表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
最後の修行
2/221

002話

改訂版です



 ゴブと違ってオークの死体は売れるんだよね。

 だから普通は処理に結構気を使うんだけど、ワタシの場合は結構ラクだ。

 まずは六百ポンド(約270kg)近いデカいオークの死体を次々にホイホイっと並べて行く。

 そして何時もの様に、頭の中に入ってるソレ用の魔法陣をそれぞれのオークの死体の上に想い浮かべて起動する。

 コレで終わりなんだもんな。

 ちなみにこの思い浮かべるって技術はかなり難易度が高いらしい。

 前にししょーに自慢したら「誰にも言うでないぞ!」と怒られた位だから、相当な高等ワザなんだと思う。

 まあししょーも出来るみたいなので、誰にも出来無い技術(魔法の技術。略して魔術と呼ばれる)ってワケでも無いんだろうけれど、想写と名付けて使ってるコレは凄く便利だ。

 何しろ、普通なら刻んだらそれでお終いの魔法陣を描いたり消したり出来る。

 魔法は常に精神力で制御しなければならないので、そのプロセスやら何やらを書き込んだプログラムを作って手間を省いたモノが魔法陣だと言うのに、そんな事が出来たら何をか言わんやだよね。

 そんな魔法陣を起動して、何時も通りに結構な勢いでオークから血が流れ出ちゃうと、あっと言う間にオークの処理は完了だ。


「むぅ、そんな事ばかり上手になりおって……」


 ありゃりゃ。なんかししょーが呆れてますよ。

 でもさぁ、ワタシはソロでやる予定なんだから、色々器用じゃないと先々難しいと思うんだよね。

 身分の無い流民上がりって設定なんだし、そんなヤツが世間に対して武器に出来るのはお金くらいしかないのが普通だ。

 だったら売れる物は高く売れる様にするのが基本ですよ。

 そう思いつつ、更に別の魔法陣を想写してオークの死体に水をかけて血を洗う。

 ついでに自分の手も洗っちゃう。

 生活魔法(に分類されてるヤツね)って便利!


「お主は……」


 ああ、今度はししょーが額に手を当てて俯いちゃったよ。

 うーむ。

 昔は「お主、中々便利なヤツだのぉ」とか言って、結構ホメてくれてたんだけどな。

 確かに魔力量頼みってトコはあるけれど、そんな落ち込む感じにならなくてもイイじゃないかと思うんだ。


「魔法力は現場で便利には使わん物ぞ? 何時何があるか判らぬからな」

「いやー、だってワタシの場合は有り余ってますしぃ」


 疲れた様子のししょーに切り返して答えると、ワタシはストレージもどきの魔術で綺麗になったオーク死体を収納した。

 実はこの「ストレージもどき」と言うのも結構な反則ワザだ。

 物を魔法で収納する魔法技術であるストレージの魔術には魔導具が必須なのに、ワタシの「もどき」にはそんなの要らないからね。

 これは元々、ストレージの魔法陣を想写しようとして、その凄い複雑な魔法陣を記憶しようとやっきになってた時に偶然から出来ちゃった事で、ホントに何も無くてもそれっぽいコトが出来ちゃう。

 何処か別の空間に繋がる入り口が出来る感じで、どんな物でも入る上に一杯になった事も無いスグレものなのだ。

 こんなコトが出来る理由は不明のままだけど、便利だし実害も無いので最近はホイホイ使ってるのですよ。

 特に魔物の死体運び用には重宝してます!

 これが無かったら、ただ魔物の死体を持ち運ぶだけでも高価なストレージの魔導具を使わなきゃいけないし、量が増えればその数だって必要になる。

 人によっては容量が足りなくなった場合、インベントリの魔術で魔物の死体を収納しちゃう人まで居ると聞くので正に死活問題だ。

 魔物から取れる魔石だって、そんな所には入れたくないよ。

 だってインベントリの魔術って、一定以上の魔法力を持つ人が自分の身体の何処かに魔法陣(刺青みたいなヤツ)を刻んで、常時発動状態で使う魔術だよ?

 確かに人によって大きさや仕掛けが結構違うので、大物が入る人もいるかも知れないけれど、ぶっちゃけ体内に入れちゃう様なモノだから論外だよね。


「終わったのならば何時もの様に頼むぞ。放って行く訳には行かぬでな」


 オーク死体を収納して振り向くと、ししょーがそう言ってゴブの死体の山を指差した。

 ハイハイ、判ってますよ。

 自分で積んどいて言うのもナンだけど、平均四フィート半位(約135cm)しかない体長のゴブだって十二匹も積むと結構な大きさになる。

 普通はこの量を一気に燃やすだけでも大変なんだよね。

 但し、このワタシにとっては全然楽勝の範囲内だ。


「ハイハイッ、勿論ですとも!」


 ワタシは明るくそう答えると、ゴブ死体の山に向き直った。

 言われなくとも死体の山の下にはもうとっくに魔法陣を仕込んである。

 しかも今回はスペシャルバージョンだ!


「てやっ!」


 ちょっと格好つけながら死体の山を指差して下の魔法陣を起動すると、シュボッて感じの小気味良い音と共にその山を囲む形で地面に円が出現。

 直後にドバッと炎が円柱状に舞い狂い、あっと言う間にゴブの死体が蒸発するかの様に灰化して行く。

 うむ。中々の出来栄えだ。


「ななな、なんじゃぁっ、ソレわぁっ!」


 しかし、そのまた直後にししょーからお怒りのゲンコツが飛んで来てガックリ。

 結構痛い。

 だから普通人なら昏倒どころじゃ済みませんって!


「ししょーから借りた魔法書に出てた魔法ですよぉ。普通、ホメるトコなんじゃないですかぁ?」


 ワタシは涙目になりながらも、ゴブ死体が全部灰化した事を確認して魔術を解除した。

 勿論、風系の魔法で冷やしつつ、熱気とか灰とかを上空に吹き飛ばしておく。

 山火事とかマジでヤバいしね。


「あの様な魔法技術なぞ、何処に書いてあったと言うのだ!?」


 ちょっとムッとした表情で見返すと、何故だかししょーがまだ怒ってた。

 うぬぅ、解せぬ。

 カルシウムでも不足してるのかな?


「ええー。だって今の、野焼きの魔法陣ですよ? 見れば判るじゃないですかぁ」


 仕方が無いので軽く説明して様子見。

 ちなみに野焼きの魔法陣と言うのは、魔物の死体を狼とかが食べちゃって、魔力が溜まったソレが魔物化(魔獣と言う)したりするのを防ぐ為に燃やす目的の魔法陣だ。

 大抵の魔法士(特に騎士団付き魔法士)がやる普通の魔法陣だと書いてあったので、今回使ってみたのですよ。


「野焼きだと? 馬鹿を申せっ。このワシとて、あんな爆炎魔法は初めて見たぞ!」


 あらぁ?

 何だかししょーの反応がヘンですよ。

 うーん、おかしい。

 確かに熱量以外は野焼きの魔法陣の筈なんだけど……。


「うー、でもホントです。確かに温度はムッチャ弄りましたけどぉ……」


 取り敢えず言い訳を言って再度様子見すると、ししょーが目を向いてこっちを見た。

 むう。本当の事しか言って無いのに、そんな反応って傷付くわぁ。

 だって野焼きの魔法陣って、その魔法陣内の物体を燃やそうとする魔術なんだよね。

 ある種のかまどを魔術で作って、火を点けて薪を燃やすって感じ?

 だから空気の出し入れとか、そんな感じの二次的制御しか出来ない。

 そんな効率の悪さにムッとして、最初から燃焼対象に熱量を付与する形で魔法陣を弄ってみただけなのに、酷い言われ様だよな。

 そもそも本当だったら、ワタシはもっとずっと効率のイイ事が出来る。

 魔法陣に頼らず、自前で燃焼現象そのものを制御すればイイんだから、自分にとってはそんなに難しい魔法じゃない。

 でもソレは精霊が使う魔法、所謂精霊魔法ってヤツに分類されるらしいので禁じ手なのだ。

 世間は当然として貴族の間(一定線以上の魔法力を持つのが貴族)でも、そんなのオカルト扱いだからね。

 もし公表しちゃったら、きっとワタシは一生研究材料にされちゃうか、良くて籠の鳥って所だろう。

 そんな厄ネタは例えししょーにだって見せるわけには行かないもんな。


「温度って、お主……」


 あー、なんかまたまたししょーが頭抱えちゃったよ。

 ソレってワタシが悪いワケ?

 ワタシ悪くないよね?


「取り敢えず、人前でやる場合はもう少し控えめな温度にしとけ。シャレにならん」


 うっ……。

 言いたい事は一杯あるけども、ししょーの沈痛な表情にビビったワタシはそれらを口に出さない事にした。

 だってあの表情は密かにマジ切れ寸前の顔なのですよ。

 触らぬ神にタタリ無し!


「へーい、自重しますですぅ」


 何だかとっても納得行かないけど、此処はしょうが無いので渋々頷いておく。

 キレたししょーほど恐ろしい物はこの世に無いからねっ。

 縮地からの渾身の抜き打ちワザとか、前に食らった時には頭の中で走馬灯が回っちゃったもんなぁ。



この辺りで終わりにさせて頂きます。読んで頂いた方、有難う御座いました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ