187話
閑話を先に投稿する予定でしたが、色々あって本編を先に投稿させて頂きます。
すみませんです。
「キキッ」
「ほへ?」
目が覚めると薄暗闇の中、目の前で可愛らしいモフ系のコがワタシの顔を覗き込んでいた。
「ワタシはマリーだよ。キミのお名前は何て言うの?」
「キー」
「そっかぁ、キーちゃんって言うのかぁ」
可愛いお返事に気を良くしてイタチっぽいお顔にチュッと口付けすると、キーちゃんもペロっとワタシを舐めてくれた。
すっごく可愛い!
しかもよしよーしと、片手で小さな頭をナデナデしたら何とも言えない触り心地がして至福っ。
うんみゅ。起き抜けからこんな可愛いハプニングがあるなんてツいてるわぁ。
「いや、ちょっと待て」
未だ覚醒しない頭でボーッとしつつ、キーちゃんを片手に抱きながらむっくりと上半身を起こす。
辺りを見回せば此処は何やらデカい倉庫の中の様で、一つだけ開いてる高窓から月明かりが差し込んでた。
あれ。
ここって何処だったっけ?
「にぃやん」
「キュッ!」
「ピピッ!」
風景に見覚えが無くて首を捻ってると、ニャンコと大量のクーちゃん&ピーちゃんがわらわらと寄って来た。
思わずみんなを撫で捲りつつ沈思黙考。
何だか長い夢を見てたような感じで現実感が今一つだ。
ワタシって、寝る前は何をやってたんだっけ……。
「そ、そう言えば!」
しかしボーッと考えてる内に目が覚めてきたのか、段々と寝る前の事が頭に浮かび上がって来た。
そうだよ。
確かあのボーリー氏と一騎打ちした後、樹を収納してマルコさん達を呼んで、色々後始末をやってからワンちゃん達を帰らせて……。
「魔力症がマジになりそうだったから、手近な倉庫で対処用の魔法陣を想写し捲くって寝ちゃったんだ」
うはぁ。
自分でやっておきながら、余りの間抜けさ加減にガックリ。
幾ら占領後の事とは言え、敵地で無防備に寝コケるなんて普通なら間抜けの一言じゃ済まない。
折角起こした上半身の力が抜け、再び床に寝転んで溜め息を吐く。
「なんだかなぁ」
とは言え、何時までもこのまま寝てる訳にも行かないので、ワタシは仕方無く現状の確認に入った。
上半身を起こして座り込めば、お尻の下は石床に毛布が一枚あるだけなのに妙に暖かい。
恐らく寝る前に適温の熱を集める魔法を掛けたと思われる。
毛布を除けて見れば、やはり石床には三つの魔力症対処魔法陣とそれらから魔力供給される結界やら防御やら幾つもの魔法陣が想写されてた。
流石ワタシと思うものの、これはちょっとやり過ぎだよな。
灼熱地獄の魔法陣まで励起されてるし、コレじゃ今まで誰も自分に近寄れなかったんじゃないのかね。
「キッ」
おおう!
周りの人達大迷惑なキッツい魔法の体制にダウナーな気分になってると、寝転ぶ時に放したキーちゃんが首に飛び付いて来た。
うむ。可愛い。
ちょっと元気が出たわ。
再度よしよーしと可愛い頭を撫でながら、そう言えばこのコって何者なのかなと考える。
普通の動物は当然として、クーちゃんピーちゃん以外には精霊にすら逃げられ捲くって来たこのワタシに懐くコがいると言うのは、良く考えて見れば只事ではない。
「キーちゃんって、もしかして雷精?」
「キキッ!」
思い付いた事を言うと、それは正解の様でキーちゃんがウンウンと肯いてくれた。
成る程ねっ。
白剣のお陰で雷精とは縁が出来たっぽいもんな。
苦節十数年、やっと第三の精霊友達が出来ましたよ!
でも雷精がこんなに可愛いなんて思わなかったわぁ。
「キッキキ!」
イタチもどきなキーちゃんの正体が判って一安心してたら、何やら彼(彼女?)がクーちゃん達と話し掛けた。
みんな可愛いなーと思ってほっこりしながら見ていると、一杯居た彼(彼女?)らがスウッと消えて一人ずつに成って行く。
「えっと、これはどう言う事なの?」
「キィ」
思わず声に出して訊けば、即答してくれたらしいキーちゃんだけど、生憎こっちは精霊語もイタチ語もサッパリ判らない。
ぬう。ちょっと謎だ……。
だからと言って他のコに訊いても同じ事だろうしねぇ。
「ちょっと待てよ!?」
しかし悩んだのも束の間、ワタシは衝撃的な事に思い当たるとその場で再び立ち上がった。
「大量のクーちゃん達って、思い出してみればあの時と一緒じゃんか……」
そうだ。
寝てる間にクーちゃんが周りにわんさか居る状況は例の幼女変身の時と全く同じだ。
あの時みたいに瀕死の重症ではないけれど、状況がソックリと言うのはちょっと怖い。
むう。
これはちょっと魔法分身体を呼んで確認しないと不味いみたいですな。
「ぐわっ!?」
しかしイヤな予感と共に魔法分身体を呼んだら超ビックリ!
現れたソレはもはや球状である事すら辞めちゃって、縦に酷く間延びした円柱状の形になってた。
しかもコレ、元から比べて体積が優に三倍くらいありそうなんだけど……。
「じょ、冗談じゃないよ!?」
まだ完全に目が覚めていないのか、イマイチ現実感が湧かない中、それでも事のヤバさにスーッと血の気が引いていくのが判る。
こ、こんなのどうやって対処すればイイんだ?
「キッ」
ん?
ところがこの突然やって来た非常事態に、颯爽と「任せろ!」と言った感じで胸を張る強者が現れてくれた。
なんとキーちゃんだ。
「キーちゃんはコレを独りで押さえ込めるの?」
「キキッ」
藁をも縋る気持ちで聞いてみると、再度同じ様な動作をするキーちゃんに驚く。
ら、雷精って、そんな事が出来るの?
即座に腕を組んで考え込む。
そう言えば雷撃の魔法に限らず、雷気絡みの魔法は比較的大きな魔法力が必要だ。
となれば、もしかしたら雷精は大きな魔法力の制御が得意なのかも知れない。
それに事実、クーちゃん達を帰した彼(彼女?)は今、たった一人で自分の魔法力の暴走を制御してくてる風に見える。
一人ずつ残ったクーちゃんとピーちゃんに目線をやっても肯いてくれるから、恐らくそんな所で間違い無いのだろう。
うん。ちょっとだけホッとしたかな。
「でもワタシ達ってさ、精霊契約とかしたっけ?」
取り敢えずの脅威はお尻に生えた巨大なバゲットくらいかと、やや安心して息を抜き、何気無く思い付いた事を口にしてみる。
だって曲りなりにも意思の疎通が出来るのなら、自分とキーちゃんの間にもクーちゃん&ピーちゃんと同じ繋がりが出来てないとおかしいもんね。
「キッ」
「むむっ?」
しかし可愛らしいお返事と共に舌をペロッと出して「さっきしたでしょ?」とでも言いたげなキーちゃんの態度に目を瞬く。
「もしかして……名付けてチューしたのが精霊契約って事?」
「キキッ!」
「うはあ、そうで御座いましたか」
今の今まで知らなかったわ、そんな事。
だってクーちゃん&ピーちゃんとの契約はご幼少の頃の話だから、全く覚えてなかったのですよ。
でもキーちゃんだけで無く、クーちゃんやピーちゃん、更にニャンコまでがウンウンと肯いてるので、どうもそれが真実らしい。
ううむ……。
確か魔法学の授業で教わった精霊契約はもっとずっと複雑で色々なプロセスがあった筈だ。
しかも応じてくれる事はほとんど無いと言う話だったのに、真実って怖いわ。
そりゃ真の契約方法がアレなら、精霊もかったるい儀式とかに一々付き合ってはくれないよね。
大学院に入ったら研究論文でも書いて真実を広めてやろうかしらん。
「ところでキーちゃん、そのワザって実体化しないと出来無いんだよね?」
「キキィ……」
昔からの疑問が一つ氷解した勢いに乗って、更に次なる疑問を口にすると、キーちゃんが少しショボンとした感じになっちゃった。
ふんむ。流石のキーちゃんもそこまでは無理だって事だね。
だったら、これからやる事は一つだ。
ワタシは意を決して立ち上がり、一旦魔法分身体を散らした。
そして十五フィート(約4.5m)くらいの高さにある開いてる高窓に飛び付いて外の様子を伺う。
見えた光景はモロに要塞の外だ。
「やっぱりね」
幾ら魔力症でボーッとした頭でも、何かがあった時には何時でも逃げられる場所で寝るだろうと思ったんだよね。
しかもこの窓扉は既にぶち抜かれてるから、全く何の労力も無く外に出られる。
(多分、寝る前の自分がやったんだと思う)
まあ窓自体は自分が何とか這い出られる程度の大きさだけど、ニャンコには一旦帰って貰えば良いだけなので問題は無い。
「じゃあさ、これから大量の岩石を拾いに行くから、みんな協力してくれる?」
室内に振り向いて声を掛けると、精霊三人衆がそれぞれに張り切った声を上げてスウッと消えて行く。
そう。魔法力が三倍になったのなら、ストレージもどきの内容物も三倍にしてやればイイ。
石切り場でクーちゃんに盛大に岩を切り出して貰えば、今入ってる木々の三倍量なんて多分あっと言う間だもんね。
何か問題が起こったら、それはまたその時の話だ。
「ところで、ニャンコは一体全体どうしてこうなっちゃったの?」
一旦また下に降りると、残ってた筈のニャンコが何故か普通猫サイズになってた。
ちょっとビックリ。
このコにはビックリさせられ続けだけど、今度はこう来たかって感じだわ。
「と訊いた所で、ニャンコ語は判んないかぁ」
しかしこっちの疑問に答えようとしてるのか、にゃんにゃんと鳴いて一生懸命に説明してる感じのニャンコを見て罪悪感が湧く。
我ながらお馬鹿な事を言っちゃったもんだと、少し反省。
幾ら向こうにこっちの言葉が判っても、その反対が無いのはもう判り切ってる事なのに何やってるんだろ。
即座にしゃがみ込んでニャンコを抱き上げ、ナデナデしながらゴメンねと謝る。
まあイイわ。
そんな話は聞いた事が無いけれど、精霊獣はこんなワザまで持ってるのだと言う事でこの場は納得しておこう。
小ニャンコを片手に抱えて再び高窓に飛びついたワタシはそう結論付けて外へ出た。
本日もこの辺で終わりにさせて頂きたく思います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。