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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
オーガ討伐
197/221

193話

この話は長くなってしまいましたので、二回に別ける事にしました。

次回は出来れば時間差無く投稿したいのですが、遅くとも日曜日中には投稿する予定です。



「どうかお願いします!」


 ロベールさんの所に戻り、ミルク粥やら何やらを作って貰って食べさせたら一気に復活したまでは良かったけれど、その後に土下座して頼み事を始めちゃった女の人にゲッソリ。

 どうやらこの女性ひとってば、何処かの騎士団を出奔しちゃったらしい。

 でも何の準備も無く突然やっちゃったので、早くも行き詰って野垂れ死に寸前だったそうだ。

 そこで通り掛かったワタシ達に手を貸して欲しいと言う事ですな。


「無論タダとは申しませんっ。御領主様に連絡を付け次第舞い戻り、最低三年は奴隷身分で貴女様に御仕えする所存!」

「そんな事を言われても、こっちは未だ貴女の名前も聞いてないしねぇ」


 ちらっと目線をやると、テーブルの向こうに座るロベールさんがダメダメと首を横に振った。

 まあそうだよね。

 ワタシは別に人助けをする為に諸国を放浪してるワケじゃない。

 それに誰かを助ける事は大抵、他の誰かを敵に回す事に繋がる。

 砦の子供達を助けたら、要塞の連中を敵に回す事になったデボラさんが良い例だ。


「自分はイザベル・カルヴェと申しまして、今年騎士学校を卒業し、晴れてマンゼールの御領主様にお仕えする事になっていた騎士見習いであります」


 先ずは名乗ってからにしろと言ったら、居ずまいを正して顔を上げたイザベル嬢の顔をマジマジと見る。

 良く見ればこの、確かに随分と若い。

 しかもこの口の利き方は由緒正しい脳筋サンの特徴だから好感も持てる。

 このテの話し方をする人は代々続く脳筋家庭で育てられた生粋の武人に多いからね。

 小さな頃から騎士団に潜り込んで「押忍押忍!」な毎日を過ごしてた自分にはとっても親近感が湧いちゃうのですよ。

 ただし、未だ騎士紋が入っていない見習い騎士なら出奔しても罪は無いも同然なのに、何故こんな山中に逃げ込んだのかは理解出来無い。

 例え領主に仕える約束があったとしても、討伐士協会に入っちゃえばソレでチャラに出来る筈だ。

 そりゃ士族家一門や家族との確執は出来ちゃうけれど、アレの町で会ったドニさんと同じ様な立場なんだから、基本は自由な筈なんだよね。

 まあ騎士学校は大抵三年だから普通に入ってれば一つ年下の十五歳だし、知識が薄くても仕方が無いのかな。


「と言う事は歳は十五? それじゃ知らないかも知れないけれど、見習い騎士なら出奔しても追われたりしないよ」

「確かに年齢は仰る通りなのですが……」


 んん?

 単なる世間知らず少女の独り相撲なのかと思ったら、どうやらそうでは無いみたいですよ。

 本人の様子も変だし、何やら厄介事の匂いがするね。


「実は跡継ぎだったから逃げるに逃げられないとか?」

「跡継ぎと申しますか、実は既に亡き父の跡を継いでおりました」

「うわぁ。それじゃ出奔したらカルヴェ家一門を丸ごと敵に回しちゃうねぇ」

「いえ。父は元々天涯孤独の身でしたので、カルヴェ家に一門などはありません。母はとうの昔に亡くなっていますので、元から父娘二人だけの家族でした」

「そうなんだ……」


 言い出し難そうだったので水を向けてみれば、イザベル嬢には何やら深い事情がありそうな感じだ。

 しかもコレ、どうも士族家の御家事情が絡んでるみたいだわ。


「今を去る事二年前に父が魔物相手に名誉の戦死を遂げた際、自分は既に騎士学校におりましたので、そのまま跡を継ぐ形になったのです。しかしその後色々と周囲が煩くなりまして……」

「ああ成る程。雨あられの縁談攻勢に会っちゃったんだね」


 話を進めると、お父さんの死よりもその後の展開に参ってるらしいイザベル嬢が更に言い難そうな顔をした。

 うんうん。気持ちはよっく判るよ。

 だって女子が継いだ家に婿で入り込めれば、次男だろうが庶子だろうが将来は安泰なので、もう様々な連中があの手この手で攻めて来ちゃうもんな。

 似た様な立場だったワタシも随分と攻められ捲ったからねぇ。

 しかもそんな時に守ってくれる係累もいないとなれば尚更だ。


「はい。仰る通り様々な方々が様々な縁談を薦めて来ました。ところが、最終的に何故か騎士団長代理閣下であるゴードン様の愛人となって庇護を得ろと言う話が主流に


なりまして……」

「うへぇ」


 もはや消え入りそうになっちゃった声のイザベル嬢に顔を顰めて溜め息。

 例え男爵領でも騎士団長代理となれば騎士爵は確定だから、問題の本質はエロ貴族野郎のゴリ押しと言うコトだ。

 要はイザベル嬢が一門の保護が無い天涯孤独な身の上なのを良い事に、権力を振りかざしたバカヤロ様が彼女を愛人にしようとしたってワケですな。

 ありがちな話とは言え、ふざけた話だわ。

 そんなヒヒ爺死ねばイイのにと思いながら、イザベル嬢をじっと見つめる。

 こうして見直してみると、汚れを落としたイザベル嬢は背も高ければスタイルも綺麗で、顔もかなり良い方だ。

 ロリからババまで色々な趣味嗜好がある世の野郎サマ達の中でも、スタイルの良い大女好きと言う連中は決して少数派じゃない。

 お胸サマは少々頼りない感じであるものの、彼女はそう言うヤツラには堪らないタイプなんだろうなぁ。


「はぁ。それは勿論断ったんだよね?」


 とは言え、世の中には女の武器を使って伸し上がろうとする女性ひとも居るので、一応の確認として訊いておく。

 そのテの人から見ればこの話は色々と美味しい話だ。

 何しろバックに貴族、それも騎士団内部で絶対的な権力を持つ人間が付くとなれば、騎士としての彼女はやりたい放題し放題が出来ちゃう。

 上手くやれば左団扇の生活が待ってるし、散々溜め込んでから逐電しちゃうと言う手だってあるからね。


「はい。しかし後見人であった騎士長のバイヨ様を筆頭に、あっと言う間に外堀が埋められて逃げる事が出来なくなりました」


 うっ……。

 余計な事を考えてたら、膝の上で両手をギュッと握り締めて答えるイザベル嬢に自己嫌悪が湧く。

 やっぱりこんな脳筋っぽい少女にご商売のひとみたいな真似はムリだよね。

 勿論自分にもそんな芸当は逆立ちしたってムリなので、何だかシンパシーを感じちゃうわ。


「良くある話だと言えばそうだけど、本当にムッとする話だねぇ。そのバイヨとか言うヤツが貴女をゴードンとやらに売ったんじゃないの?」

「恐らくは、そうだと、思います」


 あーあ。

 遂に泣きそうな声になっちゃったイザベル嬢に溜め息。

 多分お父さんの友達とかそんな間柄だったんだろうバイヨ氏を、イザベル嬢はそれなり以上に信じて後見を任せてたんだろうに、その仕打ちって冗談じゃ無いよね。

 それじゃ何もかも捨てて逃げ出したくもなるよ。

 最初の奴隷志願もソレが本当の理由なんだろうなぁ。


「成る程ね。それでそれが判って大魔山脈に逃げ込んだってワケなの?」

「いえ。それが、その、バイヨ様の手引きで閉じ込められ、そこでゴードン様に無理やり肉体関係を迫られて反撃を……」

「ああん? 無理やりお肉な関係を迫られたぁ!?」


 ぷるぷると小刻みに震えだしたイザベル嬢の答えにドカンとテーブルを叩く。

 ふっざけるな! 女を何だと思ってやがる!

 ゴードンとか言うクソ野郎もそうだけど、そのバイヨってヤツも許し難いわ。

 いつか見掛ける事があったら、絶対に息の根を止めてやらないと気が済まない!


「それでブン殴って騎士団を逐電しちゃったってワケ?」

「いえ。思い切り股間を蹴ってしまいましたので、多分亡くなってしまったのでは無いかと……」

「ぶっ! そ、そう。それは良い事をしましたねっ」


 ムカつく話にエキサイトし掛けた所で、更なる質問に答えたイザベル嬢の言葉に噴出しそうになる。

 このってばナイス過ぎ!

 股間は鍛え様が無いと聞くから、例え見習いでも騎士が全力で蹴ったら間違い無くお終いだろう。

 どうせ丸出し状態で迫ってたんだろうし、イイ気味だ。


「よ、良い事、ですか?」

「あったり前でしょ。大体ソイツって何歳? どうせデブでハゲな中年親爺なんじゃないの?」

「ええと、確か五十間近だったと思いますが、外見はずばりそんな感じです」

「うんうん。それは世の為人の為、素晴しい事をしたんだよ! もししぶとく生き残ったとしても、きっと今頃はオネエになってるだろうしねっ」

「お嬢さーん。ヤバい話なんであんまり感情的にならないで下さいよ」


 こヤツめ、綺麗な顔をして中々にエグい事をやりよると心の中で喝采を送ってると、今まで黙って聞いてたロベールさんがチャチャを入れて来た。

 まあ言いたい事はとても良く判るんだけど、もうワタシの心の中ではベルちゃん(仮名)を受け入れる事が決定してるので、ここは退いて貰いたいところだ。

 既に野生のカンも「GO!」と言ってるしね。


「権力を笠に着たセクハラ中年親爺なんて死んでヨシでしょ? 強姦なんてやるクソ野郎はこの世に生きる価値なんて無いよ!」


 でも出来ればロベールさんにも賛成して貰って、仲良くして欲しいなーと思うので、座右の銘に等しいスローガン「強姦者に死の鉄槌を!」口にして賛意を募ってみる。


「いやいや、ちょっと待って下さいよ。未だコイツが真実を喋ってるとは限らんでしょう?」


 おおっと。

 折角座右の銘まで出したと言うのに、ロベールさんってば慎重な事を言って否定の側に回っちゃいましたよ?

 ちょっとガッカリ。


「ワタシのカンが真実だと囁くんだよ。ねぇキーちゃん、キミもそう思うよね?」

「キキッ!」


 仕方が無いので、何時の間にやら実体化してワタシの膝上で寝そべってたキーちゃんを引き込むと、彼(彼女?)は期待通りにウンウンと肯いて味方に付いてくれた。

 なんだかとっても嬉しい。

 お礼に可愛い頭をナデナデしちゃうよ。


「おいおい……」


 腰に両手を当てて二本足で立ち、ドヤ顔(?)をするキーちゃんにロベールさんが頭を抱えた。

 うむ。勝ったな。

 さて、後はどうやってベルちゃん(仮名)の受け入れをロベールさんに認めさせるかですな。

 将来作る独立騎士団の団員確保を考えたらこう言うは是非とも欲しい所だし、どうしますかね。



今宵もこの辺でお笑いにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有り難う御座いました。



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