178話
大変ご無沙汰しております。
しかもこれだけ長い事放っておいたと言うのに、何故か書き溜めの「か」の字も出来て居ないと言う体たらく……。
それでも出来る限り週一の更新は出来る様にする積りですので、宜しくお願いします。
もう春も終わりだなーと感じ始めたある日の夜、ワタシは何処かのおエラいさんが主催する「私的な夜会」に参加する為、王城一階小ホールへと続く薄暗い通路に居た。
いや正確に言えば、このまま進みたくなくて、通路で突っ立ったままウダウダしてるところだ。
と言うのも……。
何故か知らねど今夜のワタシ、王女サマの嫁入りもビックリしちゃう様な、ハンパ無くゴージャスな恰好をさせられてるからなんだよね。
魔法の様に結われて飾り付けられた頭(微妙にティアラっぽいモノ付き)から始まって、超絶フリル満載の純白ドレスに極上物の白く輝くハイヒール、大粒の宝石がゴロゴロ引っ付いてる各種装身具と来たら、こんな薄暗い所でもそのキラキラとした光が目に痛いくらいだ。
全身キラキラ輝いちゃってスンゴイきらびやかですよ!
もうきらびやか過ぎて泣きそう……。
「はぁ」
ド派手な恰好が目に入らない様に、視線を前に戻して溜め息。
一応姫の称号を持っているものの、ワタシは王族としては末端の末端、実質は唯の伯爵令嬢だ。
そんなヤツがこんな王妃様も仰け反っちゃうような恰好で、幾ら私的な集まりと言っても王城内で開かれる夜会に現れたらどうなるか?
しかもあろう事か、今夜のワタシは父上と言う名の魔王様の代理出席なので、夜会の「しゅひん」だから始末に終えない。
出席者の貴族共の注目を一身に浴びてボロクソな笑い者になった挙句、袋叩きにされてボロボロになっちゃうのが目に見えてる。
ううっ、考えただけでストレスでお腹が痛くなっちゃうよ……。
「ちちうえは一体何を考えてるのかなぁ」
更なる溜め息を吐きながら、そっと通路の壁に寄り掛かりつつ現実逃避に考えてみる。
前から度々同伴状態で連れ回されてはいたものの、魔王様は一年位前からワタシを単独で各種のイベントに出し捲くるようになった。
しかもそれらについて全く何の練習も無く、予備知識すら与えられない状態で、だ。
つまり何も教えられないまま、ただちみもうりょうがうごめく貴族社会の中に放り出されたって感じだけど、魔王様同伴でも色々な失敗を繰り返して来た若干十二歳(数えだから正確には未だ十一だ)の小娘が、そんな状況に追い込まれて無事で済むわけがない。
そりゃもう盛大に問題を起こし捲くって、大ひんしゅく買い捲りになっちゃうのは目に見えてるよね!
更にその全部が全部、子供なんて影も形も無いマジなイベントばかりと来れば尚更だ。
一体何処の何がミスだったのかとか、全く判らない内に敵認定されちゃうのもしばしばで、酷い時は何時の間にか四面そかになってたことすらあった。
何とかしようとはするんだけど、焼け石に水どころか悪化するばかりだし、もうお手上げって感じの毎回ですよ。
その上「でんか」の称号を持つおエラいさんである魔王様に擦り寄りたいうぞうむぞうがワラワラ寄って来て、あの手この手で仕掛けて来やがるから、それらの対応でも振り回されると言うオマケ付だもんな。
そんな状態で真っ当な貴族の社交をやれって、ムチャ振りにも程があるわ……。
とまあ、そんなこんなで約一年、当然の成り行きと言うヤツで、今や貴族共の間じゃワタシの評判はクソミソ。
密かに貴族令嬢失格の烙印を押されちゃった上に、周囲も敵だらけって感じになっちゃった。
最近じゃ貴族共の間でワタシが何時廃嫡されるか賭けの対象になってるって聞くし、さもありなんって感じだ。
ところが魔王様と来たら、それでもワタシを各種夜会に突っ込み続けて、責め苦を続けて来やがるんだよね。
しっかもその挙句が、こんな見世物パンダみたいな恰好での夜会単独参加なんだから、一体何を考えてるのか頭の中を割って見てみたいわ!
「うへぇぇぇ」
カーッとなってうっかり手を振り上げたら、持ってた純白羽飾り付きの扇が目に入っちゃってゲッソリ。
羽飾りどころか、随所に宝石までちりばめられた扇はこれ一個で庶民の人らが一生食っていけそうな勢いのゴージャスさだ。
ホント、こんな小道具っぽいモノですら、今夜のブツはシャレにならないんだよな。
「でもまあ、ホントに悪いのはワタシなんだよね……」
扇のお陰で毒気が抜かれたのか、ワタシは今日何度目かも忘れた溜め息を吐きながら、魔王様の姿を思い起こした。
まともに会話らしい会話も無い希薄な親子関係ではあるものの、そこは実の親子、馬鹿だのナンだのと言われるこのワタシにだって、魔王様の狙いくらいは判る。
だってワタシは将来、魔王様の爵位や領地を継いで女伯爵にならなきゃいけないんだからね。
それはうぞーんとうごめく王侯貴族共を向こうに回して孤軍奮闘して行かなきゃいけないってことだし、なおかつ、領地領民から母上や弟のクロ君達まで、しっかり守っていかなきゃならないってことでもある。
そんな戦いにおいては練習もクソもない。
いきなり放り込まれようがナンだろうが、独りで何とかしていかないとダメなのが当たり前だ。
信頼の置ける家臣がなんたらとか言う人も居るけれど、ブロイ家の家臣連中なんて大抵はコワい魔王様の下僕同然だから信頼以前の問題だし、そもそも誰が裏切るかも判らん世の中で、自分や家族の生殺与奪を他人にホイホイと握らせるような馬鹿は居ない。
何しろあの魔王様ですら、良く独りで考え込んでる時があるくらいだからね。
トップのヒト(あんなヒトは人じゃない)って孤独なんだなぁ、としみじみ思い知らされちゃいますよ。
ともあれ、要するに魔王様は口には出さないまでも、ワタシにそんな将来の予行演習をさせたいみたいなのだ。
勿論、それに気が付いてるワタシだって丸っきり馬鹿ってワケでもないから、ヘンにイヂケてる場合じゃ無いと、色々な勉強とかもしてみた。
世の中にはいきなり当主に死なれちゃって、子供の内にそう言う状況に追い込まれた貴族子弟の話もあるんだし、たかがイベント参加程度でくじけてちゃ話にならんと精一杯努力してはみたのですよ。
でもねぇ……。
人には向き不向きがあるって言うか、ブタに空を飛べって言ってる様なモンで、何をどう頑張ってみても裏目に出るって言うか、何故か大抵は宜しくない事になっちゃうんだよねぇ。
なんて言うか、致命的に貴族に向いてないんだよな、ワタシって。
はぁ……。
「オッホン!」
とりとめも無く考え込んでたら、後ろからイヤな声で咳払いが聞こえてきた。
この声は紛れも無く、監視役として同行して来た上屋敷(王都屋敷)侍女頭のおばはんの声だ。
意味は勿論『早よ行けや』である。
魔王様の下僕共は今日も平常運転!
ご命令の遂行は絶対だ。
このおばはんに限らず、ヤツらブロイ家家臣連中はほとんどがロクなヤツらじゃない。
おっかない魔王様の顔色を伺いながら、常に受動的にご命令を遂行していくだけの下僕同然な連中だからね。
特にワタシへの対応は酷くて、常日頃は目を合わす事すら無く、まるで空気か何かの如く扱ってるのに、いざ魔王様のご命令が出れば、突然目が覚めた様にちやほやし始めたり、無理矢理にでもそれに従わせようとして来やがる素敵マン(及びウーマン)に大変身しちゃうのだ。
今日だっていきなり捕縛されて、問答無用で風呂だのナンだので磨かれた後、コレでもかと飾り付けられて此処まで引っ立てられて来たんだから、笑えない話だよな。
「ハイハイ、行きますよ。行けばイイんでしょ!」
もうどうにでもなれ! って感じになったワタシは捨てゼリフも空しく、仕方無くノロノロと歩き出した。
どっちみち魔王様のご命令には逆らえないし、逃げ道も無い。
世の中は一に残念、二に断念、三四が無くて五に仕方無し。
何事も諦めが肝心である。
あーあ、今すぐ世界とか滅んでくれませんかね?
◇◇◇◇◇◇◇
「アンナ・マリアンヌ・ブロイ・ラ・マルセリア姫御入来!」
うおっ!?
ノロノロ進みで通路を出た瞬間、呼び出しのおっさんが人の名前をデカい声で喚き散らし、デデーンと楽隊が効果音みたいな音を鳴らした。
思わずビクッとしちゃって苦笑い。
イカンイカン。勝負はこれからだってのに、こんな程度でビビッてたらお話になりませんよ。
もうこうなったら、恰好に負けない派手な笑い者になってやらないと気が済まないからねっ。
どーせ格好の事だけなら魔王様のせいだし、せいぜいおバカで高慢ちきなアホ令嬢の役を演じきってやるわ!
むむぅと気合を入れてビビり気味になった体勢を立て直し、ワタシは昂然と頭を上げた。
よし、前進だ!
「おおっ!」
「これはこれは」
「ほほぉ!」
うわっ、何この人数!?
気合と共にゆるりと参加者達の前に出てみれば、想像を遥かに超える凄い数の人達がどよめきと共に拍手で迎えてくれてビックリ!
私的な夜会って聞いてたからせいぜい五十人程度だと思ってたのに、軽く三倍は居そうですよ。
こりゃ笑い者になるって程度じゃ収まりそうも無い雰囲気だわ。
「姫様!」
「ルーベンス様ぁ!」
と思ったら助けの神サマの声が聞こえて、思わず反射的に大きな声で名前を呼んじゃう。
声を掛けながら寄って来てくれたのは数少ない仲良しサンであり、外務卿でもあらせられるルーベンス様だ。
縦にも横にもおっきいルーベンス様のビア樽の様なお腹は密かなワタシのお気に入りで、ペッタリと貼り付いてポヨポヨとした感触とおっさん臭に包まれると、何かとっても安心した気持ちになれて嬉しくなっちゃうのですよ。
しかもそれをやるとルーベンス様も嬉しそうな顔をして頭を撫でてくれるので、正にウインウインの関係と言える!
「申し訳ありませんな。内々の事であったのに随分と参加者が増えてしまいまして……」
汗を拭き拭き側までやって来たルーベンス様に、その場で貼り付きたい衝動をググッと堪えてご挨拶を済ますと、彼の口から少し意外な言葉が出て来た。
と言うか、入った直後に寄って来てくれてる以上、彼がこの夜会の主催者なのかな?
主催者ならしゅひんの接待役だから色々と助けて貰えるので、とっても助かっちゃった気がするものの、この夜会が外務卿なんて超おエラいさんが仕切るモノだとは全く聞いてない。
「い、いえ、お気になさらず。でも今夜の夜会がルーベンス様のご主催だったなんて存じませんでした。ご一緒できて嬉しいです!」
貴族共の視線を躱す為、ルーベンス様のお腹の陰に隠れながらとりあえず確認。
「おお、そうでありましたか。些細な事柄であるゆえ、殿下におかれてはお話しにならなかったのでしょうな。しかし本日はもう御一方の主賓がおられますから、姫様におかれましては、私などに頼らなくても御安心頂ける筈でありますが……」
「もう一人、で御座いますか?」
「ええ、ええ、そうですとも! この記念すべき夜会の主役は姫様達でありますからなっ。私如き者の事など全く持って些細な事であります!」
なにゅうん?
ちょっと興奮気味に赤い顔して捲くし立てたルーベンス様の返事に疑問符が沸く。
ワタシはこれでも一応夜会のしゅひんである筈だ。
なのに、主催者がそのしゅひんを放っておいても良い様な物言いをするなんて何事なんだろうか?
「おおっ、いよいよ御登場の様で御座いますな!」
ちょっと考え込んでる内にルーベンス様が声を上げたので、もう一人とは何者かと入り口に目を向ければ、良く見知った意外な人物が見えちゃって超ビックリ!
「マルシル王国王太子、フィリップ・ルフォール・ラ・マルセリア殿下!」
「へぇっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出ちゃったよ。
だって呼び出しのおっさんの声を掻き消すような盛大な拍手に迎えられて入って来たのは、紛れも無く王太子殿下であらせられ、ついでに幼少の頃から可愛がってもらってる従兄弟のフィル兄さまだったからだ。
直後にこちらを見たフィル兄さまの、物語に出て来る様なキラキラした王子様スマイルにお愛想じゃない微笑みで応えるも、心の中ではゲンナリ。
王太子殿下がお出ましになられちゃう程マジな夜会でこのカッコって、一体全体何のイヂメだってーの!?
「これは殿下、今夜も御機嫌麗しゅう……」
ニコニコしながらこちらへやって来るフィル兄さまに儀礼的なご挨拶をするルーベンス様を横目で見ながら考える。
これはマジでヤバイ。
フィル兄さまがこう言うイベントに出る時は、王太子殿下であるのでかなり派手なファッションでご登場されるのだけど、今夜に限ってはあきらかにワタシの方がド派手でゴージャスな恰好だ。
そんな対比を見られたら最後、貴族共が「王太子をないがしろにした」とか「王家を見下す積りか」とか、色々と難癖を付けてインネンを吹っかけて来るに決まってる。
ううっ。一体全体、どうやって誤魔化せばイイんだよ……。
「ま、今更どうでも良いか」
独り言を呟きつつ、考える事を放棄する。
拳闘士控え室のサンドバック状態になる事はもう確定なんだから、一発や二発を防いでも意味なんて薄いもんね。
貴族共への対応を諦め、ワタシは何時もの必殺ノーガード戦法に徹する事にした。
来るなら来いやぁ、こっちの打たれ強さを見せ付けてやるよ! って感じだ。
勿論、出来れば手加減とかして欲しいとは思うけど……ムリだろうなぁ。
はぁ。こりゃ今夜はオールナイトで砂漠の彼方の秘術「呪いのワラ人形」を試し捲くって、ストレス解消にでも勤しむとしますかね。
当然ながら、ワラ人形に付けるお名前は魔王様で決定だ。
屋敷のデカい柱に思いっきり打ち付けてやれば、少しは気も晴れるだろう。
でも意外に繊細なところがある魔王様ってば、そう言う事をやると真剣に怒るんだよな。
単なる嫌がらせの類でしかないのに、メンタル弱過ぎなんじゃないの?
本日もこの辺までで終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。