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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
四年前の夢
187/221

186話


「ここ何処?」


 気が付くと、何やら簡素な寝台に寝かされていたワタシは近くにいた人影に話し掛けた。

 パパッと身体を触って確認すれば、ボロボロだったドレスは脱がされてパジャマの様な物を着せられてる。

 でも変わってるのはそれだけで、身体を拘束するような物は何も無く、ストレージ腕輪もそのままだ。

 これはもしかして、まだ学院にいるのかな?


「お早いお目覚めで。ここは王城内の押し込め部屋なんで、朝まで寝ちゃってても良かったんですよ?」


 でも振り返って返事をした相手を見てゲンナリ。

 寝台の端で椅子に座ってるのはレティだった。

 しかも話通りなら、自分は気を失ってる内に逮捕されて王城に連行されたらしい。


「今更何の用? 魔王様ちちうえからワタシが逃げないように見張りでも仰せつかったってワケ?」


 ゆっくりと上半身を起こして睨み付けると、レティのヤツは「おお怖っ」とおどけた素振りを見せた。

 全くきんちょう感に欠ける仕草だ。

 王城内の押し込め部屋なんてぶっちゃけ貴族用の牢屋だし、コイツもワタシより強いのは確実だけど、随分とまた余裕がありやがるよね。

 罪人を無事確保して、一仕事終わった後の一服って感じですか?

 やってられないにも程があるわ。


「いえいえ、自己責任の行動ですよ。どうやらひぃ様は何もご存じ無いようなのでご説明にやってきたってところです」

「今更説明なんて要らないよ。どうせワタシは明日にも処刑でしょ?」


 あの時の最大痛恨事はコイツが隊長さん達に紛れ込んでたのを気がつけなかったことだ。

 どうせ変装でもしてたんだろうとは思うけれど、相変わらずやり口が汚い。

 お陰で現世にガッチリと未練を残しちゃったじゃないの。

 死んだら化けて出てやるから覚悟してろよ?


「そんな事あるワケ無いじゃないですかぁ。何の為にあそこで私が止めたと思ってるんですか」

「今更忠義ヅラされても笑っちゃうから止めてくれない? 王太子でんか毒殺未遂の上に暴力でも迫ったんだから、処刑に決まってるでしょが!」

「それ、大した事の無い罪で酷い仕打ちを受けたひぃ様が怒って暴れただけの話になってますよ? 倒れた侍女とやらは闇から闇で、替玉が『下剤が入ってました』とニセ証言カマしてますしぃ」

「はぁ!?」


 なんだソレ?

 ワタシは毛布をブッ飛ばして勢い良く起き上がると、側にあったナイトガウンっぽい物を引っ掛けて寝台の端に座った。


「ちょっと待って。頭の中が追い付かない」

「まあそうでしょうねぇ。実際ひぃ様はここ一年ばかり、御当主様に散々振り回されておいででしたから」

「だから新情報のかいじは待ってって言ってるの!」


 ヘラヘラと笑うレティの話にごちゃごちゃになった頭の中を何とか整理する。

 勘弁してくれと思いながらも、どうやら自分は処刑されないらしいことが判ってホッとした。

 亡くなっちゃった侍女さんには悪いと思うけど、どうせ殺したのはクソ王子さまの一派だ。

 恨むならそっちを恨んで欲しい。


「要するに魔王様ちちうえと王へいかは繋がってたってワケ?」


 しかしコレは思ったより根が深そうな話だ。

 何が起こってるのか見当も付かないながら、隊長さん達のことを思い出して訊いてみる。


「繋がってるどころか、御当主様と王陛下は昔っからの、それこそ御当主様が先王サマに王位を譲られそうになった頃からの御親友らしいですよ」

「なんだよソレ!?」


 するとヘラヘラ笑いの止まらないレティから予想外の答えが出てビックリ!

 あれが王へいかの仕込みである以上、まず間違い無く魔王様ちちうえと何らかの繋がりがあるだろうとは思ったけど、そこまでとは思ってなかったわ。

 ゲンナリもビックリも何処かに行っちゃって、グッタリとしちゃったワタシは「もうどうにでも成れや!」とレティに先を催促した。


「そもそもは外交一辺倒だった先王サマが内政を放っぱらかしにしたせいで、国内に不逞貴族きせいちゅう共が大分湧いてたのを何とかしようと御二人で考えたのが発端らしくてですね」

「まさかそれって……」

「ええ。お察しの通り、一連の派閥間争いはその寄生虫共をあぶり出す為に両派閥の重鎮達までグルのお芝居なんですよ。そしたら炙りだされた連中が王太子にすり寄って集まっちゃったので、これ幸いと一網打尽にする罠を張ったのが今日の事件のあらましですねぇ」

「ひ、酷過ぎる……」


 ヒラヒラと手を振りながらレティが話す、あまりと言うのもあんまりな真実にドッと疲れる。

 何だか全身から力という力が抜けちゃうような気分だ。

 このまま二度寝したくなって来たよ。

 しかし聞けることは聞ける内に聞いておかなければならない。

 どっちにしろ押し込め部屋で監禁されてる自分は罪人なんだろうし、今後どうなるかなんて全く判らないもんな。

 クソ王子のセリフじゃないけど、どっかの寒村にでも押し込められた後じゃ誰も説明なんてしてくれないんだからさ。


「ソレってさ、もしかしてワタシの夜会参加も関係してる?」

「もっちろんですよ。御当主様におかれては、ひぃ様がバンバンと寄生虫を釣り上げてくれるので事の外お喜びでしたしぃ」

「ウン。そりゃクソ王子さまの前に魔王様ちちうえを殴る方が先だな」


 意を決して取り敢えず閃いたことから訊いてみれば、予想通りの答えが返ってきてガックリ。

 そりゃそう言う背景があるならそうだろうとは思ったけれど、じかに聞くとメゲるわぁ。

 どうやって魔王様ちちうえからケジメをとってやろうかと思いつつ、まずは心の中にある殴るリストのトップをクソ王子さまから魔王様ちちうえに入れ替えて溜め息を吐く。


「夜会じゃひぃ様は釣りのエサ状態でしたからねぇ。しかも黙ってるだけでもバカが釣れるのに、色々とジタバタしてくれたお陰でマジに大漁でした」

「ハイハイ、良うございましたね。でもさ、その言い方だと、自分が知らないだけで常にネタ集め要員が密かに同行してたってことでしょ?」

「勿論ですよぉ。招待客から女中まで、ウチの連中が何人も入り込んでましたし、私なんて密かな護衛役でいつも御一緒してたんですよ?」

「なんだよソレ!」

「年少のひぃ様を本当に独りで貴族あほう共の前に出すわけワケ無いじゃないですか。護衛だけで常に十人体制ですよ。ちょっと考えれば判ると思うんですけどねぇ」

「うっ……」


 未だヘラヘラ笑いが顔に張り付くレティにムッとして抗議すると、大上段からの正論を反撃に食らって言葉が詰る。

 考え直して見ればワタシだって末端とは言え王族姫なんだから、会場内でも見えない護衛の五六人は張り付いてるのが普通だ。

 似た様な立場の他人がそうなら、自分だってそうに決まってるのに考えたことすら無かったわ。

 しかもそんな体制だったと言うことは恐らくイザという時のフォロー役までいたはずだから、ソイツが出て来ていない以上、自分の言動は全て魔王様ちちうえの許容範囲内だったってことになる。


「なんだかなー」


 口からたましいまで抜け出そうな勢いの溜め息を吐いてガックリ。

 介添え人すらロクにいない状況でたった独り、貴族あほう共と真剣勝負だと思い込んでた自分を小一刻(約一時間)くらい問い詰めたいっ。

 ホント、おのれのバカさ加減にムカッ腹が立つわ。


「ところで。どうも気にしてらっしゃる様なので言っときますが、ひぃ様が此処に居る理由は追い詰められた馬鹿共から護る為ですので、別に罪人扱いじゃありません。そこの所はお間違えの無き様にお願いしますね」


 膝に手をついてガックリとうな垂れる自分に罪悪感でも湧いたのか、レティが話題を変えてきた。

 でも、それはちょっと聞き捨てなら無い話だ。


「ワタシに責任を負わせないなら、今回の件の落としどころはどうなってるの?」

「クソ坊ちゃん王子が通う理由で数百の兵力を囲ってた学院の正体見たり! って感じですね。実際、王子の取り巻き筆頭のフランとやらは西聖王国と繋がってましたし、他も似た様なモンでした。まあ西聖王国は反乱までやる積りは無かったようですが」

「ああ、そう言うことね」

「王子とズブズブだった理事長の公爵サマは処刑にはならないでしょうが家は御取りつぶしで決定。取り巻き連中は既に数人が脳味噌洗われちゃって死んだも同然ですが、例え無罪になってもこんな事をやらかしたヤツを実家が放っては置かないでしょう」


 ヘラヘラ笑いから嫌なニヤつき顔になったレティのセリフに納得。

 クソ王子の計画に西聖王国が絡んでたとなれば、それは国家はんぎゃく事件だ。

 例え毒殺未遂の件が流されてなくても、こっちのやったこととはレベルが全然違う。

 と言うか、それなら毒殺未遂事件の真相もバレてるワケだから、隠ぺい工作に走るのも当然だわな。

(だって表沙汰になったら話が国対国になって、ヘタすると戦争になっちゃうからね)


「アイツらみんな闇から闇に葬られちゃうってワケね。そう言えばオリヴィエ様はどうなるの?」


 罪人じゃ無いと判ったところで、ドカッと気が抜けたせいかボーッとしちゃいそうになる中、ハッと思い出した事を口にする。

 あの時聞いた通りならオリヴィエ様もこの事件に絡んでる筈だ。

 だとしたらこの先、ルーベンス様に会うのがとってもツラくなっちゃうんだけど……。


「オリヴィエ様は元からこちら側で最後通牒役&疑似餌役ですね。幾ら何でも気が付くと思うんですが、知性の薄いバカ坊ちゃん王子は気が付かなかったので、そのまま後者の役で関係したってダケの事ですよ」


 おおう。

 さすがはオリヴィエ様。

 将来の外務卿&宰相候補の切れ者とか言われてるだけのことはあるわ。

 やにわに立ち上がって小さな机を寝台に寄せ、お茶の支度を始めたレティを見ながらホッとする。


「じゃ、じゃあエヴリーヌさんは?」

「ああ、あの女は西聖王国の間者ですよ。男爵一家が丸ごと西聖王国に買収されてて、そこに送り込まれてたプロの人です。だから男爵の庶子って話も大嘘だし、歳だってかなり誤魔化してるんですよ?」

「な、なにソレ!?」

「ヤツは裏の世界では知られた女ですからねぇ。あんな毒婦は普通なら周囲が弾くんですが、バカ坊ちゃん王子が学院で好き勝手絶頂にやってたんで入り込まれたんでしょう。ちなみに実際の歳は三十超えのBBAです」

「マジですか……」


 オリヴィエ様のついでにエヴリーヌさんとやらのことも訊いてみると、超絶ガックリする話が返ってきて疲れる。

 でもお姉さま方が王家を無視するレベルでクソ王子を嫌っていた本当の理由わけがこれでやっと判った。

 好き勝手やってたとは聞いたけれど、そんなのにつけ込まれるほどバカ丸出しだったのなら当然だわ。

 ちょっとでも近付いて一派と見なされちゃったら、マジで命が危なくなっちゃうもんね。


「垣間見たエヴリーヌさんは普通に十代に見えたのに、実はそんな歳だったんだ……」

「そうですねぇ。まあ見た目だけなら何とでもなりますよ。あのテのヤツらはそう言うの得意ですから」

「そうなんだ……(絶句)」


 いやぁ、プロのヒトってコワいですね。

 出来ればその誤魔化し術を教えて貰って、日焼け肌を何とかしたかったわ。


「そう言えばひぃ様に付いて暴れ捲くってた連中ですが、騎士以外には全員王陛下から感謝状が出るらしいですよ」

「それも隠ぺい工作の一環?」

「裏話としてはそうですけど、王都に湧いた数百の武装勢力を実際に無力化したのですから当たり前じゃないですかね」

「そんな話が決定されてると言うことは、王へいかは今此処に居るってワケだ」

「御当主様も一緒に居られますよ。目を盗んで此処に来るのは大変だったんですから、褒めて欲しい位です」


 貰ったお茶を啜りながらレティの話の裏を突けば、偽の旅行は王サマだけじゃなくて魔王様ちちうえまでそうらしい。

 しかも一緒してるなんて、どんだけ仲がイイんだよ、その二人!

 くっそぉ。

 何時か絶対に仕返ししてやるんだからねっ。


「ところで、肝心のクソ王子さまはどうなったの?」

「城の何処かに軟禁状態ですね。今は皆さん何とか誤魔化そうと走り回ってるんじゃないですかぁ?」

「王太子には傷を付けたく無いってこと?」

「真実が出ちゃったら、流石に西聖王国てきこく絡みですから王家のメンツ丸潰れになっちゃいますよ。ただ……」


 仕返しで思い出したクソ王子のことを聞くと、どうやらヤツの立場は守られるらしい。

 ちっ。

 廃嫡になったら思う存分ブン殴れると思ったのに残念なことだ。


「そうなるとバカ坊ちゃん王子の婚約破棄宣言も生き残っちゃうそうです。流石に大勢の前で起こった事件なので話自体を無かった事には出来ないそうなんですよ」

「あんなクソ野郎と結婚なんて冗談じゃないからそのままの方がイイ」

「そりゃまった随分なお変わりようですねぇ。囚われてる時に色々と盗み聞きでもしちゃったんですか?」

「そうだね。丸っと全部聞いちゃったと言ってイイよ」

「成る程ねぇ。でも御当主様はともかく、王陛下は今でもひぃ様とアレを結婚させたいみたいですよ? こんな事件があったんだから将来は完全にお尻の下に敷けますし、割りとイイ話なんじゃないですかねぇ」

「だから冗談じゃ無いって言ってるでしょ! あんなカス野郎の嫁になるくらいなら死を選ぶわっ。大体なんでアンタが王へいかのご意向に詳しいんだよ?」


 話を途中で切って、溜めたと思ったら出て来たレティの言葉にグッタリ。

 幾ら何でもアレを見てたアンタがそんなことを言うか?

 冗談も程ほどにして欲しいわ。


「ひぃ様がちゃぁんと手続きをして下さって正式な臣下にしてくれれば、レティは今これからでも御当主様抜きで王陛下との間を取り持てますよ? 勿論、それが先王陛下だろうとモーリス殿下だろうと同じ事です」

「何ソレ。マジで言ってるの?」

「だってこっちは初めからひぃ様だけの家来の積りですからぁ。情報収集も怠りは無いですし、各方面にツテだってバッチリ作ってあります。今此処に居るのも自己判断で王陛下に許可を貰って来てるんですよ? こんなの後で御当主様にバレたら大目玉必至ですって!」

「そ、そうなんだ。悪かったね……」


 単なる売り言葉に買い言葉って感じの話に、レティが剣幕を変えて食い付いてきてビックリ。

 コイツってばそんなことをやってたのか。

 そう言えば確かに、言葉でなくその行いで測るなら、コイツは今まで唯の一度もワタシの敵に回ったことは無い。

 例のお呪いは止めないし、恐らく知ってるはずの原本の在り処だって未だにチクってはいないしね。

 それどころか、ワタシの最重要ひみつである「精霊の真似魔法」まで気が付いてるっぽいのに、今まで誰にも何も言って無い臭いのだ。


「アンタってヤツは……」


「それなのにひぃ様は……」とかなんとか、ブツブツ独り言を言い始めたレティに溜め息が出る。

 魔王様ちちうえを無視して王へいかと直にやりとりしたとなれば、普通なら解雇クビどころの騒ぎじゃ無い。

 コイツだって貴族の端くれだから、そんなことは重々承知のはずだ。

 なのにやったのなら、これも口では無く行いで思いを示して見せたってことになる。

 何だかヘンに嬉しくなっちゃって苦笑。


「でもさ、なんでそこまでしてワタシに付こうとしてるワケ?」

「ひぃ様は大事な事は何でも御自分で対応しようとされますよね? 色々と秘密もあるんでしょうが、それでも常に御自分の行動が生んだ事に関しては御自分で被る事から逃げない。世の中の王族、いや貴族とまで広げても、そんな気合の入ったヤツはそうそう居るものじゃないんですよ」

「はぁ。まあ言われてみればそうかも知れないけど……」

「ぶっちゃけ惚れ込んだってヤツです。最初はヤだなーと思ってたんですが、ひぃ様の言動を近くで見てる内に『この御方しかいない!』と思いましてね」

「でもワタシに付いて来たらきっとこれからも色々酷い目に会うと思うよ? 世間じゃ廃嫡間近とまで言われてるしさ」

「それこそバッチ来いってヤツです! レティは超一流の侍女騎士を目指しておりますので、艱難辛苦ドンと来いってなモンですよ」


 しょうがないなーと思いつつ話を向ければ、突然真顔になったレティが色々とまくし立ててきた。

 何だかくすぐったい言われようだけど、こんなことを言われて嬉しくならないヤツはいないと思う。

 しかもコイツの場合、その軽い語り口の話よりも既に行いが雄弁に物語っちゃってるから説得力がとてつもない。


「うう、判ったよ。騎士じょ任すればイイんでしょ? 屋敷に帰ったらやるからさ」

「なーにをアマい事をいってやがりますか!? 今ですよ今っ。やるんなら今此処でやって欲しいです!」

「いや、今って言われても……」


 話にノッてみれば、どとうの如く自己主張してきたレティにゲンナリ。

 未だ魔法のまの字も習ってないワタシに、どうやったら騎士紋なんて授けられるって言うんだろう?

 そんなことを言うと、何故かレティの目が輝き出した。


「ウソを言っちゃイケませんよぉ? 誰にも漏らしてませんが、ひぃ様が既に身体強化以外の魔法も使える事は知っております!」

「だーかーらー、色々あってこっちは未だちゃんとした魔法が使えないの! その内話してあげるわよ」

「むっ、そうだったんですか。でもそれならそれで……コレを見よってモンです、ひぃ様!」


 ハイテンションになったレティの言葉で、やっぱコイツはこっちの魔法のことを知ってやがったかと確認。

 でも未だ自分の魔法じゃ騎士紋なんて入れられないと言ったら、何やらインベントリをゴソゴソと漁って一枚の紙切れを持ち出してきた。


「にょっほほほ! コレは魔法力さえあればどんなバカでも騎士紋が入れられると言うナイスなアイテムなのです!」

「うっそ! それってまさか隷ぞくの魔法陣!?」

「その通りですっ。仮成人を迎えて、晴れて騎士紋が入れられる様になった際にじい様からせしめたブツでしてね」

「良くそんなヤバいブツを持ち出せたもんだね……」


 紙切れは驚きの隷ぞく系魔法陣だった。

 隷ぞく系の魔法陣と言うヤツは色々危ないので、実は世の中では結構秘匿されているブツなんだよね。

 まあ実際は貴族であればそれほど苦労なく手に入れられる(レティだって騎士卿一家の娘だ)ものの、下地の知識すら必要無く、即座に使用可能なブツと来れば入手はムリに等しい。


「さあ、じゃパパッとやっちゃって下さい!」

「ええっ!? ホントに今此処でコレをやれって言うの?」


 紙切れを渡されて驚いてる間も無く、ズバッと上衣を脱ぎ始めたレティにビビッてキョドる。

 いや、コレ、マジでやるとなるとアンタが心配なんですけど……。

 何しろこっちは魔法の初心者未満のお子様だ。

 見届け人や介添え人どころか、指南役すらいない状況で素人同然のワタシが他人にヤバい魔法を掛けるなんて出来れば勘弁して欲しい。


「あったりまえですよ。そうじゃなかったらもっと詳しい話も出来無いし、イザと言う時に此処からひぃ様を連れて逃げる事だって出来無いんですよ? 女は度胸! 観念してパパッと入れちゃって下さいな」

「あー、もう! 失敗したって知らないからね!?」

「失敗なんてするワケ無いでしょ。強制隷属ならともかく、任意隷属なんですから」

「……はぁ。判ったわよ。んじゃやるからそこに座って」


 改めて考えてみると、ワタシの騎士紋を背負う者なら魔王様ちちうえを無視して王へいかと渡り合ったとしても、大きな問題に成らない。

 全てはあるじであるこっちの責任になるからだ。

 しかも魔王様ちちうえはワタシに負い目があるから、その件でガタガタ言うことなど無いだろう。

 レティがそこまで考えてるかどうかは判らないものの、このままだとコイツが後で大変なことになるのは確定だし、ここは一つ助けると思ってやってみますか。


「ささ、座りましたよぉ?」

「ハイハイ」


 意を決したワタシは成れない手付きで紙切れの魔法陣をにらみ、付属のスペルの詠唱に入った。

 王城の押し込め部屋の中、それは見届け人の一人もいない二人きりの寂しい騎士叙任だったけれど、ワタシはその時初めて友人を得たと思った。



本日もこの辺で終わりさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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