っています。我々は忍びのようなものですが。誰に忠誠を誓うわけでもありません。それに、今、分裂が酷い。貴方はどうされます? 私は私に付いてくる者達のみで、御使いを立て直そうと考えています」
<俺は俺の道を見つけるぜ。でも、エンプティ。お前は裏切らないつもりだ>
「そうですか。とても嬉しい」
そう言うと、電話は切れた。
サーティーンは、御使いにはなれないだろう。
アビューズもまた、離れるかもしれない。
エンプティは、それでも良いと思った。




