191話
何とか日付が変わる前に投稿出来ましたが、「今度は新たな説明回かよと!」怒られるのがコワいです、ハイ。
なお、ブクマや評価を入れて頂いた方、本当にありがとう御座いました。
お陰でこの実験的小説も遂に800P付近に到達して、望外の喜びに打ち震えております。
「たった二人しか居ないのに、大魔山脈の只中でこんなに快適でいいんでやすかね?」
「別に快適って程じゃないと思うけどねぇ」
起きてから二日ほど滞在した要塞を出てから三日目、今ワタシはロベールさんと二人で当初行く予定だったマンゼールに向かって山中を移動中だ。
商会運営の為に一旦離れたレティとは都市連合を構成するゲルノーと言う城塞都市で待ち合わせになってるんだけど、約束した日付まで大分あるので、ロベールさんに私的な実験を手伝って貰いながらのんびりと動いてるところですよ。
「いやいや。魔物を呼ぶ事になるんで、普通ならまともに火を使う事だってビビる魔山の森の中でこの食事ですぜ? これじゃ丸っきり唯の旅行でやすよ」
スクランブルエッグと軽く炒めた腸詰を食べながらロベールさんが笑う。
「そう? ししょーなんて魔山のド真ん中でもワタシに料理させて、デザートまで食べてたんだけどなぁ」
「そりゃ剣鬼サマなら何処でだってその程度は余裕な気はしやすが、こんなアッシみたいなヤツが同じ様な事を出来るなんて夢みたいでやすよ。ワン公達サマサマでやすね」
「確かにワンちゃんズ頼みって事はあるけどねぇ……」
ロベールさんが言うのは此処から半径三十ヤード(約27m)で円形に配して防衛陣を作っている十頭のワンちゃんズの事だ。
幾ら探知魔法もどきがあると言っても完璧じゃ無いので、食事や睡眠の時はあのコ達のお世話になってるんだよね。
大魔山脈の只中でも料理を作ったり、テーブルセットまで出した食事が出来るのはそのお陰と言ってイイ。
「でもソレはワタシとロベールさんが両方とも強者同士って事もあると思うよ? 足手纏いがいたら此処までラクじゃないだろうしさ」
「そう言って貰えると嬉しいでやすが、確かにアンジェのヤツを連れ来てたら大変でやしたよね」
「強いヤツに付いて行きたいアイツの気持ちも判るけど、あのレベルじゃお荷物以外の何者でも無いからねぇ」
ロベールさんが名前を出したせいで、出る寸前まで「連れてけ」とギャアギャア煩かったアンジェの事を思い出して溜め息。
会議の後、総責任者(傀儡だけど)のワタシの裁可が出るまではと、要塞に留められてた子供達と会ったまでは良かったんだけれど、そこに砦の子達も一緒にされてて、しかも何時の間にやらガキ大将的なポジションに納まってたらしいアンジェが「みんなの代表です」ってな顔で目を輝かせながら縋り付いて来ちゃったから、マジで鬱陶しかった。
ラウロ君やエレナちゃんならともかく、アンタはお呼びじゃ無いって言うんだよね。
しかも誰に唆されたのか「臣下にしてくれ」と煩く付き纏って来やがるので、仮成人前の子供に隷属紋を刻むのは違法だと突っぱねたら、「じゃあ愛人でもイイ」なんてワケの判らん事まで言い出すし、本当に疲れたわ。
このままフォートマリー(要塞の新しい名前だそうだ)でデボラさんの従騎士として修行させる約束をしたら何とか収まったものの、次はそれを聞いたゴリ&ラーコンビや他に保護されてたお子様連中が「贔屓だ!」と喚き出して騒ぎになっちゃうしさ。
面倒臭いので全部デボラさんに押し付けたら、総勢が三十人を超えちゃって、まるで私設騎士学校みたいだと笑ったのはナイショだ。
もっとも、何故か当のデボラさんも喜んでたから良いだろうとは思う。
まさかお子様達を実験動物代わりに使う積もりも無いだろうし、砦の子達を助けた前科もあるから、きっと子供が好きなんだろうな。
ちなみにラウロ君とエレナちゃんの方は、予定通りマチアスおじ様に預けて面倒を見て貰う事になった。
夜一緒に遊んだら「弟と妹が出来たみたい!」と大興奮だったアリーにも頼んでおいたし、あの二人ならマリーランスでも上手くやって行けるだろう。
「そう言やぁ、レティのアネさんとの約束の日まで未だかっちり二週間はありやすが、それまでは魔山を徘徊って感じですかい?」
可愛い兄妹やアリーと遊んだ事を思い出してニマニマしてたら、ホットサンドを食べ終えたロベールさんが両手を叩きながら訊いて来た。
見ればテーブルの彼の前は色々あった料理がキレイに無くなってる。
ぬう。流石に食べるの早いな、このヒト。
「そうだねぇ。レティは例の商会運営で忙しいだろうし、もしかしたらもう少し時間が延びるかも知れないよ。急ぐ事は無いね。それにロベールさんにやって貰ってる実験は貴重なサンプルになるから、悪いけど時間が許す限り付き合って貰いたい所かな」
「いやぁ、それはこっちからもお頼みしてえ事なんで! お陰で別人みたいな動きが出来る様になりやしたし、このままガンガン修行して頑張れば、アッシみたいなのでも騎士卿級に手が届きそうでやすからね」
「そう言って貰えると有り難いよ。ただ一応、例のオーガ討伐が最終試験だと考えておいてね。それ以降は好きにしていいからさ」
今やってる実験の話をすると、興奮したロベールさんの口調に苦笑して、誤魔化しにズズッとスープを飲み干す。
この実験と言うのは、例の極悪魔法陣を改良したブツのテストの事だ。
キーちゃんの存在にヒントを得て考えた、雷の剣をモチーフにした絵柄に見えるブツが想像以上に巧く行ったので、ロベールさんがレティに入れられた極悪魔法陣にそれを付け足してみたのですよ。
コレによって制御された極悪魔法陣は、起動しても精神とか心とかがヤバくなる前の状態で踏み止まらせる事が出来る。
お陰で効果は弱くなったものの、ワタシの剣技や体術を体感出来るから、一足飛びにブーツォ辺境流を叩き込む事が出来ちゃうんだよね。
「もうホント、こいつはとんでもない仕掛けでさぁ。アンジェのヤツにも入れてやれば良かったんじゃないすか?」
ぬにゅう?
笑いながらもまたアンジェの名を出したロベールさんにちょっと疑問が湧く。
まさかと思うけれど、ロベールさんってロリコンじゃないよね?
幾らアンジェでも十二歳少女はヤバいよと思いつつも、大事な話なので此処はちゃんとした答えを返しておこう。
そもそも極悪魔法陣はゴーレムを動かす術式だから、そんなのを刻まれても平気なヒトなんてそうそう居ないのが真実だからね。
「ちゃんとした下地が無いヤツは元からムリだよ。それに魔法力が薄いと抵抗出来ないから、黄橙クラスの魔法力と各種制御系魔法技術を併せ持ってるロベールさんみたいなヒトじゃないと脳天パーになっちゃう。アンジェ辺りじゃ間違い無く駄目だね」
「そいつは残念でやすね。戦場に連れて行ける姫サンの愛人としちゃ、イイ出来のヤツだと思ったんですがねぇ」
「勘弁してよ……」
うひひと笑うロベールさんにゲッソリ。
何だかアンジェを押してくるなと思ったら、そう言う意味でしたか。
どうせレティのヤツが暗躍してるのに違いないとは思えど、何時の間にやら周囲に同性愛者認定されてるのはちょっとツラい。
そう言う目で見られたら、リーズやアリーまでもが「そう」だと思われちゃうし、その内ちゃんと「違います!」と言わなくちゃ駄目だろうなぁ。
「まあ馬鹿な話はともかく、未だ暫くの間はコイツを使ってアイツらと修行三昧出来るってのは朗報でさぁ。ちょいと前なら、あんなのは見ただけでブルッちまって、まともに相手も出来やせんでしたが、今じゃ丁度イイ稽古相手でやすし」
「あのコ達は元々強かったけど、七日間寝た後からは更にバカ強く成っちゃったんだよね。そんなのとまともにヤり合えるのは凄い事だと思うよ」
こっちのムスッとした表情を読んだのか、話題を切り替えてきたロベールさんの口から出た「アイツら」と言うのは、特殊な形で実体化させたクーちゃんとピーちゃんの事だ。
凶悪で禍々しい外見に負けず劣らずバカが付く程強いので、ロベールさんの稽古相手をして貰ってるのですよ。
「いやいや! まともになんて相手しちゃ貰えてやせんよ。ただ言っちまえばアイツらだって同門でやすから、こっちにすりゃ兄弟子に胸を貸して貰ってる様なモノなんで、そんなの得難い機会でやすからね」
「えーっ。ロベールさんってワタシと試合するの極端に避けるじゃん! それなのにあのコ達ならイイんだ?」
「い、いや、姫サンは、何て言いやすか、少し手加減が無さ過ぎなんで……ハハハッ」
ちっ。
ここで「イイでやすねぇ」と言ってくれれば、ちょっと揉んであげようかと思ったのに、乾いた笑いと共に視線を泳がせるロベールさんにガックリ。
どうせワタシは容赦が無いサド女ですよーだ。
でもそんな風に言われちゃうと、無理矢理にでも一戦ヤらないと気が済まなくなっちゃうよ?
「言っておくけど、ししょー相手の稽古なんてあんなモノじゃないよ? 毎回毎回走馬灯とかお星様が見えちゃってたしさぁ」
「そりゃ剣鬼サマのシゴキがキッツいのは想像出来やすが、姫サンの場合はその外見とのギャップが凄いでやすから……」
「あっ。噂をすれば何とやらで、片方戻って来たみたいだよ」
探知魔法もどきにこっちに向かって高速で移動する物体が映ったので、視線どころか顔まで明後日を向き始めたロベールさんの話を遮る。
傍らで蹲ってたニャンコがむっくりと起き上がるのを手で制し、こっちも残りのサラダを口に突っ込んで食事を終了させた。
むしゃむしゃと口を動かしながら立ち上がると、木々の向こうに八フィート(約2.4m)はある漆黒の全身甲冑が走って来るのを見つけて、向かい入れの為にテーブルから数歩離れる。
「あんな重量物が高速で走ってるのに、地響きどころかまともな足音すらしねえって、どんだけバケモンなんだよ……」
テーブルの向こうで同じ様に木々の向こうを見てるロベールさんが呆れたように呟いた。
うんうん。あんなデカブツが走ってるのに音がほとんどしないなんて、何だかホント、現実感の薄い光景だよね。
「大きな魔法こそ使えないけど、さっきロベールさんが言った通り、今のあのコ達はワタシの技のほとんどが使えるからだよ。鎧の音だって小ワザで消してるんだしさ」
「そんな凄ワザが使える騎士なんて、アッシでも数人しか知りませんぜ?」
「そうかなぁ。レティだってそれ位は朝メシ前だと思うけど」
「アネさんはあの吸血鬼デボラとタメを張るおヒトじゃないですか。基準が高すぎでやすよ!」
やってられないポーズで苦笑したロベールさんを尻目に、たったかたーと走り寄って来た全身甲冑を笑顔で出迎える。
「お帰りー。随分頑張ってたみたいだけど、びいちゃんは未だ帰って来ないの?」
「ぐぎぃ……」
言葉を掛けると、普通人なら見ただけで卒倒しそうなド迫力の全身甲冑が、頭を掻いて申し訳無さそうな感じでストレージ魔道具の腕輪を渡して来た。
面白いなーと思いつつ、受け取って魔法眼で中を確かめれば、中には血抜き済みのワーウルフが十体見える。
うわっ。コレ、この腕輪のキャパぎりぎりじゃないの。
「もしかして、これが一杯になっちゃったから戻って来たの?」
「ぐぎゅっ」
ウンウンと肯きながらも「ごめんなさい」と、その場で座り込んで頭を下げた甲冑の兜をナデナデする。
「別にイイけど、ムリは禁物だよ? まだまだ機会は幾らでもあるんだからさ」
兜に特徴的な二本角を持つこの全身甲冑の中身はクーちゃんだ。
ピーちゃんの方は一本角なので、それで個体を区別してるのですよ。
ついでに他に実体化したコ達と区別する為、呼び名も濁点呼びする事にしてる。
「いやー、そんなどう見てもヤバそうなヤツがゴメンナサイしてるのは違和感がハンパ無いっすねぇ」
お行儀良くちんまりと正座して、反省のポーズをするぐうちゃんにロベールさんが呆れた声を上げた。
「まあねぇ。でも中身は可愛いクーちゃんなんだからしょうが無いよ」
「そいつは姫サンから聞いてるんで、判っちゃいるんでやすが……」
「ぐぎゅぎゅっ!」
多分笑おうとしたんだろうロベールさんが、ぐうちゃんの抗議にウッと押し黙ってこっちが笑う。
まあ凄い迫力だからね、ぐうちゃんは。
魔山を単独行する時のワタシの従騎士兼護衛役として作ったこのコ達の外装はモロに戦闘特化してるので、見た目がヤバいのは当然な上、中身は更に怖いのだ。
何しろ彼らの骨格はコーネリアさんの遺物であるゴーレム骨格だから凄まじい迄の耐久力があるし、それを駆動するのは刻んだ極悪魔法陣がもたらすワタシの身体制御魔法と来た。
更に極悪魔法陣から渡されるワタシ由来の体術から各種魔法小ワザまで使うと来れば、もう言わずもがなだよね。
ロベールさんが兄弟子扱いしてるのも、劣化コピーとは言え彼らがブーツォ辺境流の剣術を使うからだし、例えハイオーガを相手にしても一蹴出来ると思う。
「うっ。すいやせん、ぐうアニさん」
今度はロベールさんが頭を掻いたら、ウンウンと肯くぐうちゃんを見て更に笑っちゃう。
なんだかなぁ。
この姿になると、クーちゃんもピーちゃんも妙に人間臭くなるから不思議。
骨格と一体化してるので鎧は脱げないけれど、その下の姿は人間とは似ても似つかない化け物なのに謎だ。
彼らをこうして使う切っ掛けになったある突発的な事件の時、こっちは中身の姿を見ちゃってるから、余計にそんな気がするんだよね。
あの時は本当にビックリした。
コーネリアさんの遺物を駆使してゴーレム作成に頑張ってた頃、遺物である骨組みの組み立てより先に進めなくて悩んでたら、突然『ぐぎゅう!』と言う元気な声と共にワーウルフもビックリな化け物が突っ立ってたんだからさ。
誰だっておしっこチビッちゃう位にビビると思うわ。
まあその時は態度や仕草から、すぐにそれがクーちゃんだと判ってホッとしたんだけど、どうやら放置状態だった骨格を寄り代にして実体化したらしい事が判った時に閃いてね。
その後にそれを基にして様々な実験に付き合って貰った結果、遺物骨格+全身鎧と言うクーちゃんとピーちゃんそれぞれ専用の実体化ツールが出来たので、彼らをゴーレム代わりに使う事にしたのですよ。
しかもこの状態になると大嫌いな魔物共をヤり捲れるせいか、二人(?)共物凄く喜ぶ。
前にアレの町へ行く道中で実験した時なんて、あまりのはしゃぎっぷりに抑えるのが大変だったもんな。
ただ鎧作成の際に色々とはっちゃけちゃった結果、おいそれとは人前に出せない外見になっちゃったのは失敗だったと思うけど……。
「ぐぎゅぅぅぅ」
「ん? どうかしたの?」
ロベールさんとのやり取りに笑ってると、座り込んだまま何かをやってるぐうちゃんにズボンの裾を掴まれた。
何かと思って下を見れば、なんとぐうちゃんが甲冑の指先で地面に何か書いてる!
『あっち。いっぱい。ある』
「げっ! ぐうちゃんが文字を書いたぁ!?」
たどたどしく見えるけれど、どう見ても文字にしか見えないソレに超ビックリ!
今の今までそんな事全然無かったのに、ぐうちゃんに一体何が起こったのか?
「ぐ、ぐうちゃんは文字が書けるの?」
呆然としながらも訊いてみると、ぐうちゃんがウンウンと肯きながらまた地面に指を走らせる。
『やったら。できた』
「マジで!? すっごーい!」
思わず抱き付いて、兜の面貌にチューしちゃう。
だってだって、これでこれからは今までよりずっとちゃんとした意思の疎通が出来るんだもんっ。
ニャンコやキーちゃんとの間も通訳して貰えるだろうし、夢が広がっちゃうよね!
今宵もこの辺りまでで終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、ありがとう御座いました。