トーナメント 2‐2
ギアルは、自販機からビールを大量に買っていた。
そして、うつむいていた。
「何をやっている?」
デス・ウィングは微笑みかける。
「畜生……。次の列車が到着するのに、後、半日はあるのだとよ。最悪だ。出れば銃弾が飛び交う塹壕にでも閉じ込められたみたいだ」
「付いてきてくれないか? もし俺が暴れるなら止めて欲しい…………」
「分かった。お前の“物語”に付き合うよ」
デス・ウィングは楽しそうに笑った。
それは、庭園だった。闘技場の外だ。
汚らしい小屋だ。バラックと言うのだろう。
まるで馬や豚でも入っているような小屋だった。
「今は守衛らしき者達から聞いたのだが。あの小屋の中には人間種族らしき者達が入れられていると聞く。俺は彼らと話してみようと思う」
小屋には守衛がいた。頭を兜ですっぽりと覆っている。
ギアルは疾風のように走り去る。
そして、守衛三名の首を瞬く間に、手斧で切り落としていた。
ごろりと、転がった守衛達の顔が見えた。
顔の皮膚が腐り、骨が見えている。アンデッド達だ。
「中に入るぞ」
彼はバラックのドアを開ける。
中には鉄格子があり、ボロ布を着た人間種達が、入っていた。
そして、檻の外には、金色の首輪をはめた、身体が腐敗したゾンビ達が槍や大斧を持って、唸り声を上げていた。ギアルは、ゾンビ達を片っ端から蹴散らしていく。
彼らはギアル・ギウスの姿を見て、怯えが強まっていた。
ミノタウロスの男は異世界言語辞典を開いて、彼らと言語を共有していく。
この魔道書でもある辞典は、多次元世界全体の者達が使っている、言葉の通じない者達と会話する為に必須のものだった。様々な場所で配布されているが、誰がこの辞典を作ったのか分からない。だが、間違いなく多次元世界に生きる、あらゆる種族、あらゆる人種達にとって、この辞典は知性ある生命体の遺産として残された偉大なものだろう。
ギアルは辞典のページを開く。
すると、込められていた魔法の力によって、彼らと言語を共有する。
「お前達に暴力を振るいに来たわけではない。何故、この中に入っている?」
檻の中に入っている男の一人が言った。
「俺達は“あの国”から連れてこられた」
彼らの中には、祈りを捧げている者達もいた。
檻に入っている人間種族は、デス・ウィングの姿を確認すると、少しだけ落ち着いたみたいだった。同時に、彼女を不気味がる者達もいた。
「俺はこの死の国の闘技場に来たんだが、あまりの野蛮さに吐き気を堪えて帰る処だ」
「わたし達も見世物なの…………?」
檻の中にいる女の一人が言った。
「さっき、貴方が殺した……、殺したというのは、適切な言葉じゃないかもしれないけど。あのおぞましいゾンビの一人は、わたしの夫だった人よ。連れてこられて、身体が悪くて、すぐに死んだの……。次の日、なれの果てで、わたし達の下に現れた…………」
女はうつむいて、泣きじゃくる。
「殺して、あああ………………」
「そうだ、今すぐに俺を殺してくれ。頭を潰してくれっ! 俺はあの薄気味悪い腐った臭いのゾンビになんてなりたくないっ!」
老人の一人が、ミノタウロスの男に告げる。
「此処にいた、あの不死者達は、わしらの中から選ばれた者達じゃよ。わしらの一部は処刑されて、その後、わしらを見張る者達になったのじゃ…………」
ギアルは顔を抑えた。巨大な二つの角が震える。
デス・ウィングは、腕を組んで、中の人間達を冷たい視線で眺めていた。
助けてくれないかっ! と、誰かが叫んだ。
「お前達を外に出す。それは約束する…………」
「だが、この死の国を抜け出す事までは約束出来ない。列車から逃げ出すんだ、俺一人の力だけではどうにもならない」
精悍な顔のミノタウロスは、デス・ウィングの方を眺める。どうやら、この大柄の男は、彼女が相当な実力者だという事を理解しているみたいだった。
彼女は首を横に振る。
「これはお前の“物語”だ。私は手を貸さない。私は観ているだけだ。私に協力を仰ぐだけ無駄だし、無意味だぞ?」
彼女は不敵な笑みを浮かべていた。




