194話
何とか書けましたので、予告どおり連続投稿します。
「しかしこいつは色々とマズいですぜ? 何しろ今の話を信じるなら、その娘は騎士団長代理殺害の凶状持ちだ。そんなの匿った事がバレたらシャレになりやせんよ」
「そうだね。要するにこの娘はワタシ達を利用して騎士団の追っ手から逃れようとしてるんだろうしさ」
「ちゃんと判ってるんじゃないでやすか。だったら答えは決まってる筈でやしょう?」
キーちゃんのお陰でベルちゃん(仮名)の言う事を信用する方針にしたみたいだけど、今度は受け入れに断固反対と言った態度のロベールさんにちょっと疲れる。
でも彼の言う事は正論だし、普通ならそれが正しいので、如何ともし難いところだ。
何せロベールさんから見れば、ベルちゃん(仮名)は自分が逃げ切る為に主であるワタシに危ない橋を渡らせようとする敵になるんだからね。
そりゃ簡単にウンとは言わないわな。
「でもさ、そんなの適当に死んだ事にでもしちゃって、流民として新たな名で討伐士協会に登録しちゃえばOKでしょ?」
「そいつはそうでやすが、ツラは手配が回ってるでしょうし、元騎士ってのは細かい情報が握られてるんで色々と大変なんでやすぜ?」
「だったら協会に頼らずこっちで何とかするよ。傀儡とは言っても、伊達や酔狂で領主なんてやってる訳じゃないからね」
キーちゃんだけで無く、ぐうちゃんやびいちゃんにも目配せをして反応を見ると、二人共「GO!」と言う反応を返してくれたので、もう色々ぶっちゃけちゃってもイイかと自分の情報を出してみる。
するとロベールさんが一瞬で頭を抱えてテーブルに突っ伏しちゃった。
ちょっと罪悪感。
後で謝って胃薬でも渡しておきますかね。
「貴族の御方とは思っておりましたが、まさかその御歳で御領主様とは……」
反対に目を見開いたベルちゃん(仮名)が何やら呟くのを片手で制して、ロベールさんの答えを待つ。
今は彼を説得する事が優先だからね。
ベルちゃん(仮名)とは後で幾らでも話せるしさ。
「……出来ればレティのアネさんに御相談なさってからにして下さいよ。後で怒られるのはアッシなんですぜ?」
「レティは関係無いでしょ。大体ぐうちゃんとびいちゃんが助けようと進言して、それを実行したのはこっちなんだから、責任を負うのはワタシだよ」
「ううーん。そいつを言われちまうと、こっちも何とも言えなくなっちまうんですが……」
ゲンナリとした顔ながらも、断固反対から責任論に流れ出したロベールさんの反応に気を良くして一気に押してみれば、どんどん弱くなる抵抗に少しニンマリ。
これはどうやらイケそうな雰囲気ですよ。
「そう言えば貴女の方はどうなの? この場はちゃんと保護してあげるし、下山も支援してあげる積りだけれど、危ない橋を渡る以上、前提条件として隷属紋は受け入れて貰えないとこっちは信用出来ないんだよね」
頭を掻いて口篭ったロベールさんを置いて、今度は待たせてたベルちゃん(仮名)の方に訊いて見た。
もう既にぐうちゃん達を見られちゃってるベルちゃん(仮名)をそのまま野に放つのは危険だからね。
大丈夫だとは思うけれど、ここで隷属紋を断られると厄介だよな。
「それは無論、命の恩人であられるお嬢様に下女としてお仕えしたい気持ちは変わりません! 隷属紋でありましたら、今すぐ入れて頂いても大丈夫です」
「オイ、簡単に言うんじゃねぇ。お前の凶状持ちなんて事より、このお方にお仕えする方がよっぽどシャレになんねえ艱難辛苦を背負い込む事になるんだぞ!?」
「むう。何だかロベールさんが酷い……」
ベルちゃん(仮名)の良い感じの返事にホッとすると、凄みの聞いた声でワタシをディスって来たロベールさんにグッタリ。
確かにロベールさんに課してる修行はキツいと思うけれど、そこまで言われちゃうと悲しくなっちゃうよ。
「い、いや、だって姫サンに付いて行くのは普通のヤツには絶対に無理ですぜ? そこらの討伐騎士野郎にだって無理臭いのに、こんな成り立ての騎士見習いにソレをやれなんてのは、死んで来いと言ってる様なモンでしょ?」
口を尖らせて文句を言ったら、途端にキョドって言い訳を言い出したロベールさんに可笑しくなって笑う。
「ロベールさんの言う事も判るけれど、この娘は多分かなりイケると思うよ。少なくともぐうちゃん達もそう踏んでるみたいだしさ」
文句は言ったものの、ロベールさんの言う事はとっても正しい。
レティはともかく、ついこの前までは歴戦のロベールさんだってワタシに付いて来るのはキビシそうだったからね。
でも野生のカンは「イケる」と判断してるし、例えそれが無くとも、ベルちゃんの持つ恵まれた体格と黄橙級の魔法力を考えれば、彼女の討伐騎士としての素質はかなりのものだ。
自分が気に入っちゃった事もあるけれど、ブーツォ辺境流を仕込む対象としても願っても無い人材なんだよな。
「げっ、精霊サマ方の御推薦でやすか……。それじゃ反対のしようも無いでやすが、直臣として一つお願いがありやす」
おっと。
遂に折れたのか、ロベールさんが条件を付けて来ましたよ?
ナニナニと訊いてみれば、彼はすっくと立ち上がって妙に真面目な顔になった。
「アッシと同じ仕掛けを施して、出来るだけ早く強者にしてやって欲しいんでやすよ。そうじゃ無えと足手纏いでやすからね」
「ううーん。ロベールさんみたいにずっと仕えてくれる人相手ならソレも良いけど、期間限定な人にアレは無理かなぁ」
何を言うのかと思ったら、極悪魔法陣の件で御座いましたか。
やっぱロベールさんは優しいヒトだわ。
今の彼女がワタシ達と帯同すれば、ちょっとしたとばっちり一つ食らっただけでもヤバいので、そうならない様にしてくれって事だもんね。
そしてアレを刻めば一足飛びにブーツォ辺境流を体得出来るから、その対策としては最上の形と言いたいんだろう。
でもアレはおいそれと人様に刻めるブツじゃ無いんだよ。
何しろ今までアレを刻まれた人で後にちゃんと消えた人は未だいないのだから、慎重にならないと不味い。
会議の後にデラージュ閣下やマルコさんに騎士紋を刻んだ時も、そっちの方は知らん振りしたんだしさ。
だってアレは世に言う魔法陣とは似て非なるもので、結果的に同じ効果をもたらすから便宜上魔法陣と呼んでるだけの描く魔法だ。
魔法陣が記号と文字でシステマティックに魔法を表すのモノなら、アレは混沌の中に一瞬浮かび上がる魔法の景色を模写した絵と言える。
そんなブツを背負う怖さは何度か言った筈なんだけどねぇ。
「だったらソイツを条件にしやしょう。最低十年は仕えるってのはどうでやす?」
「十年かぁ。そうだねぇ……」
割りと強めに却下したのに、意外と粘るロベールさんにこちらもちょっと考える。
現在の進捗状況から推測すれば、今は未だ実証実験の段階でしかないアレもその位の期間を経ると色々なデータが揃って、例え実例が無くても様々な対処が出来る様になってる可能性は高い。
この先に魔法大学院で研究生活に入る事も考えれば、それは十二分に考えられる未来ではある。
「じ、自分は召抱えて頂けるのでしたら十年でも五十年でも構いません!」
オヒオヒ。
結構マジに考え込んでたら、見当違いの仕官活動っぽい事を言い出したベルちゃん(仮名)にグッタリ。
思わず苦笑してロベールさんを見れば、そっちはそっちで両手を上げた降参ポーズで苦笑してた。
まあ自分が実験動物扱いされてる事なんて気が付かないだろうから、仕方が無いところなのかな。
「一応言っておくけれど、もしワタシに付くならこれから流浪の日々が続くよ? 領地なんて無いと思ってね」
「元々家族の無い天涯孤独の身の上でありますれば、それは全く構いません!」
何だか考え込んでる事がバカバカしくなって、つい脅しめいた事を言えば、領主など名ばかりの旅から旅の日々だと言ったのに、スパッと即答で受け入れるベルちゃんに感心しちゃう。
仕官って普通はそう言うモノじゃ無いと思うんだけど、脳筋な人はこれだから付き合い易いんだよな。
「それじゃ決定だね。ワタシは城塞都市同盟と言う所で傀儡総帥をやってるマリア・コーニスって言うの。そっちは直臣のロベールさんね。領主なんて仮の身分で十年後は要塞一つしか残らないと思うけれど、将来は独立騎士団を作る予定だから、騎士としてやって行く事は出来ると思うよ」
「な、なんと! では貴女様はあの現代の英雄であらせられるマリア・コーニス様でいらっしゃるのですか!?」
ぶへっ。
話は決まったと簡単に自己紹介したら、目を輝かせて立ち上がったベルちゃん(仮名)の反応に椅子ごとちょっと引く。
こんなポッと出のヤツに現役の陪臣騎士(見習いだけど)ともあろう者がその食い付きっておかしくない?
巷に流れてるワタシの噂って、一体どれだけ凄まじい尾鰭が付いてるんだよ!?
「現代のなんちゃらとかは知らないけど、そのマリア・コーニスなのは確かだね」
憮然とした顔で答えたら、あっはっはーと笑い出したロベールさんにゲンナリ。
いやロベールさん、ここはフォローを入れてくれるトコロでしょ。
それともさっきの仕返しですか?
「そ、そんな御方に押し掛け従者の様な真似をしてしまったとは……。ああ! 何と身の程知らずで畏れ多い事をしてしまった事か!」
「へっ!? あ、ちょっと、ベルちゃんってば!」
ロベールさんを睨み付けてたら、ブルブルと震えながら両手で顔を覆って仰け反ったベルちゃんがそのままブッ倒れちゃってビックリ!
な、なにコレ?
一体全体何がどうしてこうなったの!?
「姫サンは今じゃ噂に名高い半大陸最強クラスのヒロインでやすぜ? しかもシルバニアの隠れた王族なんて言われてやすから、一般の騎士見習いから見れば雲の上の御方でさぁ。そんな御方に直接縋っちまったとなりゃ、余りの小っ恥ずかしさに倒れてもおかしくはありやせんよ」
思わず立ち上がると、両手を上げた降参ポーズのロベールさんが褒め殺しっぽい事を言いつつ、気絶したベルちゃん(仮名)の介抱に回って来た。
ぬう。もし本当にそんな理由だったら、こっちの方こそ小っ恥ずかしくて倒れそうだわ。
真面目に勘弁して欲しいです。
「自分ではタダの賞金首従騎士だとばかり思ってるんだけどねぇ」
しかもちょっと顔が赤くなっちゃったので、言い返しながらそっぽを向く。
ホント、突然の褒め殺しは辞めて欲しいわ。
「まあ冗談はともかく、あれだけ消耗してたヤツがメシ食っただけで急に復活する事なんてありやせんぜ。無理してた所にホッとしたもんで気が抜けたんでやしょう」
「ああ、そう言われてみればそうだよ。普通なら起き上がれない位だったもんね」
「その通りでさあ。しかし姫サン、受け入れた以上はコイツもアッシ同様に面倒を見て貰わないとイケやせんぜ? 途中で放り出すのはナシって事で頼んます」
成る程ね。
そりゃロベールさんの言う通りだと思うわ。
でもロベールさんってば、倒れた後になってから随分とベルちゃんの肩を持つんだね。
「なんだ。ロベールさんもベルちゃんの事は気に入ってるんじゃないの」
「そりゃまあアッシは脳筋なヤツにシンパシーがありやすからね。貴族に酷え目に会わされたって話も最初っから信じてやしたよ。でもあそこはああ言わなくちゃイケねえのが家臣ってモンでやしょ?」
「まあねぇ」
簡易ベッドを出してベルちゃん(仮名)を寝かせるロベールさんの返事に苦笑しながら肯く。
何だかロベールさんも何時の間にやら立派な士族家の家臣って感じになって来たよな。
こんな自分に付いて来てくれるのはちょっと申し訳無い感じがするよ。
今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有り難う御座いました。