182話
年末だったせいか、またもや一週飛ばしてしまって申し訳ありません。
出来ましたら来週末までにあと二話更新させていただきますので、どうか笑って許してやって下さい。
フィル兄さまの婚約者になった事でワタシの日常は大きく変った。
もう王城以外には出掛けなくても良いと、魔王様から指示が出たからだ。
そりゃ王太子の婚約者になっちゃった以上、一応身辺に気を配らないとマズいので、ホイホイと余所には出掛けられないわな。
だからここ二週間で出たイベントは王城で行われた夜会二つだけなんだけど、なんと、ワタシってば早くもそこでフィル兄さまと一緒に笑顔を振りまく役をやっちゃったのですよ!
しかーも、一度目の時は優しいフィル兄さまが迎えの馬車から同道してくれたり、会場入りの際にそっと手を引いてくれたりして、周囲に仲良しアピールをしてくれちゃったから堪らない。
内心では「まだ婚約者の分際で王太子妃気取りはヤバいんじゃ?」とビクビクしながらも、嬉しくなっちゃって始終フィル兄さまにぺったりと張り付いちゃいました。
ただね、周囲の反応にビビッてたのも王城に着くまでのことだったのですよ。
王城に着いてみたら貴族や官僚達の態度があからさまに変わってて、ついこの前までの態度は何だったのかと全員に問い質したくなったくらいだ。
何しろ連中ときたらどいつもこいつも素晴しい手の平返しで、何処で誰と会ってもおべんちゃらをまくし立ててこっちをヨイショしてくるし、しかもそれはこれまでならまともに口も利いてくれなかった王族サマ方までご同様なんだからビックリしちゃう。
先王へいかの義弟君で、前に面と向かってワタシをおサルさん呼ばわりして笑いやがった公爵サマなんて酷かったもんな。
『そう言えば○○サマは以前お会いしたときにサルがどうとかと言っておられたと思いましたが?』
『はっ!? い、いえ、その、実は我が家でサルを飼っておりましてねっ。あっははは』
『そうだったのですか。でしたら今度は是非ともそのおサルさんとお会いしたいものですね』
『ええっ!? あ、いや、その、実は持病のしゃくが悪化して先ごろ死んでしまいましてなっ。残念無念と言った所なのですよ!』
『まあ、それはお可愛そうに。お悔やみ申し上げますわ』
前に会った時のことを思い出してテストの積りで声を掛けただけなのに、公爵サマってばこっちを見た瞬間に真っ青になって震えだしちゃったから、もう笑うに笑えない感じでさ。
やり取りを見てた周囲の人らが笑いを堪えきれなくなって、みんなオシッコを我慢するような顔になってたから、さっさと逃げ出しちゃいましたよ。
とまあ、そんな感じで何時の間にかロイヤルプリンセス(仮)って立場になっちゃったワタシはお陰さまで毎日が幸せ気分。
王城に専用の部屋まで貰った上に専任の侍女サン達まで付けられちゃったので、学園を卒業してヒマなワタシはそこに通いつめる日々だ。
うるさい魔王様は領地に帰って王都にいないから誰も何も言ってこないし、王城に行けば大勢の人らが「姫様、姫様」と持ち上げてくれて、何をするにも優しく面倒を見てくれるのでウチにいるよりずっと居心地が良い。
しかも行き帰りは王家の馬車が騎士隊付きで送り迎えしてくれるから、ウチの連中の世話になることも無くて気分も良い。
いやー、エラくなるって本当に素晴しいですね!
正しくわが世の春が来たって感じでございます。
とは言え、勿論こっちも馬鹿じゃ無いから、周囲の奴らが態度を変えた最大の理由は王へいかと魔王様の手打ちなんだろうってことは判ってるよ?
双方の派閥の連中は手打ちの象徴であるワタシ(とフィル兄さま)を大切にするだろうし、そうなっちゃうと、あの公爵サマの様に今まで彼らを煽ったりして漁夫の利を得てたおバカさんはマジで危うくなっちゃうもんな。
そりゃビビッておべんちゃらを言いまくったり、あわよくば取り入って難を逃れたいと思うのは当然だ。
でも毎日のように王城で過ごす内に、どうにもそれだけがこの周囲の変わりようの原因とは思えなくなってきて、たまたま久しぶりにお会いしたフィル兄さまの弟君であられる「ちぃ兄さま」ことモーリスでんかを捕まえてご意見をお伺いしてみた。
「お久しぶりです、ちぃ兄さま」
「ああ。久しぶりだな」
「実はちょっとお聞きしたい事があるのですけれど……」
「周囲の人間の事なら気にするな。王太子の婚約者は王家のメンツがあるから披露までされたら大抵そのまま行く。それでお前に媚び始めたんだろう」
「えっ!?」
聞いてもいない内から知りたいことを色々と答えてくれたちぃ兄さまの話によると、この国の貴族や官僚達はワタシを将来の王妃と断定して走り始めたってことらしい。
しかも宮廷でうごめいてるような連中にとっては、今のことより次の体制の為に腐心するのが普通なので、王へいかと魔王様の手打ちなんかより、実はそちらの方がずっと重いのだそうだ。
「まさかそちらが本筋とは思いませんでした。誕生日が来るまでは婚約もまだ仮の物だと言うのに……世の中ってコワいですね」
親のサインだけじゃ婚約は成立しないので、十二歳を超えないと法律上の人権が無いも同然な子供であるワタシには未だ書類にサインが出来無い。
つまり実はワタシって、法的には未だ王太子の婚約者になっていないのだ(後三週間無いけどね)。
それなのに早くもそんなことになってるなんて思わなかったわ。
雲の上のエラい人はそんな風に周囲が勝手に動いて色々なことが決まって行くんだなと思ったら、将来がちょっと怖くなっちゃったよ。
「どうやら理解してくれたようだが、王家の一員となるならば周囲の者などに振り回されるな。それに表向きはともかく、誰もがこの件を歓迎している訳ではない。身辺には気をつけておけ」
新事実発覚のせいで事態のはあくの為に頭の中を整理してたら、何時の間にか凄くイヤそうな表情になってたちぃ兄さまが警告めいた脅し文句を言ってきてガックリ。
なんだかなー。
そりゃまあ根っからのインドア派で芸術家肌のちぃ兄さまとは昔から仲がイイとは言えない間柄だし、こんな脳筋娘を義姉として敬わなきゃいけないのもさぞかし面白くないのだろうけれど、日頃から目立たないようにされているとは言え、そんなのロイヤルファミリーの一員で将来の王弟サマな人のセリフじゃないよね。
先週密かにえっけんした時の王へいかですら、それまでの仏頂面なんて無かったような笑顔で「アンよ、余はお前が王家に入る事を嬉しく思うぞ」とか言ってくれたのに、そうあからさまな態度ってのは不味いんじゃないですか?
「肝にめいじておきますが、王宮では王へいかに付けて頂いた侍女の方々や騎士の方々もおられますので、そこまで気にしなくても良いのでは?」
思わず『王へいかだって公けには歓迎してくれてるのに貴方の態度って酷くない?』って意味の嫌味を言って様子見。
「お前は……」
するとその嫌味を聞いたちぃ兄さまは物凄く味のある表情になって、嫌悪感丸出しな感じになっちゃいましたよ。
アラアラ。
幾ら身内相手のこととは言え、未来の王弟サマがそんなに単純なご性格ってヤバくないですかぁ?
まあワタシが王妃になった時には色々とかばってあげてもよろしいですけど、そういうのってあくまでも好感を持つ人の場合だから、何時までもそんな態度だと将来どうなっても知りませんよぉ。
何だか下を向いてブツブツ言い出しちゃったちぃ兄さまに、上から目線なことを考えながら心の中で溜め息。
でも十六歳になってもこんな調子なちぃ兄さまが悪いんだよ。
こっちは日頃から周りに単純とか脳筋とか脳ナシとか、色々と貶されまくってるから色々考えてるのに、おべんちゃらに塗れて生きてる王子サマは気楽でイイよな。
「ああ、もう! 良いか、お前はあの侍女見習いともう少し仲良くした方が良いぞ!」
おっと。
しょうのない人だなーと思って溜め息が現実に出ちゃいそうになった瞬間、ちぃ兄さまはそんなことを言い放ってワタシの部屋からパパッと出て行った。
むう。何だか出来の悪い弟が出来た気分ですよ。
反抗期かな?
仕方無く侍女さん達に軽く口止めをしてから降参ポーズを決めると、さすがの彼女達もププッと吹きだしたので一緒に笑う。
まあイイか。
別に殺し殺されたりするほど仲が悪いワケじゃないし、ちぃ兄さまとのことはじっくりと時間を掛けて取り組んでいけばどうにでもなるだろう。
ただ、ちょっと気になるのは彼の最後のセリフだ。
「あの侍女見習い」がレティのことだとは判るものの、何故にあそこでヤツの話になるのか、ちょっと不思議なんだよな。
確かにちぃ兄さまの言う通り、ワタシはレティとそれ程仲が良いってワケじゃない。
悪い奴じゃ無いとは思うものの、しょせんヤツは魔王様が付けたお目付け役でしかないからね。
どうせ他のヤツらと同じで魔王様の命令には逆らえないんだから、仲良くなっても不毛なだけだと思って放置状態なのですよ。
それに臣下の者が王城で無位の陪臣を連れ歩くワケにも行かないので、最近ではヤツとも会う機会がほとんど無い。
ウチに帰った時にでも聞いてみたいけれど、レティは側仕えとは名ばかりの風来坊だから必ず会えるとも限らないしねぇ……。
ま、これもその内の話でイイか。
ワタシは気分転換に机の上にあった「礼法指南書」のページをペラペラとめくった。
どうでもイイことがやたらとご大層に書き連ねられてる内容にフフッと笑う。
誰が持ち込んだ物かは知らないけれど、ワタシには物語などで言う「王太子妃教育」なる物は必要ないので、こんな初心者向けのブツなんて全くお呼びじゃ無い。
そもそも下々の生まれじゃないから色々なことは既に入ってるし、それどころか姫の王族称号まで持ってるお陰で宮廷儀礼すらバッチリ判ってるからね。
勿論、正式に王太子妃となったら独特の作法だの礼法だのがあるとは思うけれど、そんなの武術の型だと思えば楽勝だから気楽なモノですよ。
でも帰領前に会った魔王様にそれらを色々とやって見せたら、何だか唖然とした表情になって「お前、そんな事が出来たのか……」とか驚かれたのにはムッとした。
オヒオヒ。この辺のことらってみんなアンタの指示であのクソ侍女頭に覚えさせられたってのに、今更何を言ってるんですかね?
若年痴呆でも始まったのかと、ちょっと疑っちゃったのはナイショだ。
◇◇◇◇◇◇◇
さて色々なことがある中、本日のワタシはフィル兄さまと真っ昼間から移動の馬車の中だ。
王都にある高等学院の卒業式に二人で列席することになった為で、それは去年その学院を卒業されたフィル兄さまをかつて学院でのお取り巻きだった高位貴族な後輩達が是非にと招待したからですね。
普通、直系の王族が学校なぞに行かれることは無いのだけれど、そこは活動的であられるフィル兄さま。
自らの周囲を固める者達は自らが集めると、王へいかにわがままを言って通してしまったのですよ。
何だかカッコイイと思ってしまうのは、惚れた者の欲目ってヤツなんでしょうか?
「ところでフィル兄さま、折り入ってのお話なんですけど……」
「例の御爺様の件かい? 悪いけど父上がお帰りになるまでは難しいな。今の御爺様は政務から離れてる事を示したいらしくて、僕でも王陛下を通さずには謁見出来無いんだ」
馬車の中、珍しくお付の人がいなくなって久々に二人っきりになれたので、今の内に話しておかないとマズいことを口に出そうとしたら、全然関係ない話が出てきた。
そういえばワタシ、魔王様とのえっけん以来、先王へいかから話の真意を聞きたくて、お会いできるようにフィル兄さまに頼んでたんだっけ。
王太子の婚約者とは言え、こっちは未だ正式な官位すら無いタダの子供だから真っ当な手段ではこちらから先王へいかに会うことができないんだよね。
「そう言えば王へいかご夫妻は今、ご旅行中なのですよね」
「そうだね。気分転換の娯楽の為とされているものの、実情はナンヌ国境に近い街で西聖王国の王族と何かの交渉をする為らしい。お陰で名目上、国王代理になってる今の僕からは余計に御爺様にお会いし難いんだよ。『王太子は王陛下が居なくなった途端、先王陛下に泣きついた』とか噂されるのもイヤだしね」
「そ、そんなことを言う馬鹿者がいるのですか?」
話題を変えようと思いながらも話にお付き合いすると、フィル兄さまから出てきた言葉にちょっと驚く。
そりゃまあ何処にでも捻くれた人っているものだけれど、ワタシに聞こえてくる王太子の噂は良いモノばかりだったから意外だ。
「アンは未だ知らないと思うけどね……」
でもそんな悪口は聞き捨てならないと聞き返した途端、フッと表情を歪めたフィル兄さまは何かを吐き出すような顔になった。
「そう言う輩は多いんだ。貴族達も官僚達も僕を敬っているの表向きだけで、本当は軽んじているのが実情さ。西聖王国との秘密交渉だって、本来なら王たる父上では無く僕が出るのが当たり前だと言うのに、彼らからは全くそんな話は出なかった。相手にされていないんだよ」
「フィル兄さまは未だ王太子になられて二年ですから! その内にそ奴らだって『お願いします』と頭を下げてやってくるに違いありません!」
話の内容にちょっと頭にキて、思わず思ったことをそのまま口に出すと、フフッと自ぎゃく的に笑ったフィル兄さまがワタシの頭をグリグリと撫でた。
にゅううう。こう言うナデナデには昔っから弱いんだよなぁ。
「アンは優しいね。でも今の僕に人望が無いのも事実だよ。だからこそ、これから頑張って行こうと考えているんだ」
撫でられてほわんとした気分になっちゃった中、その手にスッとこちらの手が取られ、覗き込むようにして目を合わせてきたフィル兄さまにドキッとする。
うわっ。ちょ、ちょっとフィル兄さまってば!
急にソレっぽい雰囲気になったと思ったら軽く唇まで奪われちゃって、こっちの頭はボーッとするやらパニックになるやらで大変だ。
い、いや、落ち着けっ。
婚約者なんだからこのくらいは当たり前なのだ、そうだ、そうに決まってるっ。
何とか心を落ち着かせようとするものの、意外に早く成るように成っちゃうのかなぁとか、フィル兄さまって実はろりこんな人なのかなぁとか、どうでもイイことが頭の中に浮かんでは消えて行く。
ぬうマズい。
このままでは折角のチャンスをふいにしちゃうよ。
「あ、あの、さっきの話は実は側室のお話なんです!」
とにかく言わなきゃいけないことは言わなくてはと、気合で体勢を立て直して口を開くと、けげんな表情になったフィル兄さまが手を離した。
「側室? いきなり何を言い出すんだい?」
「も、もしこのままワタシ達の婚約が本決まりになれば、この国はそのまま将来の体制を作ろうと動き出してしまいます。だからその動きが現実になる前に『実は……』とひろうすれば、周囲もあの方のことをそのまま取り込んでくれるのではないでしょうか?」
表情を曇らせるフィル兄さまに話し続けるのは勇気が要るけど、ここが勝負の決め所と、一気に思っていたことをババッと喋る。
だってこんなこと話せるチャンスはあまり無い上に、もう残り時間が少ないのだ。
その少ない時間で話をまとめないと、後々絶対に良くないことになっちゃう。
「ですから、ワタシとしてはその件でフィル兄さまに出来るだけ早い内に動いて頂きたいのです」
ついでに今後の話までして様子見。
勿論、この話はくだんの男爵令嬢の話だ。
王城の侍女さん達に聞いた話では、フィル兄さまとその男爵令嬢の間はかなりホットなご関係だそうで、彼が卒業されたはずの学院に今でも度々理由を作って出かけるワケは彼女との逢瀬の為だと言うことだった。
しかも他にも色々と当たってみれば出るわ出るわ、もう誰もがソレを見知ってる状況な上に半ば公認の関係って感じなのですよ。
そんな女性を放って、自分だけ幸せになるわけには行かないよね。
そもそもワタシは正直言って、フィル兄さまを妙に縛り付ける積りはもうとう無い。
王サマになられる人に奥さんが一人きりしか居ないのは異常だし、大勢いるのならともかく、数人の範囲なら十分に許容範囲内だ。
ならば想い合う二人を引きはがす道理は無いと思うのだけれど、それはあくまでワタシ個人の話であって、色々なことが決まった後ではたかが男爵令嬢なんて周囲の人間達に弾き飛ばされちゃうに決まってる。
だからこそ今の内に関係をそれとなくでイイからオープンにする必要があるのですよ。
そしてそれを更にワタシが表立って認めちゃえば、その後はもう誰も口が出せなくなると思うのだ。
「ああ。君はエヴリーヌの事を言っているのか」
黙ったまま考え込んでる風のフィル兄さまが顔を上げるのを待ってると、何だか怖い表情になって口を開いた。
ああ、やっぱりちょっと余計な御世話っぽかったのかな。
でも珍しく怖い表情になる程真剣な話なら、ちゃんと話し合った方がイイと思うんだけど……。
「心配無いよ。君と彼女とでは僕にとっての存在の重さが違い過ぎる。同列になど語って欲しくは無いし、君が気にする事も無い」
「そ、そうですか。でも今回ご卒業と聞きますし、学院ではその方ともお会いするのですよね?」
「ああ。確かに会う積りだが、それがどうかしたのかい?」
ワタシは怖い顔のままなフィル兄さまに最近王都で評判になっている葉巻型の焼き菓子が詰った箱を渡した。
これは男爵令嬢改めエヴリーヌさんに「ワタシは貴女を認めますよー」と言う印だ。
立場が上の者から先にこう言うことをすれば、それは「むげにする積りは無い」と言う意思表示にもなるしね。
チラッと窓の外を見れば、馬上の騎士の人らにも今の受け渡しはばっちり見えたようだから、イザとなったら彼らもこの件を証言してくれるだろう。
人々の話ではエヴリーヌさんには大した後ろ盾も無い様だし、味方になってくれる人は多い方が良い。
「二人でお茶をする時間くらいはありますよね。でしたらそれをワタシからと言って渡していただけますか?」
「これをエヴリーヌに? そうか……うん判った。お言葉に甘えさせて貰うよ」
綺麗に包装された箱を傍らに置き、ふっと笑って表情を戻したフィル兄さまがまたナデナデと頭を撫でてきた。
うん。どうやらウマく行ってくれたようだ。
でもコレには弱いので、あまり連発しないで欲しいんだよにゃぁ。
ううっ、何だか頭の中までほにゃほにゃっとしてきちゃったわ。
「僕の奥さんに成る人が気の付く人で嬉しいよ。実は学院の卒業式にアンを連れて行く話は僕が急遽決めた話でね。それはこれから僕を支えてくれる者達に将来の妻を逸早く紹介しようと思い立ったからなんだ」
「そ、そうだったのですか」
お、おくさんに、つま……。
ヤバい! 顔が真っ赤になっちゃったよっ。
判ってはいるものの、いざフィル兄さまの口からそう言う言葉が出ると破壊力が凄いわ。
で、でもでも、ワタシってばこの憧れの王子サマであるフィル兄さまの奥サマになることが決定したんだから、慣れていかないといけないんだよね。
このまま行って十五の仮成人近くもなれば、こ、子作りみたいなこともしちゃったりして、もっと仲良くなっちゃったりもするんだろうし……。
(世では子作りに適した年齢が十五歳くらいからと言われてるから)
はぁ。
なんだかとっても幸せ。
クロ君と一緒に領地にいる母上からの手紙には「王妃として生きるのは生半でない覚悟のいる事ですが、まず実際に成る事がもっとも重要です。日々気を付けて過ごすのですよ」なんて脅しめいたことが書かれてたけれど、フィル兄さまは数少ない信じられる人だし、変な心配なんてするだけ無駄だよね。
真っ赤な顔でフィル兄さまに頭を撫でられながら、ワタシは幸せ一杯で将来の生活を想った。
今宵もこの辺りまでにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、ありがとうございました。