175話
書けましたので取り敢えず更新させて頂こうと思います。
おエラいさん達の処置を終え、十頭程のワンちゃん達に見張りを頼んだワタシは部屋を出ると屋上へ駆け上がった。
下を見ればだだっ広いそのエリアはもう全域がワンちゃん達の制圧下に落ちた様で、もはや聞こえる喧騒の中身はほとんどが彼らの声だけだ。
「流石にこっちはもうイイか」
未だにワンちゃん達を吐き出し続ける召喚陣の穴を睨み、一つずつソレを閉じて行く。
此処まで来たら武力制圧はもう終わりと言って良いだろう。
予定より大分早いけど、後はマルコさん達に任せて本格的な占領作業に移行してもイイかも知れない。
古砦の守りに残して来た部隊を除いた、二百を超える占領部隊の面々にはそれぞれにワタシ謹製の精製魔石を持たせてある。
人間の魔法士には判別不可能のレベルながら、それらには微かにワタシの魔法力が残るらしく、ワンちゃん達にはそれで敵味方が判るんだよね。
だから彼らは容易にワンちゃん達と共闘出来るので、この状況の只中でもラクに動けるってワケだ。
「んん!?」
しかしマルコさん達に向けて信号花火を打ち上げようとインベントリに手を突っ込んだ瞬間、眼下でイヤな気配が動いた。
敵影は一つ。
ぐちゃぐちゃに反応する探知魔法もどきに映る影を見ても、それは一見、一匹のワンちゃんの様に見える。
でも今のは明確にこっちを視認した気配だ。
ワンちゃん達はワタシを目で確かめたりはしないから、アレは敵の生き残りで間違い無いだろう。
「さて、どうしたもんかな」
一言呟いて考える。
コイツは何故逃げないのか?
普通、こんな状況になったらもう盤面を引っ繰り返す事なんて出来無い。
そんな事はもうどんな馬鹿にだって判るほど、状況は決したといってイイ。
それなのに、ワンちゃん達はおろか探知魔法もどきすら擦り抜けられる程高度な隠蔽技を持つヤツが何時までも此処に居残っている理由は……。
「逆撃の機会を狙っている、としか考えられないか」
自分で呟きながら、背筋を冷たい何かが走り抜けるのを感じた。
あのおエラいさん達の謎の行動も、ソイツが盤面を引っ繰り返すのを待ってたと考えれば辻褄が合う。
ただ単にこっちの攻城方法が予想外のやり方だったから計算が狂っただけで、アレはアレで初めから想定内の動きだったのかも知れない。
何しろ今の状況からではこちら側の総戦力なんて測りようが無いから、どんなスーパー級の人外サンだって逆激なんか出来っこ無いもんな。
だから恐らくソイツは今、ワタシの手の内を見極めながら占領部隊の人達が来るのを待ってる筈だ。
此処が完全に制圧される瞬間を待って、その直後に行動を開始する積りなんだろう。
我慢強く最後の最後まで待ち続けて、相手側の戦力を完全に見極めた後、爆発的な暴力で盤面を一気に引っ繰り返す腹なんだ。
そしてその時は既にワタシが居なければ更に都合が良い。
それを仕事と割り切るヤツなら、一人が一軍に匹敵する鬼札同士がぶつかるのは悪夢だからね。
パンツ一丁で壁に張り付いた方が簡単なのに、ワンちゃん達に紛れ込んでる理由は多分ソレだ。
ワタシは瞬間的に決断してスパッと中庭に飛び下りた。
「何処に行った?」
しかし探知魔法もどきでガンを付けてた筈なのに、降りた直後にはソレを見失っててアセる。
野生のカンがガンガンと警鐘を鳴らし捲くる中でキョロキョロしてると不意に明後日の方向から声がした。
「無限格納の魔法なんざ、ン十年振りに見たぞ。速度の無い世界では時間も流れないって聞いたが、概念を教えて欲しいものだ。それを聞かなかったお陰で、俺の知る術式は未だに宝の持ち腐れなんでな」
「何処の誰とも判らないヤツに教える義理は無いよ。まあ確かに時間経過が遅い事は認めるけどね」
憎まれ口を叩きながら今の話を反芻して転がってる木々に視点を移せば、葉は青々としてて、まるで今さっき切り倒した物の様に見える。
元々ストレージもどきの中の時間経過はおかしいと思っていたけれど、幼女化の後は遂に此処まで来たかって感じだ。
アレの町でも査定師のおっさんが「綺麗な切り口」とか何とか言って変に疑ってたしね。
「まるでさっき倒した獲物の様に見える」とでも言いたかったのを、しぶちょーの雰囲気から空気を読んで黙った風だったもんな。
謎現象として無い物と扱って来たけれど、そんな風に言われたら今後はちゃんと検証しないと不味いかも知れん。
「バカか。ソレの中は時間だろうが何だろうがお前の自由自在の筈だ。俺の知る同じ技の使い手はそう言ってたんだがね」
ちっ、カマされたのか。
言葉の内容にちょっと驚きながらも、間抜けな返事をしちゃったらしい己の阿呆さ加減にガックリ。
でも即座に正解を口にするって事は、相当な余裕があるのか、はたまたこっちに「敵意が無い」のか、どっちかだと思う。
「ふうん、それは知らなかったよ。こっちは自主開発のオリジナル技だとばかり思ってたから、未だ検証中なんだよね……」
そこだっ!
探知魔法もどきだけでなく、半ばカン頼みも追加してやっと掴んだソイツの影に、連発銃を三発つるべ撃ちして弾丸を叩き込む。
ウソッ!?
「弾なんてのはな、対一なら簡単に避けられるんだよ」
確実に当たる筈の銃弾を次々に避けられちゃってビックリ!
しかも薄笑いと共に姿を現したソイツを見れば二度ビックリって感じ。
やや長めでボサボサの黒髪に無精髭を生やした、ワイルド系でチョイ悪(多分全悪だろうけど)っぽいイケメンおじさんですよ。
フェロモンって言うんですか? そう言うのが物凄くって、そこらの女なら見ただけで走って抱き付いちゃいそうな位の雰囲気だ。
どうりで妙にシブいって言うか、甘い声だと思ったわ。
「引き金に掛かる指を見てるってワケ? ちょっと凄いね」
銃弾を避けるにはコツがある。
それは銃口を見ない事と自分のリズムを捨てる事だ。
ししょーに戯れで模擬弾を使ってやられた時には当然出来なかったけれど、教わる事だけは教わったんだよね。
だからソレを口にしただけなのに、ソイツは「我が意を得たり」って感じにニイッと笑った。
「まーな。ちょっとした嗜みだ」
ううっ。コワ目な顔のクセに、笑ったら子供の様な笑顔になるなんて、ちょっとドキッとしちゃうよ。
まだ殺気も何も無いとは言え、この状況でそんな気持ちにさせられるだけで、コイツの「戦歴」が窺い知れるってモンだ。
コイツはトンデモ級のタラシで間違い無いわ。
「他の人達は色々と頑張ってたのに、一人だけこんな所でラクをしてるってワケ?」
「何だかトンデモ無えヤツが乗り込んで来たんでな、高みの見物さ。阿呆共を守れとも言われて無いしな」
うわぁ、これは凄いわ。
フッと表情を変えながらこっちに目を合わせ、何気無く手を払っただけの仕草にまたドキッとする。
多分本人は意識してやってるワケじゃ無いんだろうけれど、ちょっとした仕草が物凄く決まってて、一々ココロを突いて来るんだから溜まらない。
強敵と対してるせいで緊張して、相手の一挙一動に敏感になってる事もあるから余計だよ。
しかし世界は広い。
今の今までこんな男は御話の中にしか出て来ないと思ってたわ。
だって、女の千や二千は斬った(食った)って言っても「成る程」と肯くしか無いくらいの超絶ふぇろもん野郎サマですよ?
しかも気配から伺える戦闘力もフェリクスおっさん級だからシャレにならん。
「お前からは物凄く濃い精霊の匂いがする。昔の知り合いに途轍も無いヤツが居たがそれより更に上だ。興味が出ない方がおかしい」
物凄く濃いのはそっちの方だってーの!
漂い捲くるふぇろもんの嵐に心の中で毒づいて何とか体勢を整える。
ヤバいわ。何か戦う前から既に負けてる感じがするよ。
「アンタ誰?」
「協会第六席、ジャン・クレール・ボーリー。タダの用心棒さ」
何やら無意味にドキドキして来ちゃった中、それでも無闇に流され続けるのを避ける為、先ずは名乗り合いを仕掛けて先手を取ってみると、またもや決まってる仕草で片手を振りながらソイツが答えた。
くっそー、無闇やたらとカッコイイじゃないの!
って、そんなどうでも良い事に感動してる場合じゃないか。
「馬上剣のジャン・クレール?」
気を取り直して聞き返す。
なんたってコレが名乗りの通りなら、コイツはこのワタシでも知ってる、半大陸でも十指に数えられる超有名な剣豪だ。
此処十年くらいは行方を眩ませてると聞いてたけど、こんな所に居たとは知らなかったよ。
と言うか、それなら間違い無くスーパー人外級の実力を持っていらっしゃる筈だけど……。
「ああ、そうだ。で、お前さんは?」
「流れの従騎士、マリア・コーニス。子供共のお迎え役だ」
「ふうん……」
やっぱ本人の様ですな。
しかし、言うに事欠いて「ふうん」って返事は無いと思う。
舞台上で聞く様な台詞をカッコ良く決めて来やがったふぇろもん野郎に対抗する為、気張ってそれらしい物言いをしたってのに、丸っきり御構い無しって雰囲気ですよ!
しかも直後にボーリー氏は、何気無い仕草で紙巻を取り出して火を点けやがった。
それがまたエロい!
いや何て言うか、火の点いた紙巻を吸う傍ら、ソレを弄ぶ指使いがなんだかとってもせくしーな感じでクラクラしちゃう。
立ち位置は全く動いてないのに、妙にグイグイと迫って来る感じまでするし、この状態はマジでヤバい。
コレってもう立派な攻撃だよな。
「ソイツは凄いな。あのランベルトのケツを炙った、売り出し真っ最中の若き英雄様じゃないか」
「え、英雄なんてガラじゃないけどね……」
へっ?
「ふうん」って言ったのは、サラッと流したワケじゃ無くて、唯の溜めだったんですか?
思わず返答を噛みそうになって、ちょっとドモっちゃいましたよ。
くっそー、ふぇろもん中年野郎の話術に翻弄されてる感がハンパ無いわ。
でもこっちにだってそのテの切り札はある。
これは敵方の騎士との対一の名乗り合いだし、ましてやソイツが有名な剣豪サマと言うなら、こっちもただ名乗るだけじゃ悪いもんね。
オラオラ、この妖精フェイスをとくと拝みやがれってんだよ!
「!」
ワタシが隠蔽魔導具をオフにして素顔を晒してやると、案の定、ボーリー氏は酷く驚いた顔になった。
にゅっふふふ。どうよ?
そっちが御話に出て来る様なふぇろもん野郎サマならば、こっちだって物語の中に出て来る様な妖精姫フェイスだ!
経験はともかく、外見だけなら負けてないぞっ。
しかしボーリー氏は驚きの表情になったと思ったら、勝ち誇るこっちを無視するかの様に、何か眩しい物でも見る様な、それでいて何処か懐かしげな表情になって固まった。
しかも何だかそのままマジで動かなくなっちゃたから困る。
えっと、ワタシ未だ何もしてないよね?
この妖精フェイスにそれ程感動したって感じにも見えないし……どうしてこうなった?
「……神サマってヤツも中々粋な事をするモンだ」
泣き出しそうな感じにも見える表情のまま固まるボーリー氏にどうしようかとオロオロしてると、何とか復帰したらしい彼がそう言って背後の扉を蹴り開けた。
「何の真似?」
少しホッとしながらも、何をする積りかと訝しんで睨み付ける。
さっきから色々とやられ捲くってる(主に精神的に)状態だし、この行為がまたもやヤツの手練手管の一つである可能性は高い。
少なくとも、一拍置いてさっきまでのオレ様状態に復帰して来るんじゃないのかな。
ところが、そんな風に考えるこっちの思いを丸っと無視して、クルっと振り向いたボーリー氏は切なそうな笑みを浮かべてワタシの目をジィッと覗き込んで来た。
「悪いが……ちょっと付き合って貰えないか?」
ぐふぅっ!
クッと胸の中の何処かが掴まれてしまった感じで、今までより一際大きく胸が高鳴った。
と言うか、正直に言おう……キュンと来ちゃったわ。
ついさっきまで自信満々っぽいワイルド系野郎サマだったのに、泣き出しそうな顔で固まった後、そんな切ない顔で目を合わせて来るなんて反則だ!
しかも覗き見える部屋の中には何故か「丁度良い感じのソファ」まで見えちゃってるし……コレって色々とヤバいのでは?
マズいマズいマズいッ。
ワンちゃん達の喧騒がすうっと遠くになった気がしたワタシは心の中で己を叱咤した。
さっきの「キュン」で妙にココロを掴まれちゃってる気がするのは恐らく気のせいでは無い筈だ。
ここでそっと優しく手でも引かれて『済まないが一目惚れなんだマリー。イヤだったら言ってくれないか?』なんて囁かれちゃったら、『えっ…だってワタシ達、今知り合ったばかりじゃ……』とか言うのが精一杯な気がする!
こう言う時、あくまでもこっちの意思を尊重する様な物言いで、かつ握り締めずにそっと手を引くのがミソだ。
何時でも振り切れるようでいて、しかし絶対に離さない……そんな微妙な力加減がモノを言うのだよっ。
そんなあやふやな形で押されて迷ってると、甘い囁き&柔らかい物腰と動作が連続して、あっと言う間に唇くらいは奪われちゃうからね。
かつて似た様な事をやられて「大人のキス」とやらでファーストキスを奪われちゃったワタシが言うんだから間違い無い!
『アン、ボクじゃ駄目かい?』
イケメンクソ野郎の涼しげな微笑みとやらが心中に蘇り、一気に怒りに火が点いたワタシはググッと両手を握り締めた。
ぬにゅうぅぅぅ。ホント、ちょっと思い出しただけで激ムカっ腹が立つわぁ。
殺したいとまでは思わないけれど、何発かは顔面に全力パンチをブチ込まないと気が済まない!
「ケッ、イケメンクソ野郎の爛れた手口に引っ掛かる程、こっちはお安くないっての! 何かの時間稼ぎかよっ?」
しかし怒りのお陰で妙な呪縛も振り解けたので、取り敢えずのお返事を食らわして何とか体勢を整える。
良しっ、これできっと大丈夫。もうふぇろもん野郎の手練手管には乗らないぞ!
とは言え、危うい所であった。
魅了の魔法を使われたワケでも無いのに、一瞬で術中に引きずり込んで来るとは流石は海千山千のイケメン中年だよ。
若い野郎サマには無い熟練の技術って言うんですか?
恐ろしい体験をしてしまいましたな。
「オイ。俺は未だお前に何もした覚えは無いぞ。子供のクセに自意識過剰か?」
「あー、ハイハイ。そうですねー、ワタシなんてお子様ですよねー、自意識過剰ですよねー」
けっ。自分のワザが通じなかったからって、今度は腹いせに子供呼ばわりかよっ。
自ら「未だ」とか言ってるクセに、自意識過剰はどっちだって言うんだよね!
「お前が何故不機嫌になったのかは判らんが、唯の時間稼ぎにこんなモノは出さないさ」
「えっ、それってまさか……」
ニヤりと笑みを浮かべてボーリー氏が出したのは一本の古びたワインの壜だった。
モロに経年劣化が伺えるラベルには手書きと思しき書体で字が書かれている。
印刷では無いラベルが付いてるワインなんて、この世には「捏造」か「本物」かしか無い筈だけど、もし本物なら、ソレは醸造元が特別に作ったブツだ。
しかも薄っすらと読めるその文字の中に「セロリンガ村」と言う文字を発見しちゃったから、これはもう只事じゃ無い。
「子供達を確保しておエラいさん方も拘束した以上、もうお前のやる事は終わってるだろ。それに幾ら犬共が頑張ってるとは言え、制圧完了にはまだまだ早い。例えこの勢いが続いたとしても、たっぷり半刻(約三十分)以上は掛かると思うぞ?」
ボーリー氏が何か色々言ってるみたいだけど、そんなのはもうまるで耳に入って来ない。
セロリンガと言う名は確か、ワタシでも知ってるガルーノ王国屈指の有名なワインの銘柄が作られてる村の一つの筈だ。
その銘柄と言えば……。
「ま、まさかボローロのスーパーオールドヴィンテージ!?」
「流石に判るみたいだな。当たり年の五十年物だよ。保管もバッチリだし、滅多にお目に掛かれるブツじゃない事は保障するぜ」
こっちの言葉にヒュウと口笛もどきで答えたボーリー氏が、更に聞き捨てならないセリフを吐いた。
ぬ、ぬにゅう……これはズルい!
「や、やり方が汚いよ、そんな……」
何とか声を絞り出して溜め息。
だってボローロのそんな凄いヴィンテージなんて、生まれて初めて見るんだからしょうがない。
全く。ラウロ君達も含めてガルーノ絡みが多いと思ったら、最後はそう来たかって感じだ。
ワタシはそっと息を整えると、もう一度その壜を見直した。
このボローロと言うワインの銘柄はガルーノ王国産の中でも屈指のブツだけど、西聖王国製のブツに比べればそんな凄い値段がするワケじゃないせいで、逆にン十年物の本格的なヴィンテージを囲ってるのは関係する王侯貴族か生産者の地主位だと言われてる。
お陰でヴィンテージ向きの葡萄を使ってる筈なのに、マルシル辺りには二十年物のブツだって滅多に流れて来ないのだ。
マジで超レアモノと言って良い。
こんなチャンスは滅多に無いし、どうしよう?
勿論考えるまでも無く、乱戦の最中にお酒なんて論外だ。と言うか、こんな剣豪野郎を前にしてそんな余裕カマすとか有り得ないだろうと思いつつ……。
超飲んでみたいんですけど!
「おいおい。とっておきを飲ませてやろうと言うのに、汚いなんて言い方は無いだろう?」
ワタシはエロ系の誘惑には強い(さっきは危うかったけど)が、飲食物系と可愛い物系の誘惑には極めて弱い。
ヘラヘラと笑うボーリー氏に若干の殺意を覚えながらも、気が付くとワタシは部屋の入り口に立っていた。
とってもマズいです。
しかも見ればボーリー氏は、こっちの逡巡もお構い無しでスポンっと栓を抜くと、新たに出した二つのワイングラスにとくとくと中身を注ぎ始めちゃいましたよっ。
うわぁ。そんなんしちゃったら、もう今直ぐ此処で飲むしかないじゃんか!
「デキャンタは?」
「澱なら魔法で底に固めてあるから気にしなくてイイ」
何とか体勢を立て直そうと「古酒を直でグラスに注ぐなんて無謀!」と言う意味の抗議を入れれば、物の見事に一言で返されちゃってガックリ。
ちっ、やっぱ素人じゃなかったか。
しかしそうこうしてる内に、何だかとっても素晴しい香りがこっちまで!
も、もうダメだぁー。
「た、確かに今の状況はアンタの言う通りだし、そんなレアモノまで出されちゃったんなら、半刻くらいは付き合うよ」
ヘラヘラ笑いが続くボーリー氏に「チクショウ!」と思いながらも扉を蹴り閉め、ワタシはソファに座った。
色と美酒の二段構えとは恐れ入ったわ。何だかヤり合う前に完敗しちゃった気分だよ。
今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。