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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
マリーランス
194/221

190話

土日に更新する予定が、何故か最近は一日ズレる事が当たり前になりつつあるようで申し訳ないです。

しかもまたクソ長いです。



「そう言えばデボラさんやアリーが此処に居るのはどうしてなの?」


 カスパー・オストマーク関連の話に取り敢えずの結論を出し、ワタシは次なる質問に移った。

 政治絡みの話はそもそも傀儡に過ぎない自分の出る幕じゃ無い。

 そう言う事はこんなワタシの臣下になってまで地封伯身分を目指したい閣下に全てお任せだ。


「デボラ殿は姫様の主治医ですな。またこの要塞を単独で抑えられる強者つわものですので、暫定的なここの責任者と言う形でもあります」


 ふうむ。

 どうやらデボラさんはワタシが何日も寝コケてたので、医者として呼ばれた様だ。

 何しろ魔法医だし、あんな結界めいた防御陣を潜れたのも彼女だけだったって事みたいだね。

 ニャンコ達もワタシの隷属紋を背負ってるデボラさんなら攻撃しなかっただろうしさ。

 でも寝てる間に妙な仕掛けとかされてそうでちょっとコワいわ。

 顔を見れば、両手を広げて「何もしてませんよ」と言った仕草を返すデボラさんだけど、イマイチ信用が出来無い。

 でも、ちょっとイイ事を思い付いちゃった。


「じゃあ何時ぞやの知行は此処にするから、そのままデボラさんを此処の責任者にしてくれる?」

「此処は実質お前が取ったんだからこっちに文句は無え。まあ第五軍ウチの支部は置かせて貰うけどな」

「私は構いませんよ。都市部に行く事を考えたらズンとマシですからね」


 思い付きを口にしながらおっさんとデボラさんの顔を交互に見れば、二人から結構な好感触が返って来てニマッとする。

 これから色々あるだろうマリーランス城内やその周辺に行くのはイヤなので、例え何かあった場合でも、出来れば此処に顔を出すだけに留めたいからね。

 ついでにこれからの旅に付いて来られちゃうと困るデボラさんも封じられるし、一石二鳥だ。

 あの実験動物を見る様な目で始終監視されたら、マジでストレスがハンパ無いもんな。


「姫様の御指示でありますなら仰せの通りに」

 

 更にうやうやしいお言葉と共に閣下も肯いてくれたので、これでこの件はケリだ。


「じゃあそれで決定だね。次はアリーなんだけど……」

「アリー殿はマリーランスの行政官を任せたルロンの名代です。あれで実務家としては信頼出来る優秀な男なのですよ」

「総領姫な娘を馬鹿共に攫われちゃったのに?」


 しかし次にアリーの件を聞くと、閣下から何だか妙な話が出て来て返答に困る。

 閣下ってばもしかして、そこらのクソ貴族みたいに周囲を知人で埋めようとしてませんか?


「ルロンは私の元部下でして、丁度良いとランスの闇部分を調査させておりました。討伐士協会の支局を押さえられたのは彼が集めた証拠が元なのです。一旦総裁殿下と会って話す様に頼んだのも私なのですが、数日で戻って来る筈と預けた相手が悪かった様で……」

「あ、その話の裏ってそう言う事だったんだ。それなら納得出来るよ」


 少し困った様な顔で話す閣下の言葉に納得して肯く。

 おじ様達がランス支局をああも簡単に抑えられた理由は持ってた逮捕状(多分複数人分)にあるとは思ってたけれど、それを発行させる為の証拠固めをアリーのお父さんがやってたとなれば、その行動にも納得が行くもんね。

 バカなお飾り代官の振りをして仕事に勤しんでたのだろうし、アリーの誘拐は突発事案だったんだろう。

 まさかスタンピード討伐戦中に支局長クラスがそんな暴挙に出るなんて、普通なら誰も思わないしさ。


「有難う御座います。ただ誘拐の件は西聖王国王宮の意思にかこつけたラヴランとやらの勝手な計画だった様です。なんでも年少の美少女に目が無く、前々から機会を伺っていたとの事でして」

「さいてーな話だね! 運良くワタシが助けられて良かったよ、ホント」

「結局私は我が侭で父の足を引っ張っていた様なのです。馬鹿な子供だと笑ってくださいませ……」


 ロリペド野郎の最悪な計画にムカッと来て拳を振り上げると、アリーが申し訳無さそうな顔で下を向いた。

 ぬう、不味い。

 アリーを責める積りなんて毛程も無いのに、これじゃ苛めてるみたいだよ。

 どうしよう?


「ア、アリーがしょげる必要は無いよ。悪いのは異常性欲者! これからはそう言う変態にも気を付けるようにすればイイだけだしっ」

「お姉さま……」

「そうだ! 今夜は此処に泊まって行かない? また一緒に遊んだり寝たりしようよ」


 とにかく可愛い妹が悲しむ姿なんて見てられないと、無い知恵を絞って誤魔化しに走ってみる。

 大体、アリーは未だ十二歳(しかも数えだ)なんだから、あの程度の行動は責められるべきじゃ無い。

 それに経験則の薄い子供の隙を突いて攫うなんて、どう考えても攫った方が百パーセント悪いに決まってるしねっ。


「ハイ! お姉さまありがとうございます!」


 すると気持ちが通じたのか、アリーが可愛い声で元気良くお返事してくれて助かる。

 良かった!

 しかも今夜一緒に遊ぶ約束まで出来ちゃったし、災い転じてなんとやらって感じですよ!


「なあ、そっち系の女って赤の他人なのに姉妹を名乗る事が多いよな?」

「そうでやすね。どっちかと言えば受けが妹で攻めが姉って感じなのが普通ですぜ」


 おっと。

 振って湧いたお楽しみに喜んでたら、何やら妙なヒソヒソ話が聞こえて来ちゃいましたよ?

 なんだかなぁ。

 お呼びじゃ無いんだから引っ込んでればいいのに、ホントに困ったおっさん達だ。


「はいソコ! 何を下らない話をこそこそやってるのかね!?」

「あ、ああ。まあ気にしないでくれや。俺は別にお前が行く先々でソレっぽい『オトモダチ』を作ってるなんて思ってないからなっ」

「思いっきり言ってるでしょ!? ワタシとアリーはそんな不純な関係じゃ無いのっ。もっと純粋な心の姉妹みたいな繋がりなんだから、変なチャチャ入れないでよね!」

「お姉さまったら……」


 ググッと握り締めた拳を振り上げ、即座に声の主であるおっさんとロベールさんに文句を言ってやる。

 自分だけなら気にならないけれど、そんな話は純粋無垢な年少少女の前でする様な話じゃ無いよね?

 ほら、純情可憐なアリーが真っ赤になって俯いちゃったじゃないの!


「お、おう。悪かったな」

「すいやせん」


 頭を掻き掻き詫び言を言う二人にやってられないポーズで応えて、更に妖気を発し始めたレティにも睨みを入れて溜め息を吐く。

 今までかなり真剣な話をしてた筈なのに、どうしてこうなるのかな。

 閣下やおじ様もヘンな顔をするだけで注意もしないし、結局類は友を呼ぶってヤツなのでしょうか?


「名代と言えば、ベルタはやっぱりサラの名代なの?」

「それもありますが、ベルタ嬢はマリーランスにあるゴットリープ商会南部連合地域本部の隠れた代表でもあります」

「へぇ。凄い大出世だねぇ」

「リーゼロッテ様には単なる側仕え身分の者に過分な御厚情とは申し上げたのですが、様々な事柄の背景を裏側まで知る者は少ないとの事で、致し方無く拝命させて頂きました。ちなみにわたくしの目的はマリー様に頓挫したままの大規模開発案件の処理と新事業に関するお話をさせて頂く事です」


 呆れながらも更に話題を変えてやると、閣下から面白い答えが返って来て、こっちの問いにベルタが応じる様に答えた。

 ほうほう。

 ベルタさんってば相変わらずサラにこき使われちゃってるワケですな。

 そろそろ仮成人だし、その案件に目鼻が付いたら一気に士爵なんて事になるんじゃないのかな?


「それって西聖王国の宮廷に潰され掛かってた例の話?」

「はい。新たに予算も付きましたし、新事業での収益もありますから、わたくしに御任せ頂ければ都市連合に頼らずに都市同盟単体でスタンピードの復旧から城壁拡大まで行えます。そう言ったお話をさせて頂こうと思って参りました」

「ふうん。言ってる事は判るけどさ、そのテは実務者同士が膝詰めで話し合った方がイイんじゃない?」

「無論そうですが、特に新事業に関しては大まかな全体像と背景を先ずマリー様にお話して御納得頂こうと思うのです」

「ううーん。なんだか面倒臭そうな話だねぇ」

「簡単に言うとな、G商会の新事業ってのは俺が指揮権を持たされちまった支部や支局の収益業務を丸投げする話だ」

「ほほう?」


 ベルタらしい堅そうな話にウンザリしかけてたら、何故かおっさんがあまり関係無さそうな話で割って入って来た。

 一体どう言う事?


「総裁殿下は協会の収益業務を外部委託して腐敗の根源を摘み、誰も責めぬ形で平和裏に改革を進めようとされておりました。そこで私達G商会に話が来た所を、リーゼロッテ様が南部連合地域のみ引き受けられたと言う事です」

「うわぁ。ソレ何だかすっごく嫌ぁな裏がありそうな話だね」


 ところが聞く姿勢になった途端、ベルタが立て板に水を流す様にイヤな話をして来てウンザリ。

 要は討伐士協会の寄生虫潰しをやるって話だよね、ソレ?

 このテの話はとてもデリケートで、同時に危ない。

 どんなに「責めない」と言ったって、普通汚職なんてバレたら自分の命が危うくなるので、寄生虫共は必死になって実行者や命令権を持つヤツを潰しに来るからだ。

 だからそう言う事は曖昧な中でこっそりと進めて行くのがセオリーなんだよね。

 そうじゃないと関係者はあっと言う間に闇から闇に葬られて、当の寄生虫共は陰に隠れちゃう。

 随分前、マルシルで王サマと腹黒大将ちちうえが大規模な寄生虫狩りをやった時だって、派閥間の睨み合いに紛れて連中の分断や孤立化を図り、何年も掛けて徐々に追い詰めて行った。

 組めば国内をほぼ掌握出来るほどの力を持つあのヒト達ですら、そこまでしないと難しい話なんだよ。

 それなのにそんな直接的なやりかたで事を進めてるのなら、総裁殿下は無能としか言い様が無い。


「まさかと思うけど、ベルタは総責任者に祭り上げられちゃってるの?」

「いえ、責任者はG商会マリーランス支部長です。それにそもそもリーゼロッテ様はこれを単なる規制緩和のテストケースと位置付け、数多ある商取引の一つとされておりますので、御懸念される様な事は御座いません」

「単なる一商人の立場ってコトかぁ。まあワタシなんかに言われるまでも無く、もう支部長サンの周囲は固めてあるんだろうけどさ」

「おいおい! なんでそんな話になるんだよ!?」


 少し心配になってベルタに確認してたら、おっさんがチャチャを入れて来て疲れる。

 相変わらず脳筋なのはイイけど、おっさんだって他人事じゃ無いってのに、その態度は無いよなぁ。


「恐らく総裁殿下が襲われたのはこの件のせいだよ。ちなみに次に狙われるのはおっさんだから気をつけた方がイイね」

「なんだソレ? なんでグランツのじい様や俺がそんな事で危なくならなきゃいけないんだよ!?」

「ベルタは下っ端の立場だから平気みたいだけど、この件に付いて命令権を持つ奴は狙われるよ。マルコさん、おっさんに説明してあげて」


 立ち上がって吠え出したおっさんが面倒臭いので、マルコさんに全投げして溜め息を吐く。

 恐らくサラのヤツは、リプロンに駐留する第二軍が『総裁命令』で長逗留になるだろうと踏んでこの話を仕掛けたんだろうと思う。

 そうして切り離された限定された地域で、更に『総裁の指示』での試験的な試みと来れば、向こうだってわざわざ危ない橋を渡ってまで替えの効く一商人を消しに掛かる事は無い。

 サラはそう言う立場に徹する事で狙われ役を総裁殿下に一本化させたんだろうね。

 だから総裁殿下は闇から闇に葬られちゃったんだな。

(いや未だ死んだと決定したワケじゃないけどさ)


「くっそ、そう言う事かよ!? デュバルがグランツのじい様をヤったってワケか!」


 ウンザリしながら頭の中を整理してると、マルコさんの説明を聞いたおっさんがまた立ち上がって吼えた。


「うわぁ。寄生虫共の大将って副総裁のデュバルさんなんだ?」

「ああ、そうだ。あのクソ野郎、調子に乗りやがって……」


 ささっと目配せをしてマルコさんにおっさんを抑えて貰いながら盛大な溜め息を吐く。

 だって国家もビックリな大所帯組織で、そのナンバーツーが組織を食い物にする様な事をやってたらマジでシャレにならない。

 国で言えば宰相がせっせと国家予算を懐に入れてる様なモノだからね。

 そりゃ総裁殿下も何とかしなきゃと思うよな。


「まさかと思うけど、討伐士協会の経営が実質赤字で各国の拠出金頼みな状態ってそのせいなんじゃ?」

「仰る通りです。協会事務方のトップであるデュバル副総裁の汚職は多岐に及んでおりまして、例えば『食肉価格の安定』と言う看板を掲げた政策では素体価格を弄って差額をせしめ、身内の討伐軍が駆った素体も事実上タダ同然の値で子飼いの商会に卸させています。この様な事を複数、それも全域でやられれば、如何に討伐士協会とは言え赤字にもなりましょう」


 オヒオヒ。

 目線で質問を振ったベルタの答えにウンザリを通り越してゲンナリとなる。

 一体デュバルと西聖王国王宮は汚職ソレでどれだけ稼いでるのだろう?

 そもそも大規模にやればやるほど儲かると言われるのが魔物討伐であり、マルシル南部なんて限られた地域でも、そこで討伐士協会の代役を務めてる外人部隊エトランジェとその元締めである腹黒大将ちちうえが大金持ちなのはそのせいだ。

 一般討伐士達を入れれば更にその数十倍の規模になる討伐士協会の儲け分なんて検討も付かない。


「そりゃ素体商会が流行るワケだ。でもそんなのどうして表面化しないの?」

「先ずは手口が巧妙である事が原因です。実際に協会に素体を売られていたマリー様も違和感は少なかったのではありませんか?」

「そう言われればそうかも……」


 ベルタに言われてアレの町での買取を思い出してみる。

 言われてみれば、ちょっと安めだなーと思ったくらいで、別に不審には思わなかった。

 確かに肉の買取値段は安かったけれど、それだって食肉の生産拠点である田舎だからしょうがないと言われれば納得するレベルだったもんな。


「それだけやり方が巧妙だとお考え下さい。そして次に、この汚職に関わる人間が前代未聞の数だと言う問題があります。デュバルと西聖王国王宮は西聖王国国内からナンヌ、都市連合、東聖王国に渡る広範な地域において、第三軍団長を筆頭に協会内部の多くの幹部達や支局長達、果ては幾つかの魔法士協会支局までをも抱きこんで、膨大な人数に様々な汚職をさせておるのです」


 説明を頼んでおきながら、無表情で淡々と話すベルタの話に物凄い精神的な疲れが襲って来て声が出ない。

 あったまが痛いわぁ。

 ついでにそこまで大規模な話なら、間違い無く総裁殿下は亡くなっちゃったんだろうとも思う。

 どんなヤツにでも隙は有るのに、それを知ってる身内がそこを組織的かつ計画的に突いて来るんだから、どれ程強くても無意味だ。

 全く惜しい縫いぐるみサンを亡くしてしまいましたな。

 合掌……。


「成る程。みんなでやれば怖くないって事だね。そんなのが役職者の多数を占めたら誰も逆らえないしさ。でもそうなると、総額は凄い額になるんじゃない?」


 しかし草葉の陰にお引越ししてしまわれた御方の事はどうあれ、こっちの話はこっちの話だ。

 更に続きを催促してみると、壜底の様なブ厚い伊達眼鏡の向こうでベルタの目がキラーンと光った。


「魔石まで含めれば素体の件だけでも年に十億ジュール(十億=約二千億円)単位の計算になります。他を含めた試算は未だやっておりませんが、本来黒字に成る筈の討伐士協会の経営が各国の援助金頼みとなっている問題の元凶は間違い無くこれでしょう」

「そんなになるのかよ!? なんてこった……」


 ベルタの回答に頭を抱えて唸ったおっさんを冷ややかに見る。

 あんたら脳筋共が組織運営を貴族あほう共に丸投げした結果がコレだよ。

 そのツケが回って来るのはワタシ達次の世代なんだから、本当に疲れちゃうよな。

 少しは反省して欲しいわ。


「新事業の背景とやらは判ったよ。ありがとう。で、それがこのワタシにどう関係してくるワケ?」


 ざまあ見ろと思ったものの、ヨシヨシとマルコさんに頭を撫でられるおっさんのリア充っぷりにムッとして、話を強引に終わらせる。

 ちっ。リアルが充実してらっしゃる方々はイイよな。

 でもそう言うのは何処か他所でやって欲しいわ。


「それなのですが、一言で言うとレティ嬢の商会との今後の取引きを見直させて頂きたいのです」

「ほほう?」

「G商会が協会の支部支局から直接素体を引き受けるとなれば、今後はこの地での素体引き取り値段が上がります。そしてそれは他の地域でも似た様な事になるでしょう。そうなりますと素体商会の旨みが激減しますよね?」

「ああ、うん。そうかも知れないけど、こっちはそう言う理由で取引きしてるワケじゃないから、出来れば現状維持をお願いしたいわ」


 成る程ね、そう来たか。

 南部連合地域で協会の素体引取り価格が上がれば、他地域も追従させないと素体関連の物流がリードされちゃうし、外部に汚職がバレバレになっちゃう可能性も上がるからそうなるわな。

 でもこっちは元から協会の値付けと同額でもイイんだから問題は無い。


「勿論それは存じております。が、このままですとこちらとの取引が怪しくなりそうですので、そちらから流される素体にプレミアを付けたいのです。もし他所に鞍替えされてしまいますと、リーゼロッテ様に叱られてしまいますし……」

「そりゃサラの側近のベルタからすればそうかも知れないけど、今までだって結構高めの値段付けてたでしょ?」


 むう?

 伊達眼鏡の奥でチカチカと目を光らせながら話を進めるベルタの話に疑問が湧く。

 こんな感じだと、ベルタはそろそろ取り澄ました外面を捨てて来そうな雰囲気だ。

 となれば、どうやらコイツの本題は此処と言う事になる。

 と言っても、元からかなり値付けの良かった向こうの引き取り価格を更に引き上げる理由は判らないよなぁ。


「正直に申しまして、わたくしはマリー様やレティ嬢の実力を舐めておりました! 今までもそちらから回される素体の仕切値は大手独立騎士団と同レベルだったのですが、マリー様の手掛けられた素体は非常に綺麗な状態で価値が高く、またそれはハイオークやオーガと言った難敵でも同様ですから、既にこちらの旨みが期待値を大幅に上回っている状態なのです! 特に先頃のオークの様に数まで揃えて頂きますと尚更ですっ。あの数と質には本当に驚きました!」

「へ、へえ。アレってかなりの商いになったんだ……」


 ちょっと疑問を口にしたら、突然ガバッと身を乗り出して捲くし立てて来たベルタにビックリ。

 本調子になって来やがったなとは思ってたものの、こうまで突然だと引くわぁ。


「はいっ、正にボロ儲けで御座いました! あの様な素晴しい品を数を伴って入れて頂けるならば、例えリーゼロッテ様の御友人でなくても、特別扱いは当然で御座いましょう!」

「そ、そうなんだ」


 キラーンと目を光らせ、ついでにキラキラと伊達眼鏡まで光らせながら語るベルタに引き攣る。

 相変わらず儲け話になると剣幕が凄い。

 でもこのって、これが平常運転なんだよな。

 小柄で小動物っぽい雰囲気の外見を考えたら、ホントに外見詐欺だわ。


「そう言えば、こちらの情報に寄りますとマリー様はまだ大量の素体をお持ちだとか!?」


 心の中で溜め息を吐いてたら、遂に立ち上がったベルタが大きな声を出した。

 ああ成る程。

 コイツの本当の狙いはソレかぁ。


「え? あ、ああ、ウン。持ってるけど……」


 ベルタが何処で知ったのかは知らないけれど、魔物ドラゴンを倒した後の残り討伐で獲ったワニ野郎の素体は未だ売ってないんだよね。

 誰にも言われなかったからずっと忘れてたままで、ストレージもどきの中で眠ったままなのだ。

 でも大量にあるのでコレを出したらまた魔力症が出ちゃいそうだから、これに手を付ける前にまた岩石を幾つか放り込んでおかないと不味い。


「何を如何ほどお持ちなので御座いましょうか?」

「わ、ワニ野郎が三百はある、かな?」

「うひっ!」


 ぶほっ。

 突然奇声を発して仰け反ったベルタにビックリ!

 うーみゅ。

 このは本当に変わらんなぁ。

 本性を知ってるワタシやレティの前だから遠慮が無いんだろうけれど、見た目だけはモテ系の可愛い顔立ちをしているのに、中身がこれじゃ男っ気が無いのも当然だわ。


「し、失礼致しました。実はこの度のスタンピードの魔物に高価なケイマンが大量に混じっている事が判明して以来、各地で一気に需要が高まりましてね」

「はぁ」

「しかしデュバルめに繋がる商会共が軒並み売り惜しみをしておりまして、本来ならば大量に供給されて値が下がる筈のケイマン皮が逆に高騰しておりまして……」


 御伽噺に出て来るアンデッドの様に背筋だけでゆっくりと上体を戻したベルタが、今度は「口惜しやぁぁぁ!」とでも叫び出しそうな仕草でギュッと両拳を握り締めた。

 いや、だからそろそろ多少は恰好を付けないと、周りがドン引きだから辞めなさいって。


「フッフッフ。しかしそんな市場に最高品質のケイマン皮が一気に三百匹分も流れたらどうなるか? こちらは大儲けであちらは大混乱確実ですよっ。しかもマリー様の手掛けられた御品ならば最早勝ったも同然! 返すつるぎでヤツラの品も買い叩き捲くってやるわっ!」


 こっちの心配も何処吹く風で「ハァーッ、ハッハッハー!」と腰に手を当てて高笑いするベルタに超ガックリ。

 ホント、コイツはこう言うヤツだと判っていても、それまでとの酷いギャップに口が開いちゃうわ。


「お、お姉さま……」

「大丈夫だよ。コイツは元からこう言うヤツだからさ」


 ベルタの酷い変わり様のせいで、恐怖に顔を引き攣らせたアリーが縋る様にこっちを見るのを宥める。

 いやぁ、気持ちは痛い位に良く判るよ。

 可愛い系の顔に切れる頭脳を併せ持つ無表情少女だと思ったら、まさかのお笑い系自爆少女の降臨だもんな。

 誰だってドン引いて当たり前だ。


「……大変失礼致しました。ではそれらを全て当方にお譲り頂くと言う事で宜しいですか?」


 誰もが気でも違ったかと思うだろう状況に、慣れてるワタシとレティ以外の全員がドン引きする中、一頻り笑った後でベルタがこちらを向いた。


「多少準備が要るけど、そっちさえ良ければこっちは今日この後からでも良いよ」

「有り難き幸せ! 必ずやデュバルめの手下共を懲らしめてみせましょう!」


 いや、誰もそんな事は頼んで無いから、そいつらの恨みは自分独りで被ってね?

 勘弁してくれと思いながら、仕方無く詳細を詰める話に入る。

 本当にコレさえ無けりゃ、顔も姿も可愛いくて良いなのに、本当に残念なヤツだよ。



本日もこの辺で終わりにさせて頂きたく思います。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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